文:尾形聡子
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人にとって「表情」は大切なコミュニケーションツールのひとつです。対面で会話をしているときには言葉の内容だけでなく、声のトーンやテンポ、顔の表情やジェスチャーなども含めてシグナルを発信し、他者と社会的な交流をはかっています。
では犬での表情は?といえば、ボディランゲージという認識が一般的です。その中で、人ほどではないにせよ、顔を毛に覆われた犬にも表情があることがわかっています。
これまで霊長類以外の動物の顔の表情は、相手と意思疎通をはかったり社会的な相互作用をしたりするためにつくられるのではなく、反射的なものと考えられていました。しかし、犬においては進化の過程で目の周囲を動かす筋肉を発達させ、眉頭を上に持ち上げるような表情をつくり、人とのコミュニケーション能力を高めてきたのではないかという報告が2019年にされています。
そして犬は人の視線に敏感な動物でもあります。たとえば何か悪さをしようとしているときなど、人からの視線を察知すると、パッとその行動を止めるという行為を目の当たりにした方も少なくないことでしょう(「盗み食いは暗がりで…」参照)。逆に、人からの視線があることで、社会的な行動を促進するケースもあります。「オーディエンス効果」と呼ばれるもので、近くに他者がいることで、パフォーマンスが向上する現象です。
オーディエンス効果は、人以外のさまざまな動物で観察されています。しかしそれは同種間における効果です。けれども犬においては、異種である人がオーディエンス効果の影響を及ぼすことが示されています(「犬同士の遊びの盛り上がりには、飼い主の…?が関係」参照)。
このような知見をもとに、イタリアのパルマ大学と、オオカミ研究で有名なオーストリアのウィーン獣医大学の研究者らは、犬をポジティブな状態とネガティブな状態とに置いて、人の視線に敏感な犬が人の存在下で表情やボディランゲージに変化をきたすのか、また、これまでに知られているネガティブな表情とコルチゾール濃度(ストレスホルモン)とに関連性が見られるかどうかを調べました。
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