文と写真:尾形聡子
ゴールデンウィークも過ぎ、水遊びのしやすい季節になってきた。
水好きの本能を活かして水場での作業を行なってきた犬種は数多く存在している。詳しくは藤田さんの『そろそろウォータードッグの季節!』をご覧いただくとして、身近なところではラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーなどが水場での獲物回収をする犬として有名だ。
数年前、今のラブラドールたちに水好き遺伝子がどれほど残っているのかを調べたイギリスの研究が発表された。水への興味の強さの程度には個体差が見られたものの、水に興味を惹かれない個体はいなかった(n=10)いという結果がでている。
研究対象となった個体数が少ないこともあり、この研究だけでは今を生きるすべてのラブラドールたちが必ずしも水好きだとはいえないだろう。とはいえやはり、水を大の苦手だとするラブというのは稀ではある。さらに、同じラブでも作業犬かショータイプかといった繁殖ラインによっても水への興味の強さは異なりそうだ。
一方、スパニッシュ・ウォーター・ドッグ(SWD)という犬種はどうかと考えてみたい。SWDは古くからスペインに暮らしてきた犬ではあるが、犬種としてFCI(国際畜犬連盟)に正式公認されたのは1999年のこと。犬種として再出発する際には昔からの作業特性も大切にして個体が選ばれたと聞いている。そのひとつが水好きの特性だ。泳ぐばかりでなく潜る犬も多くいる。このような背景もあり、現在のSWDには水好きの本能が比較的強く残っているのではないかと思う。
私が暮らすSWDのタロウとハナも、もれなく大の水好きだ。タロウの水への興味は、ホースの先から出てくる水に始まった。生後4か月くらいの頃だったと思う。それから水への興味があっという間に広がっていき、生後半年くらいの時には水場にジャブジャブと入るようになっていた。ハナはそんなタロウの姿に引きずられるように水に興味を示すようになっていった。
氷が張るくらい冷たい水の中へも嬉々として入っていた。まだ1歳に満たないころ。10歳も過ぎると冷たい水はさすがに入らなくなるようになった。
ガッツリ泳ぎ始めたのは生後1年くらいのときだったろうか。それは回収とセットだった。逆を言えば回収とセットでないと水に入っても泳ごうとしない、泳ぎ初めても回収するものがないといつまでも探してなかなか戻ってこない、という状態だった。もともとタロウは陸上でのボール回収にはほとんど興味を示していなかったので、彼には“回収”という本能が単独で強くあるわけではなく、まず“水場”という状況であることが重要なのだと感じた。
“水場という環境が回収本能のスイッチをONにする”
そんなことがSWDの遺伝子に書かれているのではないかと想像する。スペインのSWDのブリーダー宅へ行ったとき、1メートル以上あるプールの底からおもちゃを取ってくるSWDたちの様子を見てもそう思った。だからこそ、タロウも回収できるものを人が水の中に投げるのを心待ちにしている。ハナは陸上でもレトリーブが好きだが、水場でのモチベーションはそれとは比べ物にならない。
水場での作業は命が脅かされる危険も高くなるものだ。純粋に水に対して本能的な恐怖が強ければ、水場での作業は苦痛でしかない。逆に水好きな本能が強ければ、水場で作業をすることがよりモチベーションを高める要因となるだろう。回収と水好きとどちらの本能が強いかは個体差もあるだろうが、ラブラドールの遺伝しやすい特性にレトリーブが挙げられていることをかんがみても、少なからず水好きという特徴も遺伝しやすい本能なのだと思う。
つらつらと犬の水好きに関して考えてみたが、とにかく水場が大好き!という犬たちと暮らして思うのは、水場での犬のコントロールの重要性。パッシブ・トレーニングの出番だ。無類の水好きな犬にとっての水場におけるパッシブ・トレーニングはこの上なく有効なものになるはずだ。一朝一夕には本能をコントロールすることなどできないだろうが、水場で安全に楽しく遊ぶためにも、水好きな犬と暮らすみなさんには是非とも水場でのパッシブ・トレーニングを行ってみてほしい。
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