ボーノは日本一のマツタケ犬 ?!:マツタケ探知犬ハンドラーのジュンペーさんにインタビュー

インタビューと文:藤田りか子

写真&動画提供:矢野淳子

今回はおそらく日本一のマツタケ探知犬、ボーノそしてそのハンドラーのジュンペーさんについて紹介したい。

ドッグダンスの世界にいる方ならドッグトレーナー、ジュンペーさんこと矢野淳子さんそして愛犬のラブラドール・レトリーバー、ボーノのことはご存知だろう。これまで息のあったドッグダンス演技を見せてきたこのベテランペア。最近ではノーズワークにもトライ。競技会に参加するまでの腕前に。ただし彼らのノーズワーク熱はスポーツだけにとどまらず、実用にも活かされている。なんとボーノはマツタケの探知犬としてのトレーニングも受け、時には1日に10個のマツタケを見つけるということも。

というわけで、ジュンペーさんにマツタケを探す犬としてトレーニングをした経緯や、実用ノーズワークをする楽しさなどについて語ってもらった。

矢野淳子さんプロフィール:ドッグトレーナー 、ドッグダンスインストラクター 。ハンドラーネーム「ジュンペー」。マナーレッスン、ドッグダンス、ノーズワーク、フライボール、etc.の指導。 愛知県及び関西・関東にて出張レッスン。 犬の行動を理解し、正しい行動を身につけられるように細かく分析してトレーニング方法を考えて指導にあたる。パートナー犬は Buono ラブラドール・レトリーバー ♀ 2009年12月29日生。 6ヶ月の頃からドッグダンスの練習を始めドッグダンスコンペで数多くの入賞を経験。 

マツタケ山のおばあさんに誘われて

藤田(以下F):どのようなきっかけでマツタケ探知(サーチ)をボーノに教えるようになったのですか?

ジュンペー(以下J):たしか4年前のことです。私のレッスンに来ていた生徒さんのお母さまに誘われました。その方は毎年マツタケ山に入山する権利を購入していて。そのお母さま、というかもうおばあさんなのですが、以前飼っていた犬ともいっしょにマツタケ山に登っていたそうです。サーチはしてなかったと思うのですが。

生徒さんが「ボーノならいっしょに探せるようになるんじゃないか」ってお母さまに話したそうです。サーチする犬としては、まずノーリードでフリーにできる犬でなければならない(つまり呼び戻しにも必ず応えて戻ってくる犬)。ボーノはその条件を満たしています。私もボーノといっしょに山を歩けるなんて楽しいなぁ、と。で、「これボーノちゃんに」と小さいマツタケももらいました。

F:それで練習を開始したのですね。

J:そうです。すでに家の中でおやつ探しゲームをやっていたので、マツタケを使って同じようにやってみました。見つけたらおやつをあげる、という感じに。その時はまだノーズワークを習う前だったから、ペアリングなんて方法も知らなかったのですよ。

F:初めておばあさんと山に入った時はどういう感じだったのですか?

J:ボーノは最初何をするかわからなかったみたいです。家の中と山の中はまったく環境が違いますから。でも私が何かして欲しいのはわかるから、不安になってピーピー鳴き始めました。それじゃあと、おばあさんが助けてくれました。マツタケを見つけるとそれをすぐに採らずに「ボーノちゃん、マツタケ見つけたよ!おいでおいで!」とまずボーノを呼んでくれました。そしてにおいを嗅がせてそこで私がおやつをあげる、というふうにトレーニングをしました。

マツタケは腐食が進んでない比較的乾燥した土壌に生えるキノコ。

F:その後ノーズワークというスポーツを始めたのですよね。ノーズワークスポーツで習得したことがマツタケサーチにプラスになったことなどありますか?

J:ペアリングという概念やターゲット臭の隠し方をノーズワークから学びました。それから、それまでは家の中でしかおやつサーチをしていなかったけれど、ノーズワークにはエクステリアサーチという科目もありますよね。だから「そうか、マツタケ探知の練習も外で隠して探させればいいんだ」と。ノーズワークでアロマ臭を探させる練習の中で、犬のにおいの探し方やしっぽの振り方なんかを見て、発見したときの表情やしぐさ、つまりアラートですね、もわかるようになりました。

人の知識と犬の嗅覚のコンビ、これぞ本当の共同作業

F:先日のマツタケ狩りではボーノが10個も見つけたということですが、ノーズワークをやってから彼女の探知性能があがったという可能性もありますか?

J:絶対にそれはあると思います。ノーズワークをやるようになって頻繁にアロマ臭を探す練習をしますよね。そのおかげでボーノにサーチの経験がつきました。空中からにおいをとって走りだし、その後地面のマツタケを探し当てたことがあるんですが、そんな様子を見るとやっぱり臭気の流れを経験で学んだにちがいない、と。

F:ノーズワークの練習で、ジュンペーさんにも自信がつき、ボーノもより安定してサーチを始めたとかある?

J:ええ。でも逆にマツタケのないところで「サーチ!」というとキュンキュンいいます。私にはもちろんあるかないかわからないわけですが…。そして「どうしてないところで探せっていうの?」という顔で見上げます。そのうち、何をしたらいいかわからなくなり、その辺の松の木に手をかけるんですよ!

F:そうか、ボーノにとって「マツタケがない」というのは空気のにおいを嗅げばもう明らかなことですものね!せめて木に手をかければお母さんを喜ばせるかなと思ったのかしら。

J:そう!だからあまり「サーチ、サーチ」と犬に欲求をしてプレッシャーをかけるような状況を作るのは良くないと思いました。ないところにはない、あるところにはあるっていいますから、犬は!

F:ノーズワークスポーツのときといっしょですね。

J:ボーノがマツタケを見つけた瞬間を動画で捉えたくて、見つけたなって思った時に「どこ?」って聞いたら、その時脚で地面を掘ろうとしました。慌てて止めましたよ。普段は見つけても咥えたりしないし、何もしないのに。マツタケに傷をつけられたらもうそれはショックです。やっぱり犬への余計な声がけというのは良くないものだなと学びました。

F:犬としては見つけたのだから「もう作業をこなした!」と思うわけですね。なのにこちらがさらなる声がけをすると「見つけただけじゃ足りないのね!?」と戸惑い「じゃ、これはどう?」と余計な動作をする…。ノーズワークのときもそういうミスを犯すことあります(ノーズワークでは犬がハイドに脚や口で触れるとフォルトになる)。でもマツタケとなると、そりゃもうハンドラーも真剣になりますよね!

J:はい、真剣!だからマツタケサーチでどれだけノーズワークスポーツのハンドリングについて勉強できたかって、思います。

F:マツタケサーチはブラインドサーチだから、というのもありますか。

J:おばあさんのようにある程度山の環境を知っている、というのも犬を使うマツタケサーチには大事なことです。どの辺にマツタケの胞子が落ちるか、とか、どういう風に松の木が生えているところがいいのか、とか。これを人間が察知してから、犬にサーチを求めるのが理想的です。

F:つまり、マツタケのにおいを犬に覚えさせたからといって誰もが山に入ってマツタケを探知できるわけじゃない、まずはマツタケの生態についてハンドラーも知識がなければだめということですね。

J:だから、これって本当に犬と人の共同作業だなぁって。

F:ああ、いいですねぇ!

J:人と犬の作業ってすべてそうなのかと思いました。すごくいい経験させてもらっていると。

F:狩猟犬とハンターの関係と同じ感じですね。もちろん獲物はキノコだから動かないけど!

これがボーノのマツタケサーチのシーン。こんなうっそうとした薮の中を探さなければならないのだ。犬が助けてくれると本当に楽!

本当のブラインドサーチだからこそわかる犬のアラート表現

J:ノーズワークだと見つけたらお座りするなどしてアラート行動を教えるじゃないですか。でもマツタケサーチだと薮だらけでお座りできるような環境じゃないんですよ。でもボーノが草の中に頭を突っ込んで静止する。そのあとに「あったよ!」という顔をする。あれがすごく嬉しい。「お座り」より、あの表情でのアラートの方が絶対に好きです。

F:その一連の行動でジュンペーさんはマツタケがそこにある、って確信するんですか。

J:そう。ノーズワークの競技会なら犬が見つけたと思ったときに私が「アラート!」って言って、誰かが正解か間違いかを伝えてくれる。でもマツタケサーチのときはそんなことをしないで「どれどれ」と私が茂みの中を覗きにゆく。で、マツタケを見つけるわけですが、その時に「ああ、そうか、あれがあの子のあったという表現なんだ」とすごく理解できる。

F:ブラインドであるだけに、その時に犬が見せた表情はより私たちにも印象がつきやすいのですね、なるほど!

J:でね、あった時に本当に目がキラキラしている。

F:ノーズワークの時よりも目がキラキラしているとか?

J:いえ、ノーズワークをやっている時って、私たちはそこまで犬の表情を真剣に見てないだけなんだと思います。

F:そうですね。おまけに練習だとどこにあるか私たちはもう知っているし、競技会だとジャッジが正誤を伝えてくれるわけですものね。犬の表情を私たちがそれほど観察してないの確かです。

J:それにアラートの行動をとってもらおうと、座らせたり、鼻をつけさせたり、自然じゃない行為を犬にしてもらうことになる。でもアラート行動はカッコいいから多くの人がそれを求めようとします。

F:犬の自然な行動を見る目を私たちがすっかり失ってしまいますよね。

J:だから、どうなんだろう?と最近思うようになりました。アメリカのK9 Nose Work®️だと、アラート行動なしでサーチを教えますね。あれでいいんだと。もちろん人それぞれ。ボーノも見つけたらおすわりをしてくれる時もあるし、やっぱりそれをやってくれる方が「そこにあるんだ!」って確信はできます。ただ、犬の自然のアラート表現がどういうものなのか、アラート行動をトレーニングする前にハンドラーが学習する時間がノーズワークにはもっと必要だと思います。おすわりにいたらなくとも、その手前の時点ですでに犬が見つけたな、と見抜ける人にならなければならないと思う。

人が入りたがらないところでも犬は入って見つけてくれる

F:これまでのマツタケ探知作業で一番感動したことは?

J:おばあさんが「この辺も松があるから、マツタケはあるかもね」といって、ある斜面にやってきました。地形が急で、これまでおばあさんですら入ったことがないところです。ところが、そこでボーノがふと空中のにおいを取りました。と次の瞬間突然斜面を走り降りていったんです。それを追いかけるのは大変でした!こけちゃったりして、あはは!ほんとうに、ひさんな場所を降りてゆきました。

F:で、あったんですか?

J:そう、3つもありました、まとまって!でも今回、ボーノのにおいの取り方やその行動がよくわかりました。まず空中に漂うにおいを取り、自分で行ける場所を探るんです。臭源に近づくとこのへんかあのへんかと薮に顔を突っ込みます。ボーノが静止して尻尾をふっているところでシダの葉っぱの下を覗くとちゃんとあるんですね。

F:共同作業ですね、素敵。

J:感動しますよ。そのあとおばあさんが降りてきて「えー、そこにもあったんだ!」って驚かれて。これはおばあさんの山の知識にもプラスになる出来事でした。「やっぱりこの辺も来ないといけないんだね」って。ボーノが教えてくれたって。

F:犬ってやっぱりすごい!

J:その時なんです。ボーノが1日10個見つけたのは。で、おばあさんは2個!「ボーノちゃんに負けちゃった!」とおばあさん負けを認めましたよ。

F:お手柄!

J:採ったマツタケは後で皆でシェア。私はそれでマツタケご飯をつくりドッグダンスの練習仲間にも味わってもらいましたよ。自然の中を犬といっしょに歩くという作業はすごく楽しいです。こんなチャンスをくれる人に巡り会えたというのも本当にありがたく嬉しいことです。

ボーノのお手柄、こんなにたくさんのマツタケを収穫!

そして採ったマツタケはマツタケご飯に。うーーーん、いい香り!

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