文:尾形聡子
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哺乳類全体でみると寿命は体重に比例して長くなることが知られています。しかし、同種内において寿命が反比例する現象が見られる動物がいくつか存在しています。私たち人間、そして犬です。そのほかにも馬や齧歯類などでも報告されています。
さらに犬においては寿命の差は非常に広く、2013年のイギリス研究では最も寿命の短い犬種と長い犬種の差が2.5倍以上、2022年のアメリカの研究(「体のサイズと遺伝的多様性、犬の寿命にどう影響する?」参照)でも2倍以上あることが示されています。体重差はどうかといえば、2キロ程度のチワワと80キロにもなるグレート・デーンやマスティフの体重差は、同種であるにもかかわらず40倍にもなります。
この、生物界からすれば逆転現象とも言える犬の寿命に影響を及ぼすメカニズムについては、まだはっきりとはわかっていないのが現状です。しかしながら、「テロメア」という染色体の両端にある特異的な領域が関係しているのではないか、「エピジェネティクス」が関与しているのではないか、あるいは成長スピードの差が細胞損傷に影響しているのではないか、というようなことが研究により示唆されています。
しかしここで注意をしなくてはならないのが健康寿命という点です。どんなに寿命が長くても身体機能が弱り、認知機能も低下した状態が長く続くならば、犬にとっても飼い主にとっても寿命が長いことが必ずしもいいとは限りません。逆に、犬種として予想される寿命に少し届かなかったとしても、心身ともに健康な時期が長ければ、犬や飼い主の福祉に問題があるとは決して言い切れないでしょう。「健康寿命が長い=ピンピンコロリ」が望まれるのは人の世界だけではなく、いまや家族の一員である犬に対しても同じように望まれているものです。
では、加齢により発症する可能性が高まる認知機能障害、そして身体機能の低下において、犬の体の大きさや犬種による予想寿命とどのような関連性があるのかといえば、これまでほとんど研究が行われていません。数少ない研究のうちのひとつは「犬のライフステージどう分ける?〜認知機能から分類する最新研究」にて紹介していますが、その研究によれば、犬は予想される寿命に関係なく、どのようなサイズでもある程度同じような認知機能曲線を辿って歳をとっていく傾向にあることが示唆されています。つまり、寿命の長さに関係なく、どんな犬でも認知機能はおおよそ同じように成長と共に向上し、加齢により低下していくということを示す結果でした。
とはいえ、犬は寿命が2倍も異なるような動物です。ハンガリーのエトベシュ大学の研究者らは、短命犬種と長寿犬種とではどこかで加齢による認知機能低下や行動が変化するパターンが異なるのではないかと考えます。そこで、「予想される寿命」「体のサイズ」「頭の形」「純血種か雑種か」との関係を明らかにしようと大規模国際アンケートを実施しました。さらに研究者らは、飼い主は犬が何歳になったら老化が始まったと感じるのか、という点にも興味を持ち、それについても調査を行いました。