文:尾形聡子
これから夏にかけて水好きな愛犬と川や湖へと足を運ぼうと楽しみにしている方も多いことでしょう。人からすれば、水遊びは夏場のものというイメージがありますが、季節を問わず水好きな犬もいるものです。海などの水場で漁師の片腕として回収作業を手伝ってきた歴史を持つような犬たちです。
もともと水場での回収作業をしてきた犬種として知られるラブラドール・レトリーバーは、今や世界中で愛される家庭犬の代表ともいえるでしょう。そして、よき家庭犬としてだけではなく、盲導犬などの補助犬、警察犬、セラピー犬など、さまざまな場面でも活躍をしています。今の時代を生きるラブたちに、昔ながらの”水好き”な遺伝子はどれほど残っているのでしょうか?時代とともに水好きの特性は変化してきているのでしょうか?この疑問に答えるべく、イギリスのセント・アンドルーズ大学の研究者らがパイロット・スタディを行い、その結果を『Journal of Veterinary Behavior』に発表しました。
実験に参加したのは2~13歳のラブ10頭。アシスタント・ドッグを引退した犬や、訓練中の犬たちでした。犬たちはポルトガルの農場で寝食をともにし、一緒に遊び、ときにスイミング・プールに行くこともありました。しかしそれらは規則的に行われるものではありませんでした。そんなラブたちに3つの異なる刺激が同時に存在する状況、プールに入るもよし、ほかの犬と遊ぶもよし、人にアプローチするのもよしという状況を2分間与え、それぞれにどれほど接触・交流をはかっているか録画されました。人については過去に一度会ったことがある人で、実験開始直前に犬と身体的接触できない距離からそれぞれの犬を1分間ずつ見つめてから、犬たちを解放したそうです。しかし解放後もなお、身体接触ができないままの状況下にありました。
3回のトライアル、合計6分間の映像を解析したところ、すべての犬が人よりもほかの犬よりも、ダントツに多くの時間を水と戯れることにさいていた結果となりました。水への接触の方法はさまざまで、回数が多かった順に、鼻先で水に触れる、前脚を水の中に入れる、泳ぐ、プールサイドから水面を足でたたく、といった様子が観察されたそうです。またその様子から、水好きにも個体差があることが示唆されるとしています。ちなみにこの実験を行う前に、10頭の飼い主に犬の水好き度合いをたずねたところ、2頭が泳ぎ好き、2頭は泳ぐことに興味がない、6頭はその中間だという答えがかえってきていたそうです。
予備実験のため10頭という少数を対象とした実験結果ではありますが、ラブには水と接触できる環境下で自由な選択を与えること、そしてそれがラブという犬種の福祉として重要であると研究者らはいいます。
さらに実験対象とする頭数を増やした場合には結果がどうなるか、フィールド系、ショー系などによって結果が異なるのかなど気になるところです。また、当然のことながらすべての犬が水好きなわけではありません。それぞれの犬はそれぞれに異なる本能的な欲求を持っています。さまざまな犬種、雑種犬も対象としてこのような実験が行われた場合、結果がどのようになるのかにも興味を惹かれます。それは犬が何するのをこよなく愛しているのかを知ることへの手ほどきにもなると思うのです。
(本記事はdog actuallyにて2015年10月29日に初出したものを一部修正して公開しています)
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【参考サイト】
・Companion Animal Psychology