怖がりな犬についての大規模調査~フィンランドの研究より

文:尾形聡子

[photo by geir tonnessen]

人にも犬にも、広く動物には恐怖という感覚が存在しています。恐怖は動物が生きていくうえで必要とされる感情ですが、度が過ぎる怖がりの場合には苦痛をもたらすことがありますし、恐怖と攻撃は切っても切れない関係にあります。『ふたつのホルモンのバランスが影響~犬の攻撃性と親和性』で紹介しましたように、犬の性格に影響する遺伝的な要因を探る研究が進められています。また、音に対する恐怖が遺伝しやすい形質であることは、ラブラドールやジャーマン・シェパードなどを対象とした研究で示されています。しかし、このような性格の遺伝的背景をなるべく正確に解析するためには、恐怖が引き起こす行動についてのきちんとした理解が必です。

恐怖に関係する主な行動には、見知らぬ人・犬や新しい環境への恐怖、大きい音への恐怖、分離不安、攻撃行動などがあります。そこで、実際にそれぞれの恐怖に関係する行動を見せる犬の割合はどの程度で、どのような行動を併せ持つ傾向にあるのかを把握するために、フィンランドのヘルシンキ大学の研究者らは一般の飼い主への大規模なアンケート調査を行い、その結果を『Journal of Veterinary Behavior』に発表しました。

研究者らは35問にわたる細かなアンケートを作成し、フィンランドのさまざまな犬種クラブやインターネットを通じて回答を募ったところ、192犬種3,284頭の犬についての回答を得ました。アンケートを解析した結果、大きい音への恐怖を見せる犬は全体の39.2%、見知らぬ人や犬、新しい場所への恐怖は26.2%、そして分離不安を抱える犬は17.2%いました。

恐怖に関係する行動を併せ持っている犬が多い

これらの恐怖に関係するそれぞれの行動は、高い割合で個体に併存していることも示されました。怖がりの犬はそうでない犬と比べると、大きな音に対してより敏感で、見知らぬ人や犬、新しい場所に恐怖を抱きがちで、かつ分離不安である傾向が見られたり、より攻撃的であることが示されました。

音への過敏性をみると、雷、花火、銃声それぞれの恐怖はとても高い関連性があり、雷を怖がる犬の92.9%が花火も怖がり、73.8%が銃声も怖がることが分かりました。同様に、花火を怖がる犬の71.8%が雷を、70.1%が銃声を怖がること、銃声を怖がる犬の90.3%が花火を、74.5%が雷を怖がるとも分かりました。サイレンや掃除機などほかの大きな音への恐怖と、雷、花火、銃声への恐怖との関連性はどれも50%程度と、それほどまでには高くないことも示されました。

また、犬が大きい音を怖がっているのに初めて気づいたときの年齢の中央値(小さい順にデータを並べた時の真ん中の値)は2歳で、8週齢から10歳にわたっていました。これまでの研究では最初の1年のうちに音を怖がりはじめる傾向が示されていましたが、今回の研究からは、より幅広い年齢層で音を怖がるようになりはじめる結果が示されました。

ちなみに恐怖に関係する行動それぞれにおいて最もよくみられた反応は、見知らぬ人に会った時には”避ける”、新しい場所や状況では”パンティングする”、見知らぬ犬に会った時には”吠えたり唸ったりしながら向かっていく”、雷や花火の時は”パンティングする”、銃声の時は”ペーシングする(行ったり来たりうろうろする)”だったそうです。

今回の大規模アンケート解析により、怖がりの犬には様々なタイプの恐怖に関係する行動が併存する傾向が示されたことから、研究者らは、恐怖に関わる行動に関係する遺伝的な背景が共通して存在している可能性を示唆するものだといっています。

飼い主による恐怖の評価は必ずしも一緒ではありませんし、実際に犬が怖いと感じる程度も違うでしょう。しかし、意外にも多くの犬が何らかの不安や恐怖を抱えているという結果をみるに、犬という生き物は全般的に怖がりになりやすい傾向にあるのかもしれないと思いました。一般の家庭だけでなく、獣医療や繁殖、保護施設など犬と関わる現場においても犬に対してそのような意識を持っておくことも大切かもしれません。

(本記事はdog actuallyにて2017年1月24日に初出したものを一部修正して公開しています)

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【参考サイト】
Psychology Today