犬、地面に転がってくさいにおいを体につけるの巻

文:藤田りか子


[Photo by Tamara Hastings]

いまだに「なぜ」がはっきりと解明されていない犬の謎といえば、地面に転がって体ににおいをすりつける、という行動だ。もちろん、うちの犬たちも大好きである。ただし、ラッコ(カーリーコーテッド・レトリーバー)をはじめ、我が家歴代カーリーたちは、ほとんどやらなかった。というか、やっているのを見たことがない。ラブラドールズといえば、揃いも揃って3頭全員が行う。特に冬が終わり、季節があたたかくなる頃になると、いろいろなにおいが浮遊しやすくなるのだろう。森に放すと、何かを探すようにして走りまわるのだ。突然止まり、くんくんと地面を嗅いだその瞬間、首からよよと崩れるように横倒れ。そして、体を魚みたいに右に左にピチピチ動かしながら転がる。

尾形聡子さんも愛犬のハナの恍惚スリスリ行動について記事を寄せている。そして、彼女はその行動を最終的には「OK」としたとも語っている。あまりにも恍惚として転がっているので、その喜びを奪ってはかわいそうだ思ったのだそうだ。私もそう思いたいところだが、うちの犬たちにそれを許可するのは、尾形家よりもさらにハードルが高そうだ。対象はかなり絞られており、どうしても転がらずにはいられないその“極上のにおい”とは、イノシシとアナグマの糞なのだ。転げそうになる瞬間に「やめ!」と叫ぶ。たまにやめてくれるときもあるが、一旦転がり始めたら、恍惚の彼方へ。もう何をいっても無駄である(ちなみに尾形さんは、猫の糞に転がるハナと戦っていたとその記事で触れている)。

時には私の目を盗んで、森に入りにおい探しの旅に出るほど。そして、そのかぐわしき香りを毛衣にたっぷりつけて、しれっとして家に戻ってくるのだ。アナグマの糞のにおいは、独特なのですぐにわかる。空気中にそのにおいが漂った瞬間に、「えー、またやったのか!!」と、どの犬が転がってきたのかすぐにチェックする。調べると、肩のあたりがてかてかと光っておりべっとりと糞がついている。においはぷんぷん。くささのあまり、思わず鼻に皺が寄る。当然急いでシャンプーとなるのだが、犬はなんだか不本意そうだ。

「せっかくお気に入りの香水をつけてきたのに、またとっちゃうの?!」

よく「どれぐらいの頻度で犬にシャンプーをしていますか」と聞かれるのだが、私は基本的にあえてシャンプーをすることはないので、「まったくしない」と答えていたものだ。が、よくよく考えてみれば、この「香水」を落とすために、夏のあいだはかなりの頻度でシャンプーをしていたことに気がついた。

オオカミもやる!

転がってはにおいを体にこすりつける行動は、オオカミを含むイヌ科動物に広く見られる、ごく自然な行動だ。昔からよくある説として、食べ物の情報を仲間に伝えるためというものがある。たとえばオオカミがどこかで死骸を見つけたとする。その場で食べきれない場合、いったんそのにおいを体にこすりつけて巣や群れのもとへ戻り、仲間に知らせる、というのだ。でも、それを確認した人はどうやらいなさそうだ(いたら、この説ですべてが説明されているはずだからだ)。

ただし面白いことに、動物園での実験によると、オオカミは自分のにおいには反応せず、他の動物のにおいに対して選択的に反応するとのこと。もちろんこれは「自己」を認識していることの証でもあるかもしれない。このことについてはきちんと科学的エビデンスもある!尾形聡子さんの「犬は匂いで自己認識~視覚ではなく嗅覚で」を参考ににされたい。いずれにせよ、何かのにおいに体につけるというのは、情報的な意味を持っている可能性はありそうだ。

強烈にくさいにおいなら、なんでもいいというわけではなく…

転がる行動の研究は、犬よりもむしろオオカミにおいていくつか調査がなされており、最近では以下の点が明らかになっている。

まず、この行動はどんなにおいに対しても起こるわけではない、ということだ。そして強烈なにおいなら何でもいいのではなく、反応が出るのとまったくスルーするにおいとで、はっきり分かれている。つまり、そこには何かしらの「選択」や「嗜好」がありそうだ。

さらに興味深いのは、初めてのにおいほど強く反応する傾向があるということ。実験では、カレーや香水のような人工的なにおいに対しても、オオカミは強い関心を示し、ときに食べ物よりも強く反応した。ただし、これは「犬」には当てはまりそうもない。なにしろ、我が家の犬たちは、いつも同じ動物の糞(アナグマやイノシシ)に反応する。もちろん、死骸も大好きだ。ネズミの死骸に体をスリスリするのを何度も見たことがある。


クロアチアのオシエク動物園の成獣のメスのオオカミが、カレーのにおいに首や肩をこすりつけている。[出典:Boić et al. (2024), Preliminary Study of Scent Rolling in Captive Wolves in Response to Olfactory Enrichment]

もう一つの事実は、同じにおいであっても、個体によって反応が違うことがオオカミで確認されている。ある個体は何度も体をこすりつけるのに対して、別の個体はほとんど興味を示さない。経験や性格の違いが関係しているかもしれないと研究者は推測している。そして、この研究ではメスの方がよりこの行動を見せたという。これは我が家の犬でも確認済みだ。3代すべてオスであったカーリーコーテッド・レトリーバーはほとんど転げ回る反応を見せなかったが、今うちにいる全員メスのラブラドールズはイノシシやアナグマの糞のにおいに転がりまくる。尾形さんも、自分の犬の観察においては、メスのハナのほうがタロよりも、においによく反応したと語ってくれた。

… とまぁ、ここまで解明されたとはいえ、相変わらず問いは残る。なぜオオカミも犬もそれをわざわざ体にこすりつけるのだろう?においに反応するだけなら、嗅ぐだけで十分なはずだ。しかし、彼らは体を預けるようにして、念入りにそのにおいをまとおうとするのだ。

【参考文献】

Preliminary Study of Scent Rolling in Captive Wolves (Canis lupus L. 1758) in Response to Olfactory Enrichment

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