ペットがのどを詰まらせたらどうする?気道異物除去について

文:サニーカミヤ

[photo byD133H]

犬や猫が、異物を喉に詰まらせて窒息するまでに至ることはかなりまれだと思っていましたが、ペット事業関係者に聞いてみると、頻繁に発生しているそうです。そこで今回は、犬や猫が気道に異物を詰まらせたときの除去の仕方をご紹介いたします。まずは以下の窒息事故の事例をご覧ください。

都内のドッグランで起こったクッキーの入ったビニールを飲み込んだ事例

ある犬の飼い主Aさんが、友達Bさんの犬と遊ばせるためにベンチを立った際、ポケットに入れていたトリーツ(ご褒美のクッキー)の入ったビニール袋を落としてしまいました。すると、近くで遊んでいた別の犬がトリーツを咥えて持って行き、数匹の犬と取り合いになりました。

Bさんはビニール袋に入った状態のトリーツを取り上げようと追いかけたところ、トリーツを咥えていた犬が急いでビニールごと飲み込んでしまい、ビニールを喉に引っかからせて、窒息状態になってしまったそうです。

近くにいた窒息した犬の飼い主が駆けつけて、犬の口からビニールを引き出して事なきを得ましたが、もしあのままだったら窒息して大事故になっていたかもしれないということでした。

Bさんによると、あっという間の出来事で、とても怖かったそうです。

それでは、具体的にどのようにして気道に詰まってしまった異物を取り除くことができるのかを説明いたします。

1、気道異物除去とは

気道とは呼吸するときの空気の通り道であり、鼻・口から肺に至る部分に食べ物や嘔吐物、異物が詰まると窒息し、放置すれば死に至ってしまいます。しかし目の前で窒息状態にあるペットに対して迅速に気道異物除去を行うことで、救命可能になります。

犬に多い窒息原因は次の通り、口に入る大きさのものがほとんどです。

  • おもちゃ(ゴムボール、ぬいぐるみのパーツ、電池、部品等)による窒息
  • 犬のガムやジャーキー、豚の耳や動物の骨片を飲み込みきれずに窒息
  • ヘアゴム、洗濯ネット、飼い主の靴下や下着を飲み込んでの窒息
  • ビニールに入った食べ物をビニールごと食べてしまったことによる窒息
  • 食べ物がくるまれていた包装紙を飲み込んだことによる窒息
  • ソファーやクッションの綿を引き出して飲み込んだことによる窒息
  • ビニールひもなど、ゴミを噛み散らかして遊んでいての誤飲窒息  など

ほとんどの要因は飼い主の飼養環境管理によって免れるものですが、犬は本能で生きている動物でその行動は素早いため、事故を予防しようとしても間に合わない場合もあるようです。

2、気道異物除去の対象

・何かを吐き出そうとしていて、なかなか出せそうにないとき
・吐き出せずに倒れてしまった場合
・吐き出そうと咳をしていたが窒息で咳をしなくなったとき

犬や猫が異物を吐き出そうとする場合は、前足を踏ん張り、下方約45度に口を大きく開いて咳き込むことが多いです。

飼い主から何を飲み込んだのかを聞くことも参考になる場合があります。たとえば、ビニールに入った骨型のクッキーを飲み込もうとして窒息した場合は、喉を通り越したところで引っかかっているクッキーの向きによって、手前に出ているビニールの引っ張る方向が変わってきます。

3、気道確保の方法(犬猫共通)

①  施術者がひざまづいて、要救助ペットの口と同じ高さになります。
②  施術者が右利きの場合、要救助ペットの前足と後足の間から左手を入れます。
③  前足の間から、手のひらを上向きにして、ペットの喉を支え、気道の確保を行います。
④  犬も猫も、四つ足を踏ん張った状態で気道内に詰まった異物を吐き出そうとするため、足を持ち上げないようにして、吐き出しやすい角度を保てるようサポートします。
⑤  いつでも背部叩打法ができるよう、身構えておきます。

ただし、チワワ、フレンチブルドッグ、ペキニーズ、ボストン・テリア、ボクサー、シーズー、チベタン・スパニエル、チャウチャウ、パグ、狆(ちん)、土佐犬などの短頭犬は気道が短いため、真っ直ぐに喉を伸ばしてしまうと、気道を狭くしてしまう恐れがあります。そのため、人の赤ちゃんの気道の確保と同じように少しうつむく角度の気道確保で十分であることが知られています。

4、成犬に対する気道異物除去

①背部叩打法
反応のあるペットに対して、肩甲骨の間を5回ほど強くたたくことを繰り返し、気道異物を除去する方法。ペットが咳をして吐き出そうとするタイミングに合わせるとさらに効果的です。

★実施ポイント(小型犬、中型犬)

・利き手の反対側の手を前足と後ろ足の間から入れて、ペットの顎(あご)を軽く支えます。
  ※顎を支える理由は、叩いたときのむち打ちのような症状を緩和するため。
・指を折り曲げた状態にして、ペットの口を見ながら、利き手の手根部を使って肩甲骨の間を叩きます。
・叩く位置は肩甲骨と肩甲骨とび間(胸椎の3番から6番)を目安に叩きます。

②チェストトラスト法
四つ足で踏ん張っているペットに対して、覆い被さるような姿勢で、両手の指を上に向けた状態で大きく広げ、ペットの肩口を両側から同じ力とタイミングで押し、胸部を圧迫して気道異物を除去する方法です。ペットが気道の異物を吐き出そうとするタイミングに合わせると効果的といわれています。

★実施ポイント
・猫、小型犬には効果的ですが、中型犬以上は背部叩打法かハイムリック法を勧めています。
・目安として肩甲骨から肋骨4番くらいまでを両サイドから両手の平を大きく広げて肘を横に立てて、挟むように同時に圧迫します。

③腹部突き上げ法(ハイムリック法)
反応のあるペットに対して、拳を上腹部に当て、斜め上方に圧迫して、体内圧を高めて気道異物を除去する方法です。ペットが吐き出そうとするタイミングに合わせると効果的です。ただし、一般的に小型犬には行いません。

効果的な要領は、ペットの背後から、左手でげんこつを作り、人差し指と親指の面をペットの上腹部(みぞおちとへその中間部)に当てます。このとき握りこぶしが剣状突起や肋骨に当たらないように注意が必要です。 次にペットの背中を施術者の腹部で受け止めるようにあてがった状態で、左手の拳を右手で覆った状態で突き上げます。 異物が除去できた場合でも、内臓損傷を疑って、動物病院に連れて行くことをお勧めいたします。

★実施ポイント
・ペットの後ろから密着して行います。
・犬の肋骨は13本あります。

5、猫・小動物・小型犬・犬の赤ちゃんに対する気道異物除去

背部叩打法は利き手の反対側の上腕にうつ伏せの状態でまたがらせ、顎を2本指で支え、下向きにして気道確保した状態で叩きます。 チェストトラスト法も背部叩打法も個体の成熟度に合わせて叩く力や圧迫する力を加減してください。

実施ポイント
・ペットの咳き込むタイミングに合わせて気道異物除去を行います。
・両足を持って逆さまにするのは手が滑って、頭から落下させる おそれがあり、大変危険です。

6、気道異物除去中に反応がなくなったペットに対する救命処置

・心肺蘇生法をためらうことなく迅速に行い、飼い主の掛かりつけの獣医への通報や緊急対応ができる獣医への搬送手配を行います。
・心肺蘇生法中に気道異物が出てきた場合は、指等で取り除きます。
・口の中に異物が見えない場合は、指を突っ込んで無理に探さない。異物を奥に押しやってしまわないように気をつけてください。

★実施ポイント
・ペット用酸素マスクがあれば、ペットに合うサイズのマスクをアンビューバッグに取り付け、酸素供給ホースを接続して酸素吸入を行いながら、心肺蘇生法を継続します。
・獣医到着後、獣医による投薬を行いながら心肺蘇生法を継続する場合もあります。

いかがでしたか?

人間の気道異物除去の方法ととても似ていると思いますので、消防士の皆さんでしたら簡単にできると思います。ただし、サイズの違いによって力加減は調整してあげてくださいね。

下記の2つのビデオで具体的な酸素吸入の方法が紹介されていますので、参考にしていただけると幸いです。


FIRE SAFETY: Pet Oxygen Mask(出典:YouTube)


In Case of Fire, Oxygen Masks for Pets(出典:YouTube)

もし、現場で重傷を負ったペットに遭遇したならば、消防活動の一環として人命救助の次には「ペットの救急処置」を行っていただき、「助かる命を助けていただきたい」と心から願っています。


ここにご紹介したコンテンツは、私がインストラクターとして所属している2つの団体、アメリカ最大のペット救急法指導団体であるPetTechのThe PetSaver™ Program、そして、消防士のためのペット救急法指導団体、BART(Basic Animal Rescue Training)から出典しています。

本記事はリスク対策.comにて2016年11月16日に初出したものを一部修正し、許可を得て転載しています

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本防錆教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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