トレーニング後の楽しい遊びが学習向上の助けに

文:尾形聡子


[photo by Trevis Rothwell]

愛犬とのトレーニングを終えるや否や、みなさんは愛犬をケージや室内に入れたりしていませんか?

Physiology & Behavior』に発表された研究によりますと、トレーニング中に行ったことの記憶を強化するには、トレーニング後の生理的興奮、すなわち楽しい遊びをすることが前向きな影響を及ぼすと示されたそうです。

人では学習後の睡眠が、長期記憶として定着する助けとなることが知られています。同様に、昨年には初めて、犬も学習したことを寝ているあいだに記憶として定着させている可能性があることが科学的に示されました。

また、人では興奮性の神経伝達物質が放出されると記憶の固定を促し、感情的な出来事を忘れにくくなることが報告されています。これについては人以外の霊長類とげっ歯類でも確認されていますが、犬においては未知でした。

そこで、英国のリンカーン大学の研究者らは、興奮性のホルモン放出が犬の記憶にも影響を及ぼすかどうかを調べる実験を行いました。犬種による違いが結果に影響しないよう、実験には1歳から9歳までのラブラドール・レトリーバー16頭が参加。犬たちは見た目もにおいも異なる2つの物のうちひとつを選択するというタスクのトレーニングを受けました。トレーニングは10回のトライアルを1セッションとし、各セッションの間には数分間の休憩(外に出たり、休んだりする)が挟まれました。そして研究者らは、犬たちが10回のトライアル中8回以上正解するのを、続けて2セッションできた場合をタスクの成功と位置づけました。

犬が成功のレベルに達したら、犬を二つのグループに分け、片方のグループの8頭は眠らない状態で30分間休息をとり、もう片方のグループの8頭はリードを付けて10分散歩、リードを離して10分遊び(ボールやフリスビー、引っ張りっこなど犬自身で選択)、再びリードをつけて10分間散歩をし、合計30分の時間を費やしました。各グループの犬たちの生理的興奮状態が異なるかどうかを見るため、唾液中のコルチゾール濃度と心拍数がモニターされました。

そして翌日、犬たちに同じトレーニングを再び行ったところ、各グループに大きな違いが見られました。成功レベルに達するまでのトライアル回数は、トレーニング後に休んだだけのグループは平均で43回、遊んだグループは平均26回という結果に。遊びグループの犬たちは休みグループに比べて、40%も早く成功レベルに達していたのです。これを受けて研究者らは、トレーニング後に犬が好きな遊びをすると興奮して記憶に有益なホルモンが放出され、それが記憶の強化に関与したことを示唆する結果だとしています。

また、遊びグループは休みグループと比べると、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールの量がかなり減少していたようです。このことから、たとえ学習の向上や記憶の強化を目的としなくても、トレーニングの後は愛犬が好きな遊びができるといいのではないかと思います。


[photo by Maja Dumat]

ストレス経験は眠りの質を低下させるという研究報告も出ていることから、これら3つの研究ををまとめて考察すると、以下のようなパターンをひとつ想定することができます。

①できるかぎり楽しいトレーニング時間をつくる(なるべくトレーニングをストレスと感じないように)
 ↓
②その後には犬が好きな遊びをする自由時間をとる(トレーニングにより高まったストレスレベルを下げることができる)
 ↓
③なるべく犬が心地よい安全な場所で睡眠をとる(トレーニングの記憶がより定着しやすくなる)

このようにできれば、学習効果が高まり、次にまた①のトレーニングに戻ったときには犬もそして人もストレスレベルを高めずにトレーニングを楽しく行うことができる、という好循環になっていくと考えられるのではないかと思います。もちろん犬も人もその日の調子がありますから、行きつ戻りつしながらになるのが大前提ではありますが、長い目で見てみることも大切かと思います。

先日の藤田りか子さんの記事、「競技会と愛犬へのプレッシャー」にも書かれていましたように、犬が楽しむのはもちろんのこと、それと同時に人が楽しむのもとても重要です。時間を作って愛犬とトレーニングをするならば、できるだけお互いに楽しみ、充実した時間にしたいものですよね。ですので、トレーニング最中にもしもイラっとするようなことがあるときには、ぜひともこのブログを思い出していただければと思います。

(本記事はdog actuallyにて2016年12月27日に初出したものを一部修正して公開しています)

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【参考文献】

Playful activity post-learning improves training performance in Labrador Retriever dogs (Canis lupus familiaris)
Situations that are emotional and arousing have an effect on cognitive performance. It is thought that beta adrenergic activation and the release of s…

【参考サイト】
Psychology Today