愛犬のご飯は1日何回がいい?

文:尾形聡子


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一般的に、成人は1日に3回食事をとりますが、このところプチ断食や半日断食などと呼ばれるような、食事を摂取する日や時間を制限するたぐいの断食が健康やアンチエイジング、ダイエットに効果があるという理由で世界的に流行しています。それと並行し、本当に断食などで医学的な効果を得られるのかについての研究が数多く行われています。たとえば以下の記事はそのような研究の一例を紹介したものです。

「16時間はなにも食べるな」最新医学が勧めるプチ断食の3大効能【2021上半期BEST5】 「空腹」こそ長寿と健康のカギだった
食べすぎを防ぎ、健康を保つにはどうすればいいのか。『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム)を出した生活習慣病の専門医、青木厚氏は「空腹は体重や体脂肪は減少させ、糖尿病、がん、心筋梗塞や狭心症などの予防にも効果がある。16時間は何も食べないほうがいい」という――。

ところで実験動物において、カロリー制限をすると寿命が延びることは昔から知られています。そして近年では、給餌の時間制限をした齧歯類の寿命が伸びた、認知機能の維持に効果があった、代謝の改善を示したという報告がでています。しかし、実験動物におけるこれらの効果が、カロリー摂取量の減少のためなのか食事回数の減少のためなのか、それともその両方によるものなのかはわかっていません。

では犬ではどうでしょう?

環境省の「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」によれば、健康な成犬には1日2回の食餌を与えることが推奨されています。その理由として、

「与える回数が1日1回だけの場合は、 慌てて飲み込んでのどに詰まらせたり、 肥満になりやすいともいわれる」

と書かれています。またそこには、

「子犬の場合は、1回に食べられる量が少ないため、 4回程度に分けて与えましょう」
とも記載されていますが、子犬のみならず、老犬や消化器系の病気の犬などは1日複数回に分けて食事を摂取する必要がある場合もあります。ですが、多くの成犬は1日2回のご飯が与えられているのが一般的でしょう。これは世界的に見ても推奨されている成犬の食餌回数でもあります。
先に述べた実験動物における給餌コントロールによる健康へのいい影響を考えると、犬においても給餌方法によって健康やアンチエイジングにプラスに働く可能性があります。そこで、アメリカのワシントン大学やアリゾナ大学などによる研究チームは、人と同じ環境で暮らす犬の食餌の回数が健康状態や認知機能とに関連があるかどうかについて、「Dog Aging Project」のデータを横断的に使用し、解析を行いました。

ちなみにDog Aging Projectはアメリカ国立老化研究所がサポートする大規模研究で、犬のライフスタイルや環境が犬の老化にどのように影響するかを理解するために2019年から開始されたプロジェクトです。そこに参加する飼い主は、犬の食事や活動、生活環境、健康状態などについて、毎年細かに報告しています。Dog Aging Projectのデータを使った解析研究は、「犬の認知機能障害、なりやすい犬種、なりやすい生活環境は?」でも紹介していますので、そちらもご覧ください。


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食事の回数と健康に関係はある

研究者らはDog Aging Projectで2019年12月から2020年12月の約1年間に集められたデータを使用。犬の人口統計学的情報、身体活動、生活環境、食事や投薬、飼い主情報などに関する犬の健康・生活経験調査(Health and Life Experience Survey)については1歳以上18歳未満の24,238頭のデータを、認知機能を測定する犬の社会的・学習行動の調査(Canine Social and Learned Behavior Survey)は6歳以上18歳未満の10,474頭のデータを解析しました。すべての犬は不妊化手術が行われた犬で、オスメスおよそ半々でした。

ちなみに犬の社会的・学習行動の調査は犬の認知機能障害評価尺度(CCDR)と同じもので、その名前からネガティブな印象を飼い主に与えないようにするために、名前を変更して使用したそうです。また疾患においては、給餌頻度に影響を受ける可能性がある9つの疾患領域(歯または口腔疾患、皮膚疾患、整形外科疾患、胃腸疾患、がんまたは腫瘍、腎臓または泌尿器疾患、心臓疾患、神経疾患、肝臓または膵臓疾患)について解析が行われました。

まず、健康・生活面の解析において、55%が雑種犬、残りの犬は100犬種の犬であり、1日1回給餌は8%、2回は74%、3回は8%、自由給餌は10%となっていました。年齢、性別、犬種、雑種犬の体重、オメガ3などの脂肪酸サプリメントの使用などで調整して解析した結果、1日1回給餌の犬は2回以上の犬よりも9疾患領域中5疾患(肝臓または膵臓疾患0.41、胃腸疾患0.65、腎臓または泌尿器疾患0.71、整形外科疾患0.78、歯または口腔疾患0.84)において有意に罹患率が低いことが示されました。疾患の後の数字はオッズ比で、1より小さければその病気にかかりにくいことを表しています。ちなみに他の4疾患においても、統計的には有意ではなかったものの、オッズ比はすべて1未満となっていました。

認知機能の解析においては56%が雑種犬、残りの犬は76犬種の犬で、1日1回給餌は8%、2回は74%、3回は7%、自由給餌は11%となっていました。年齢、性別、雑種犬の体重、犬種、身体活動レベル、オメガ3などの脂肪酸サプリメントの使用などを調整して解析した結果、1日1回給餌の犬は2回以上の犬よりも認知機能障害尺度のスコアが低い(認知機能が高い状態)ことが示されました。


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これらの結果を受け研究者らは、1日1回給餌が認知機能や健康状態にプラスの関連があることがわかったものの、それらの因果関係が示されたわけではないことに注意すべきだと言います。今回のような研究ではどうしても一定期間の状態のみを調査するものになるため、その後の給餌内容が変わらないとは限りません。因果関係を調べるためには今後数年間にわたって前向きに調査をしていく必要があるとしています。また、認知機能や健康状態と関連があるのが食事の回数なのか、それともカロリー数なのか(おやつも含め)についても不明であり、調査対象がすべて不妊化手術済みの犬であったことにも留意しなくてはなりません。

そのため、頻繁な給餌は犬の健康に最適な方法ではない可能性があると考えられはするものの、給餌頻度との因果関係が明らかになっていない以上、今すぐに犬の給餌回数を変更するべきではないと研究者らは述べています。そもそも、1日2回という給餌回数をよしとする根拠は曖昧な状況にあるようですが、今回の結果だけを見て早急に給餌回数を変更するのではなく、現時点では愛犬の年齢や体調などに合わせた食生活を続けることが大切です。

今後この研究が続けられていけば、犬の食餌や頻度と健康長寿との因果関係についての新たなエビデンスが発見され、成犬に推奨される食餌の取り方も変わる可能性があるかもしれません。続報を待ちたいところですね。

【参考文献】

Once-daily feeding is associated with better health in companion dogs: results from the Dog Aging Project. GeroScience. 2022 Jun; 44(3): 1779–1790.

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