楽しく学んで、ぐっすり寝よう!犬も寝ているあいだに記憶を定着

文:尾形聡子

[photo from Science News]

眠っているうちに勉強できてしまうなら、なんと嬉しいことか・・・過去には睡眠学習という言葉をあちこちで見かけたものですが、その学習効果の真偽のほどはいまだ科学的には完全に証明されていません。しかし、睡眠と学習は確実に関連性があり、学習したことを整理して記憶として定着させるには眠ることが不可欠です。そして質の良い眠りは学習効果を高めますが、睡眠不足は脳の働きの低下を招き、学習効果を低めてしまいます。

犬の認知研究をけん引するハンガリーのエトベシュ大学の研究者らにより、犬も寝ているあいだに記憶を定着させて学習している可能性が示され、その結果が『SCIENTIFIC REPORTS』に発表されました。

記憶には、睡眠中にだけあらわれる脳波、睡眠紡錘波(sleep spindle)が重要

眠りに入ってから覚醒するまで、睡眠中の脳波は変化し、5つのステージを規則的にくり返しています。詳しくはこちら(ウィキペディア:脳波)をご覧いただくとしまして、入眠してから2つ目のステージ、軽い寝息を立てるくらいの状態のときに14Hz帯域の睡眠紡錘波(睡眠スピンドル)と呼ばれる脳波が出現します。睡眠紡錘波が睡眠中に断続的にあらわれると脳が外部情報から遮蔽され、人とラットにおいてはそれが学習と記憶に大きく関わっていることがこれまでの研究により示されています。

研究者らは、家庭犬の成犬15頭(オス8頭メス7頭、ボーダー・コリーやラブラドール、ミックスなど)を対象に、犬の睡眠中に睡眠紡錘波があらわれるかどうか、それと学習効果との関連性があるかどうかを調べました。

最初に、犬が昼寝をしているあいだに小さな電極を犬の頭にとりつけ、脳波のベースラインを測定。つぎに、ハンガリー語の“座れ”と“伏せ”のかわりに、英語の“sit”と“lie down”を使ってのトレーニングが行われました。そのあとに3時間の昼寝タイムへと移行し、寝ている間の犬の脳波が測定されました。さらに犬がどの程度英語のコマンドを習得しているかを確認するため、昼寝から目覚めたあとにも再びトレーニングセッションが行われました。

犬にも睡眠紡錘波が見られ、メスではオスの2倍出現

その結果、昼寝中の犬の脳には睡眠紡錘波がみられ、メスにはオスの2倍の頻度で出現していることが分かりました。このような性差があるのは人においても同様で、それは性ホルモンの影響によるものだそうです。

さらに、犬が英語の言葉を習得した多さと、1分あたりの睡眠紡錘波の出現回数の多さが相関していることも示されました。これについても人で同様の傾向があることが分かっています。睡眠紡錘波の出現回数が多いメスの30%が新しい言葉を学習したのに対し、オスは10%にとどまりました。

これらの結果を受けて研究者らは、人と犬の脳機能には類似性があり、犬の脳波研究をさまざまな脳機能障害などの脳疾患に応用できる可能性があることを示すものだとしています。また、人の睡眠紡錘波の出現は加齢により変化していくことから、より多くの犬を対象に脳波を測定することで、犬の睡眠紡錘波の変化と脳の老化の関連性を明らかにしていきたいといっています。

[photo by Tony Harrison]

犬も人と同じように寝ている間に記憶を定着させていることが、今回の研究により初めて科学的に示されました。また、睡眠の質は経験の内容に影響されることを『ストレス経験は犬を眠りに落ちやすくさせ、眠りの質も下げる』でお伝えしましたが、ならば、たくさんの楽しい経験をして心地よい眠りにつける犬ほど覚えがよい、ということがいえるかもしれません。

犬の生活リズムはおよそ7時間といわれています。人が昼寝をするのとは異なり、犬にとっては日中の睡眠時間もとても大切です。ちょっとした時間を使って犬とコミュニケーションをはかることで、より多くの楽しみを犬が感じられる毎日が送れるようにしたいものですね。

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【参考サイト】

Science News

【参考文献】

EEG Transients in the Sigma Range During non-REM Sleep Predict Learning in Dogs. Sci Rep. 11;7(1):12936. 2017.