盗み食いは暗がりで・・・

文:尾形聡子

[photo from University of Portsmouth News]
論文の筆頭著者 Kaminski 博士と彼女の愛犬 Ambula。

犬は人を理解するためのさまざまな能力を備え持っています。犬と暮らしたことがある人ならば当然のごとく感じているだろう犬のそのような能力、認知力についての理解を深めていこうと、世界中で研究が行われています。人と最も長く共に暮らしてきた犬だからこそ獲得しえた、人を理解する能力には、霊長類の賢さとはまた異なる面もみられます。これまでの研究での食べものの選択実験から、犬は人間の置かれた状況(音が聞こえるか、聞こえないか)を理解して、自らが取る行動を選択することが示されていますが、今回は音ではなく、人が見える状況にあるかどうかという視点からの実験が行われ、その結果が『Animal Cognition』に発表されました。

英国ポーツマス大学の研究者らは、テストの前に「勝手に食物を食べてはいけない」という指示を教えられた1歳以上のさまざまな犬種、合計でオス・メス各42頭ずつの犬に対して、テストを行いました。実験では、部屋の明るさをさまざまに変えて、飼い主に「食べてはいけない」と指示された犬が指示を守ることができるか、もしくは盗み食いをするかが観察されました。すると犬は、部屋が暗い時には明るい時に比べてより多くの食べものをより素早く盗み食いしており、暗い部屋での盗み食いは明るい時の4倍になったそうです。

実際に、犬が暗がりの中でどれほど物を見ることができるのかについては明らかにされていないそうです。しかし、明るさによって犬のこのような行動を見た初めての実験の結果は、犬が明暗を区別することができ、そのことは、犬は人間が見える、または見ることができない状態を理解していることを示唆するものだと研究者らはいっています。つまり犬は、人の指示に背いて盗み食いするときには暗い方がより都合が良いということを、自身で考えて行動を決定した結果だということです。

私たちは、犬が人間の感情に敏感な賢い動物であると感じていますが、それは人間側からの考えであり、犬たちの考えではありません。そもそも人と犬とでは、行動の善し悪しの判断基準も多くの点で異なることでしょう。ただし今回の結果は、人間側からの考え方が正しいかもしれないことを示唆するものであるそうです。他者の気持ちに柔軟に対応し、自らの行動の選択決定をするという人間の持つ心の理論を犬が持つのかどうか知るためには、さらに多くの研究の積み重ねが必要であると研究者らはいっています。

犬が行動を選択するときには、それが必ずしも犬にとって実質的な利益にならずとも、人間の視線や行動が重要な要因となっているという研究結果が、これまでにもたくさん報告されています。決して擬人化するのではなく、犬が本質的にどのように人を捉えているのかということが科学の目から明らかにされる日は訪れるのでしょうか。

(本記事はdog actuallyにて2013年2月20日に初出したものを一部修正して公開しています)

【参考サイト】
University of Portsmouth News