文:尾形聡子
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人と同様に、犬も年齢を重ねるほど死亡原因となる病気にかかるリスクが高まることが知られています。たとえば、犬の死亡原因のトップであるがんは、歳をとるほど発症リスクが高くなりますが、発症平均年齢は犬種や体のサイズによって異なり、体の大きい犬ほどリスクが高まることが数々の研究で示されています。
大型犬はがんにかかりやすいがために小型犬よりも寿命が短いのか、ほかの病気も寿命に影響を及ぼしているのか、逆に、小型犬の方が長生きするのはがんにかかりにくいからなのか、あるいは病気全般にかかりにくいからなのか、体の大きさと病気、そして寿命との関係について、これまでにたくさんの研究が行われてきています。犬の寿命は犬種によって2倍以上もの差があり、体のサイズが大きな犬の方が寿命が短い傾向にあるのは明白ではあるものの、何がそれに影響を及ぼしているのか、その理由について多くはまだ謎に包まれたままです。
そこで、アメリカの大規模研究プロジェクト「Dog Aging Project」では、犬の体の大きさに関連した寿命について理解を深めるために、犬の体のサイズ、年齢、病歴の関連性を定量化することを目的として研究を行いました。Dog Aging Projectは全米各地に暮らす家庭犬のライフスタイルや環境、健康状態などのデータを毎年収集し、さまざまな角度から犬の老化研究を行っているコンソーシアムで、数々のアメリカ国内の大学がこのプロジェクトに参加しています。今回の研究はワシントン大学が中心となり、Dog Aging Projectに蓄積されたデータを使用して解析が行われました。
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体の大きい犬ほど病気にかかりやすい?
研究者らはDog Aging Projectに登録されている27,541頭の家庭犬のデータを使用しました。オスメス50%ずつ、純血種(238犬種)49%、雑種51%、年齢の中央値は7歳、全米各地に暮らす犬が対象とされました。疾患のカテゴリーは皮膚、感染症/寄生虫、整形外科、消化器、眼、耳鼻、腎臓/泌尿器、がん、心臓、脳神経、肝臓/膵臓、呼吸器、内分泌の13に分類、犬の体のサイズは10kg未満、10〜20kg未満、20〜30kg未満、30〜40kg未満、40kg以上の5サイズに、そして年齢は1歳未満、1〜3歳未満、3〜7歳未満、7〜11歳未満、11歳以上に区分し、解析を行いました。
その結果、犬にもっとも発症している疾患は皮膚疾患で、全体の28.7%に罹患経験があり、加齢とともに増加していることが示されました。そのほかの疾患については、上述した疾患のカテゴリーの記載順が罹患経験の多い順で(皮膚、感染症/寄生虫、整形外科、消化器、眼、耳鼻、腎臓/泌尿器、がん、心臓、脳神経、肝臓/膵臓、呼吸器、内分泌)、感染症以外については皮膚疾患と同様に生涯有病率が年齢とともに高まっていました。
そして、体が大型であるほど、皮膚、整形外科、消化器、耳鼻、がん、脳神経、内分泌、感染症の生涯有病率が高く、小型になるほど、眼、心臓、肝臓/膵臓、呼吸器疾患が多いことが示されました。唯一、腎臓/泌尿器疾患については体のサイズによる有意差は見られませんでした。また、これらの結果は、性別、純血種か雑種か、住んでいる地域を調整して解析を行ってもほとんど変わりませんでした。
[image from PLoS One fig2] 体重の軽い犬に多く見られる疾患。眼疾患(左上)、心臓(左中)、肝臓/膵臓(右中)、呼吸器(下)。右上の腎臓/泌尿器疾患については、グラフにばらつきがあまりないことからも見てとれるように、体重による発症の有意差は見られなかった。
研究者らは、多くの疾患タイプにおいて体の大きな犬ほど生涯有病率が高かったことは、寿命の短さの原因となりうるとし、それらの疾患を個別に研究することで寿命と体の大きさとの関係についての洞察が得られるかもしれないと考察しています。
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今回の研究結果は、さまざまなばらつきを調整した上でのもののため、雑種犬と暮らす人にとっても有用なデータになると思います。また、今回の研究でも大きな犬ほどがんにかかりやすいことが示され、さらに、体のサイズによって発症しやすい病気が異なっていることもわかりました。愛犬の健康チェックに少しでも役立てていただければと思います。
愛犬には健康で長生きして欲しいもの。この機会にぜひこちらの記事もご一読ください。
ちなみに今回の研究に使用されたデータはDog Aging Projectのものですが、そのデータを使用した研究をこれまでにいくつか犬曰くでも紹介しています。ご興味のある方は以下をどうぞ。
しかし残念なことに、アメリカ国立老化研究所がサポートするこのプロジェクトへの資金援助が打ち切りになる可能性があると、先日ニュースで知りました。犬はもちろん、ひいては人の健康寿命への理解にもつながるこのような大規模プロジェクトを続けることの意義はとても大きいと思います。蓄積してきたデータをこれからも活かしていけるよう、プロジェクトの存続を願わずにはいられません。
【参考文献】
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