何が愛犬をビビリにするのか?5つの後天的要因

文:尾形聡子


[photo by mbtrama]

恐怖は犬が生きていく上で決して不要な感情ではありません。しかし恐怖や心配、不安といった感情があまりにも強ければ世の中に対する恐怖も強まり、生活の質(QOL)を低下させる恐れがあります。

犬が怖がりになる要因には大きく、遺伝的要因と環境的要因とがあります。生まれながらにして備わっている先天的で遺伝的な気質(それらを決定する複数の遺伝子)と、生まれ育った環境やその後のさまざまな生活環境の相互作用によって、個体の怖がりレベルがつくられていきます。

怖がりな犬、すなわちビビリであることがなぜ犬のウェルフェアに関わってくるのかについては、藤田りか子さんの『ビビリの犬は動物ウェルフェアに関わる問題です』をぜひご参照いただくとして、今回はフィンランドのヘルシンキ大学発の犬の恐怖についての最新研究を紹介したいと思います。

ビビリの犬は動物ウェルフェアに関わる問題です
文と写真:藤田りか子 過度なビビリは心のハンディキャップ "のんき者は長生きする"               〜シェークスピア〜 飛行機に…【続きを読む】

研究者らは、犬の過度な恐怖心は犬の福祉を脅かすもっとも深刻な問題のひとつとして捉え、恐怖を引き起こす遺伝的要因と環境的要因との相互作用を明らかにし、犬の心身の健康を改善すべく研究を続けています。『怖がりな犬についての大規模調査~フィンランドの研究より』に続く研究として、最近『Scientific Reports』に発表された研究では、犬の社会的恐怖を引き起こす可能性のある要因に迫っています。

犬の社会的恐怖に着目

何によって恐怖が誘発されているかにより、恐怖は大きく2つに分けられます。ひとつは見知らぬ人や犬など社会的なものから受ける刺激による恐怖で社会的恐怖と呼ばれています。もうひとつは騒音や新しい環境、見慣れない物質など非社会的なものから受ける刺激によるもので、それは非社会的恐怖といわれています。研究者らは今回、犬の社会的恐怖に着目し、そこに関連してくる可能性のある要因、性別や不妊化状態、犬種、体の大きさ、社会化スコア、都市環境スコア、トレーニングやアクティビティへの参加、毎日の運動などとの関連性を特定しようとし、フィンランドに暮らす犬を対象に大規模アンケート調査を行いました。

データ解析に使われたのは「犬への恐怖」と「見知らぬ人への恐怖」についての回答、それぞれ約6,000頭分ずつでした。「犬への恐怖」については恐怖を抱く犬1,167頭、抱かない犬4,806頭、「見知らぬ人への恐怖」については恐怖を抱く犬896頭、抱かない犬5,036頭が対象に。両データの犬の年齢は2~17歳(平均年齢約4.6歳)、性別はメスが少し多く51%、小型犬のチワワから大型犬のジャーマン・シェパードまでさまざまな犬種が含まれていました。


[photo from pixabay]

犬への恐怖と環境要因との関連

解析の結果、犬への恐怖ともっとも強く関連していた要因は以下3つでした。

  • 社会化経験:子犬時代(7~16週齢)に社会化経験の少ない犬
  • 体の大きさ:恐怖レベルの高い順に、小型犬>中型犬>大型犬
  • 犬種:チワワ、シェットランド・シープドッグ、スパニッシュ・ウォーター・ドッグ

■不妊化手術状態との関係

  • オスメスともに手術済みの犬は未手術の犬よりも恐怖レベルが高い
  • 手術済みのオスとメスの恐怖レベルにはほとんど違いがない
  • 未去勢のオスがもっとも恐怖レベルが低い
  • オスの方が手術による影響が強い

■年齢との関係

  • 2~8歳の犬がもっとも恐怖レベルが高い
  • 8歳を過ぎると少しずつ減少していく

これらが示されましたが、これについては先日『加齢によって犬の性格はどのように変化していくもの?』で紹介した研究結果とは少し異なっています(その研究では年齢と恐怖には有意な関連性は見られていませんでした)。

■その他の要因

  • 都市環境に住む犬
  • トレーニングやアクティビティへの参加頻度が低い犬
  • 毎日の運動量が少ない犬:1日の運動量が1時間未満(1~2時間、3時間以上と増えれば増えるほど、恐怖レベルがぐっと低くなる傾向がある)

見知らぬ人への恐怖と環境要因との関連

見知らぬ人への恐怖にもさまざまな要因が関連していました。が、それらのほとんどは犬への恐怖と同様の傾向を示していました。以下、人への恐怖の高まりと関連する要因です。

  • 子犬時代(7~16週齢)に社会化経験の少ない犬
  • 体の大きさ:恐怖レベルの高い順に、小型犬>大型犬>中型犬
  • 性別:オスよりもメスが高い
  • 不妊化手術:手術を受けている犬
  • 犬種:スパニッシュ・ウォーター・ドッグ、シェットランド・シープドッグ、チャイニーズ・クレステッド・ドッグ
  • 都市環境に住む犬
  • トレーニングやアクティビティへの参加頻度が低い犬

対犬とは異なっていたのは、対人においては年齢との関連性が見られなかったことです。また、対犬のときには出てこなかった要因として以下のふたつがありました。

  • ひとりまたはカップル(大人2人)と暮らす犬の方が、2人の子どものいる家庭に暮らす犬よりも対人への恐怖レベルが低い
  • 7~8週齢で母犬と離れた犬は8週齢より後に離れた犬よりも対人恐怖レベルが低い

このように、対犬、対人それぞれへの恐怖と関連する要因は大きくかぶっている結果が示されました。まとめると、社会的恐怖を抱く可能性が高まる要因として、社会化期の経験がとぼしい、小型犬である、メスで不妊化手術済み、トレーニングやアクティビティへの参加が少ない、そして、都市環境に住むという5つが示されたといえます。さらに、先天的な要因である犬種差も影響している結果ではありましたが、より正確性を求めるにはさらに各犬種のサンプル数を増やす必要があると研究者らはいっていました。


[photo by Mr.TinDC]

社会的恐怖にかかわる主な5つの要因についての考察

今回の結果の中で、対犬、対人両方にもっとも強い関連がみられたのが社会化期の経験レベルです。社会的恐怖心の発生は社会化期の過ごし方が非常に重要で、その時期の経験の多様性や機会の多さ、適切なタイミングに強く依存している可能性を示すものだと研究者らは考察しています。対人において母犬と離れる週齢による違いがみられたのは、8週齢よりも遅いタイミングで新しい家庭に迎えられると、そのぶん社会化経験の機会が少なくなってしまうためと考えられるでしょう。

小型犬の方が怖がりなことに関しては、これまでに発表されているいくつかの研究と相違ない結果でした。小型犬は単純に体が小さいためほかの大きなものに恐怖を抱きやすいことも考えられますが、小型犬はたとえ不適切な行動をとったとしても体が小さいため人が扱いやすく、許容する傾向があり、十分なトレーニングや社会化を行わない場合が多いことが考えられると研究者らはいいます。

そして小型犬の場合、繁殖の際に個体の行動が重要なポイントとして考慮されない可能性が高く、ひいてはそれが小型犬種内に遺伝的に蓄積してしまう可能性があるのではないかと。逆に大型犬の方がストレス耐性が高いのは遺伝的にそのような気質が蓄積した可能性があるとも考察しています。つまり体のサイズは、環境要因のみならず遺伝的な要因が強く出ている結果とも考えられるということです。

性別ではオスよりもメスの方が社会的恐怖が強いという傾向がみられたのは、これまでの研究結果でも示されていることです。また、手術によるホルモンバランスの変化が恐怖心を高める傾向にあるという結果も同様です。さらには手術をする・しないだけでなく、手術を行う時期によっても行動への影響の出方が異なってくる可能性があるのは、『早すぎる時期は悪影響?不妊化手術と行動の関係』でも紹介したとおりです。

トレーニングやアクティビティにほとんど参加しない犬は、時々または毎週参加する犬と比べると恐怖を感じる可能性が非常に高いことが分かりました。さらには犬への恐怖は日々の運動量とも関連していたことから、アクティビティへの参加と毎日の運動が犬種に特有の本能的なニーズを満たすことにつながり、ストレスをためない方法として機能しているとも考えられます。また、それらの時間が長ければ犬はより環境へ馴致しやすくなり(恐ろしい刺激も含め、それに耐性がつくられていく)、飼い主との双方向のやり取りも増えて絆の形成を促進され、飼い主が犬にとってより強固な「安全なよりどころ」となる可能性も高まることでしょう。

しかしその一方で、飼い主としては、恐怖が強い犬をトレーニングしたり一緒に長時間運動をしたりするのに強いストレスを感じる場合もあり、犬の恐怖が強いからそれらのアクティビティが低下するのか、アクティビティが足りないから犬の恐怖が強まるのか、ある意味ニワトリと卵のような議論になってしまう面もあることは否めません。そのため、研究者らは社会的恐怖とアクティビティなどとの関係をより理解するためにはさらなる研究が必要だとしています。

そして、都会に暮らす犬の方が田舎の自然の多い地域に暮らす犬よりも恐怖が強い傾向にあったのは興味深い結果です。これについては人に関する研究は行われていますが(都市部に暮らす人の方が精神疾患を抱える割合が高い)犬での研究はまだ始まったばかりといえます。明らかなのは都会の方が田舎よりも刺激の種類が多く、刺激を受ける頻度が高く、ほかの人や犬と接触する機会そのものも多いだろうということです。都会に暮らす人のストレスが高ければ、環境をともにする犬はもれなくそれを感じとり、自身へのストレスとして蓄積してしまう可能性もあります。


[photo from pixabay]

今回の結果からこのような考察が繰り広げられるのですが、ともあれ大事なのはやはり、犬の社会的恐怖は環境的な要因に大きく影響を受ける可能性が示されたということだと思います。その程度は性差や犬種など遺伝的な要因も影響してくるものの、社会化期から始まり(そもそも母体の中にいるときから始まっているともいえます)その後の生活においてもたえず影響を受け続けているわけです。

ただし刺激に対して感じる閾値は犬も人もそれぞれに違うものです。ですので、一概に「どの程度なら十分、大丈夫」ということはいえませんが、このような研究結果を参考に飼い主は犬の生涯を通じての環境要因の影響を考慮するに越したことはないと思います。さらに、繁殖に携わる人は遺伝要因への対応として、気質も含めての繁殖管理をしっかりと行うことで、過度に怖がり気質な犬を減らし福祉向上へとつなげていける可能性を高められることでしょう。

愛犬との暮らしの中での対話を通じて、「生きにくくなってしまうほどの恐怖」の種を愛犬に植えつけないよう、もしもともと持っているとしてもそれが育ってしまわないようにしていきたいものです。そして、怖がりに影響する環境要因のひとつには間違いなく飼い主のメンタリティもあるであろうこともどうか忘れずに。

【参考文献】

Inadequate socialisation, inactivity, and urban living environment are associated with social fearfulness in pet dogs. Scientific Reports 2020 Feb 26;10(1):3527.

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