文:尾形聡子
これまでの研究で、子どもが養育者に対して抱く”安全なよりどころ”として感じるベースとなる愛着を、犬も同じように飼い主に対して持っていることが示されています。それに続き、ウィーン獣医大学の研究者らによる『PLOS ONE』に発表された新しい研究によりますと、子どもが親に寄せる信頼感と非常に類似性が高い感情を、犬が飼い主に対して抱いていることが明らかにされました。
研究者らは、人間の親子関係の結びつきの基本として知られている “安全なよりどころ(secure base effect)”について、犬と飼い主との関係においてはまだあまり研究が行われていないことに着目して、実験を行いました。要するに、人と犬の関係において『愛着理論』という観点から、犬がなぜ人と共に暮らすことにこれほどまでに適している動物なのか、ということを知ろうとするためです。
事前に犬は、おやつを中に入れられるおもちゃを与えられました。それを転がすなどして中に入っているおやつを出して食べることを学習し、かつ、飼い主がいない状況でも喜んでおもちゃを操作しておやつを得ることができた20頭の成犬を対象に実験が行われました。実験では、実験を行う部屋の中に『飼い主が不在』、『飼い主はいるが黙っている』、『飼い主がいて犬を励ます』という3つの状況が用意されました。それぞれの状況下で実験を行ったところ、犬は飼い主が不在のとき、積極的におもちゃを操作しようとしませんでした。また、飼い主が部屋にいる場合には、励まそうとも黙っていようとも、不在のときに比べて犬がおもちゃを操作しようとするモチベーションがとても高まりました。
追加実験として、研究者らは飼い主のかわりに見知らぬ人が実験室にいる状況をつくりました。すると多くの犬は、見知らぬ人に対して積極的に関係を持とうとせず、さらに見知らぬ人が部屋にいるときには、ほとんどおもちゃをいじろうとしませんでした。むしろ逆に、見知らぬ人が部屋にいない状況のときの方が、おもちゃを積極的に操作しようとしたそうです。つまり、犬にとって見知らぬ人が存在している状況は、おやつを得るための作業をするための”安全なよりどころ”が欠如していることといえます。
これらの結果から、研究者らは、犬が自信を持って行動をとるには飼い主の存在が重要であると結論づけました。また、このような精神的な依存による行動の変化は子どもの場合にも観察されることから、子どもが養育者に対して”安全なよりどころ”と感じる関係性があるのと同様に、犬も飼い主と同様な関係性が存在していることが示されたといっています。
犬と飼い主との関係が良好であればあるほどに、犬の飼い主に対する信頼感は大きくなっていくものだと思います。もちろんその逆も然りで、飼い主の犬に対する信頼感も大きくなっていくはずです。種を超えての関係性が作れるのは、双方向でのコミュニケーションがとれ、信頼関係が築けるからこそで、それは大昔から長きにわたって暮らしてきた人と犬とが、共に進化をしてきたからに他ならないのではないかと感じるものです。
(本記事はdog actuallyにて2013年7月4日に初出したものを一部修正して公開しています)
【参考サイト】
・University of Veterinary Medicine, Vienna Press Release