子は必ずしも親に似るわけじゃないという話 (犬の場合)

文と写真:藤田りか子

ミミチャン(左)と母犬アシカ(右)。この通り、見かけはあまり似ていない。そして中身も!

同じ犬が欲しかったのだけど

ちょうど先週ミミチャンが一歳を迎えた。去年の今頃は産箱の中で芋虫のようにモゾモゾと動く黒い塊にすぎなかった。今ではまるで脱皮をしたかのごとく、長い脚で森を駆け巡る立派な若犬。ここまで成長してくると、その犬の持つ性格や特質がより明らになってくる。

ただし彼女は母犬アシカと同じどころか似てもいない。そのことについては、9週齢ぐらいからうすうす気がついていており、最初は少しがっかりしていたものだ。しかしこの1年間、彼女の体と脳の成長と発達を目の当たりにしながら

「ミミチャンにはミミチャンの成長ペースがある」

ということを理解するようになった。それはとても大事な認識であり、これこそ「生き物のありようを知る」ということでもあるのだろう。そんな悟りに至ったと同時に、同じ犬になることを期待していた自分の愚かしさも恥じた。

アシカは、遺伝子に人のそれが半分入っているかと思わせるほど、人間っぽいところがある。つまり協調的でハンドラーと息を合わせるのが上手なのだ。

「何を欲しているのだろう」

と常にハンドラーに注目し、私のいろいろなお願いに応えようとしてくれた。それまで自立的なカーリーコーテッド・レトリーバーを飼っていた私には、まるで夢のような犬であったのは言うまでもない。次の子もぜひこんな犬であってほしいと切に願った。ならば

「ブリーディングをしてアシカの遺伝子を持った子を生み出せばいいんだ!」

そう思ったゆえの繁殖だった。もちろんお父さんの遺伝子も半分混じるが、彼も優秀だったし、アシカのコピーができあがると信じきっていた。

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それぞれの個性を愛すること

アシカは教科書通りのしつけをしていれば、問題行動など見せず、それだけで十分いい子に育ってくれた。しかしミミチャンの場合、そうは問屋が卸さず…。教科書のお手本を見倣うだけでは足りず、こちらからさらなるプラスアルファの努力が必要であった。すでに他の記事でも述べているが、まず彼女には強い社会性恐怖心があった。

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それから、作業の繰り返しを嫌った。手を変え品を変え、環境を変え、練習のパターンを変え、といろいろなバージョンを盛り込んで、ガンドッグやノーズワークの練習しなければならなかった。さもないとそのうち集中が途切れ地面の草を食べたり、体をカイカイと後ろ脚で掻き始めるのだ。私の一挙一動を見逃すまいと、ずっと注視したままのアシカ母さんとは本当にえらい違いである。そして般化がアシカほど得意ではないとみえ、新しい環境にくるたびに、一からやり直しが必要であった。そう、何かと時間がかかる子なのだ。

「やっぱりアシカと同じじゃないんだ…」

そんなことを何度思ったことだろう。

考えてみればあたりまえだ。生き物は交配を繰り返しながら「多様性」を作り上げる。こんなこと、生物学基礎の「き」である知識だ。多様性があるからこそ、生物が存続し、健全性を保てるのに。それを知識としてしっかりと把握していたにもかかわらず、いざ自分がブリーディングに関わりその渦中に入ってしまうと、なんとも自分勝手で「物質的」なことを望んでしまうものか。そもそも親と同じような犬がそんな簡単にすぐ生まれてくるぐらいなら、ショードッグやワーキングドッグのブリーダーは誰も苦労をしないだろう。次のコンビネーションで何ができるか、そこが未知だからこそ、ブリーディングの面白さがある。

とはいえ、練習をすればするほど、ミミチャンは応えてくれた。一歳になった彼女にこれまで見られなかった才能が顕著に表れてきた。ダミーをつかむとき、少し前まではそのグリップがとても緩く口から落としそうだった。いくらレトリーバーのソフトマウスがいいとはいえ、これはやはりよろしくない。だが数日前の回収の練習の際に、ダミーをしっかりくわえている彼女に気がついた。ノーズワークに関しても、以前は2ラウンドぐらいやったら頭が疲れるのか、サーチが雑になった。が、最近では数ラウンドをこなしても、においの取り方は変わることなく、サーチへの情熱も急激に上がっていった。練習を終わりにすると

「もっとやろうよ!」

とぴょんぴょん飛びつくまでになった。

フィールド系ラブラドール・レトリーバーが持つべき「作業犬としての脳」に徐々に変身しつつあるのだろうか、頭の中が成熟し始めている。

「焦らないで黙って見ていてごらん。きっと思いもしなかった素敵な子に育つから」

と心の中で誰かが話しかけてくれた。

母犬に似るべきとか、こうすべきとか自分の要求を押し付けてはいけない。彼女はアシカと同じじゃなくていいのだ。そう思うと、気が楽になる。犬が持つ個性や長所も見えてくる。成長自体を楽しもうと思う気持ちになれる。アシカと通った道とはまた別のルートを取りながら、私は彼女との生活そしてドッグスポーツを今後楽しんでいくのだろう。

ミミチャンとのトレーニングからいくつか参考になるものを以下に挙げてみました。ぜひ子犬とのアクティビティに興味のある方、みてみてくださいね!家庭犬の脳トレとして最適ですよ!

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