文:藤田りか子
ニューファンドランドとボーダー・コリーの子犬。 [Photo by Nikol]
山の主と海の大将
大型犬種ファンであり、さらには熊のような見かけの犬にラブな人であれば、気になるのがグレートピレニーズとニューファンドランド。どちらも日本に存在する犬種であるが、かといってそれほど数は多くない。もっともグレートピレニーズについては、昭和の頃(1980年代)にテレビのコマーシャルに出たのがきっかけとなり一時的なブームとなった。ニューファンドランドはわが国においてブームになったり流行りの犬にはなったことはないが、根強いファン層を持つ超大型犬種の決定版である。そしてどちらもアジアの牧畜番犬から派生した、マスティフ系のジェントル・ジャイアンツだ。
グレートピレニーズ。 [Photo by aiko vanhulsen]
両者を区別するのは難しくない。ブラック(茶、白黒もいる)ならニューファン、ホワイトならピレニーズと、見分けは簡単。何事にも白黒はっきりつけたい人にはピッタリの犬(?)。でも二種の違いは、カラーだけではない。
ピレニーズはフランス、ピレネー山脈のふもとからやってきた山の主、片やニューファンドランドは、カナダ、ニューファンドランド島の海辺からやってきた海の大将。前者は山岳で羊番犬を、後者は漁師や溺者を助けた海のお役立ち犬。どちらも体の大きさを活かした作業犬としての歴史があるけれど、キャリアの違いがこの世界2大ジェントル・ジャイアンツ達をそれぞれユニークな犬種に仕立てた。
今でも羊を守る犬として働くグレートピレニーズ。北部アルプス地方にて。[Photo by SNSF Scientific Image Competition]
ならばニューファンドランドの水好きぶりは、納得である。子犬時代なら、ボウルにはってある水の中に入って泳ごうとするほど。自分の図体の大きさをまるでわかってないようだ。
となると、対するピレニーズは山が好き?もちろん。ゆったりと山をハイキングするのは、ピレニーズが大好きなアクティビティ。彼らに激しいスポーツは必要ない。使役として、羊の側でのんびりと番をするのがそのお仕事。アドレナリンを放出させ興奮の快感にひたりたいという欲求はあまりない。でも走ると意外に速い。
ノーブルに呑気、白日夢的にノンビリ
のんびりさはニューファンドランドとピレニーズどちらにも共通する気質。「コイ!」と合図を出しても、ボーダー・コリーのようにササっと「ただ今参上!」ってなわけにはいかない。ピレニーズは
「あら、コイって、私に言っているの?そう、じゃぁ少し考えさせてもらう」
ニューファンドランドは
「ふわぁ~あ~、行~く~よ~、う〜ん。でも明日ねぇ~」
ノーブルにのほほんとしているのがピレニーズなら、夢見ごこちにノンビリしているのがニューファンドランド。彼らと付き合うのなら、こちらが何か言ってから行動を起こさせるまでのタイムギャップは避けられない。この時差に辛抱強く待てる人こそ、理想の飼い主だ。世に超大型犬のスポーツドッグがあまり存在しないのも、たいていは人間の方が彼らの時間感覚についていけず、ギブアップするから。決して、大型犬の訓練性能が劣っているわけではない。
ヨーロッパやアメリカではニューファンドランドのための「水難救助犬」のトレーニングに取り組む人がいる。この技能はスポーツにまで発展しており、ウォーターレスキューという競技会もある。[Photo by Marcia O’Connor]
しかし、大型犬でドッグスポーツに参加してみたいのなら、ニューファンドランドの方が比較的訓練はしやすい。水難救助犬として働いていた歴史があるからだ(そしてヨーロッパにはプロとして働いている水難救助犬のニューファンドランドがいる)。どちらも超大型犬だから初心者にはおすすめできない。特に、ピレニーズは経験者向き。羊の群を守っていただけに、同じ番犬でも柴犬のように家の周りの敷地だけ、というよりも「飼い主の家族全体」を守ろうとする。これが強い防衛行動を促し、普段のお散歩中に他人や他の犬に対して吠えて撃退しようとすることも。子犬時からの丹念な社会化訓練は必須だ。