文:尾形聡子
[photo from pixabay]
犬との暮らしに欠かせないフードボウルやウォーターボウル。これらの食器、皆さんはどのようにして管理していますか?
以前、ウォーターボウルの素材によって、健康に有害な細菌の発生のしやすさが異なるという研究結果について紹介しましたが(「愛犬のウォーターボウルに潜む危険」参照)、素材が何であるか以前に、犬のウォーターボウルは家庭内で3番目に細菌が繁殖しやすく、ウォーターボウルやおもちゃなどのペット関連用品はカテゴリー別にもっとも細菌が繁殖していることが2012年に示されています。
いつでも犬がアクセスできる場所に置いてあるウォーターボウルに細菌が繁殖しやすいという状況は理解に難くありません。しかしそこで発生した有害な細菌が人の食事周りの衛生状態を悪化させ、再びそこから犬の方へも悪影響を及ぼすなど、双方向で健康被害が生ずる可能性が考えられます。「人と動物の健康と環境はお互いに密接な関係にあり、それらを総合的に良い状態にすることが重要」とするワンヘルス(One Health)の概念が提唱されている昨今、それを阻む要因の一つとして懸念されている状況です。
細菌汚染されやすいのはウォーターボウルだけでなくフードボウルも同様です。たとえば2010年の研究では、調査された家庭内の場所で2番目に細菌が多く、トイレの表面など一般的に細菌量が多い場所よりも汚染されていると報告されています。たとえば、フードそのものの管理が適切でなければ、汚染されたフードを入れるフードボウルも汚染されるリスクが高いと考えられます。
とはいえ、ペット用の食器の適切な取り扱いのためのガイドラインというものは、ほぼ存在していないのが現状です。アメリカ食品医薬品局(FDA)が提供している「ペットフードとおやつを適切に保管する(Proper Storage of Pet Food & Treats)」ためのガイドラインの中には「ペット用フードボウルとフードをすくう道具は毎回使用後に洗って乾燥させる。水用ボウルは毎日洗う」と記載されていますが、人でのそれ(FDA Food Code 2017)と比較すると細かな指示まで書かれていません。
そこでアメリカのノースカロライナ州立大学の研究者らは、FDAのペットフードガイドラインと人のフードコードのガイドラインを参考にし、犬用食器とフードの管理の仕方と細菌汚染への影響を評価するために調査を行いました。
[photo from pixabay]
人の食器といっしょに洗う?
研究者らは、毎日同じフードボウルを使っている犬が少なくとも1頭いる飼い主に対してアンケート調査を行い、417件の回答を得ました。
回答を解析した結果、FDAの出しているペットフード取り扱いに関する文書の存在を認識していたのはわずか4.7%であることがわかりました。ボウルを洗う頻度に関しては、週に1回がもっとも多く22%。少なくとも1日1回洗うと回答したのが12%だった一方で、3ヶ月に1回またはまったく洗わない人が18%いました。
洗うと回答した人の洗い方もまちまちで、多い方から、洗剤とぬるま湯(36%)、食洗機(33%)、洗剤と熱いお湯(約71度以上)が17%、水のみ(6%)などとなっていました。中には人の食器と一緒にフードボウルを洗うと回答した人も多数いました(43%)。
ちなみに今回の研究の参加者の大多数がドライフードを与えていて(90%)、缶フードや生食などは少数派でした。フードボウルの素材は金属がもっとも多く(64%)、ついでプラスチック(19%)、陶器(16%)などとなっていました。また、犬のご飯の準備をするのに普段人の食事をつくるための調理台を利用している人は33%いました。
細菌の繁殖は取り扱いによって抑えられるか?
アンケート調査に参加した飼い主の中から50人(68頭の犬)がフードボウルの状態を評価するためのテストに参加しました。参加者はランダムに以下3つのグループに分けられました。
A:FDAが提供するペットフードの取り扱いガイドラインに基づいた扱いをする
(フードを扱う前後に手を洗うこと、フードボウルをフードすくいの道具として使用しないこと、使用後は毎回ボウルとすくい道具を石鹸とお湯で洗うこと、食べきれなかったフードは所定の方法で捨てること、乾燥ペットフードは元の袋で保管すること、など)
B:FDAが提供するペットと人間向けの食品取り扱いガイドラインの両方に基づいた扱いをする
(手洗いは少なくとも20秒、石鹸と温水で行うこと、食器は洗う前に食べ物をこすり落とすこと、食器は石鹸と約71度以上の水で30秒以上洗い清潔なタオルで十分に拭き取ること、またはNational Sanitation Federation(NSF)認定の食洗機にかけて洗浄と乾燥サイクルを行うこと、など)
C:ガイドラインなし
飼い主はテストを行う前にフードボウルを綿棒でぬぐってサンプルを採取し、テスト開始後平均8日後に再びフードボウルからサンプルを採取。事後アンケートへの回答も求められました。
テストの結果、AとBのグループの汚染具合(細菌数)は、テスト実施前に比べて実施後には大幅に減少していました。しかし、なにもガイドラインが与えらえれなかったCにおいては変化がみられませんでした(Cグループは、結果としてテスト期間中にボウルを洗った人はゼロ)。また、ボウルの素材は汚染の程度の変化に影響を与えていませんでした。約71度以上のお湯を使用しての洗浄は、ぬるま湯や水で洗う場合と比較して細菌数が減少していることもわかりましたが、乾燥方法による違いはありませんでした。
[image from PLOS ONEfig2.] A,B,Cが各グループ、青いバーはテスト開始前の細菌状態、オレンジはテスト後。AとBはかなりの割合で細菌が減少していることがわかる。
事後アンケートにおいて、AとBグループの参加者のうち、テスト期間に行った方法(手洗い、食器洗い、食品保存方法など)をすべてしっかり守って長期的にフードボウルを取り扱う可能性があると回答したのは、わずか8%にとどまっていました。しかし20%の人は、ボウルの洗い方だけならば今後も守って行う可能性があると回答したそうです。これらの回答において、AとBのグループ間に有意差は見られませんでした。
研究者らは、今回の研究は小規模なものであったため、より理想的な食器の取り扱い方法についてさらなる研究が必要だとしています。しかし現時点においても、犬のフードボウルの汚染を軽減するために、FDAのガイドラインを参考にするようにしたり、市販のペットフードに食器やフードの取り扱いガイドラインに関する情報を付け加えるなどして、衛生管理への意識を啓発していくことは可能であり必要でもあると言っています。
[photo from pixabay]
健やかな毎日の暮らしのために
今回の調査はアメリカで行われたもののため、日本とは少し異なる結果なのではないかなと感じるところがあります。たとえば小型犬の多い日本ならば、使用される食器も小さいものが多く、扱いやすいと言えるでしょう。扱いやすければその分、日々のお手入れにも繋がりやすくなりそうです。また、日本は公衆衛生に対する意識レベルがそもそも高いところがあるとも思います。
とはいえ、とにかく重要なのは、犬のフードボウルやウォーターボウルが家庭内での細菌の発生源となりうる事実を知っておくことです。これから夏に向かって気温や湿度が上昇していくにつれ、犬の食器が細菌の温床となる危険性も高まっていきます。
犬と人の生活環境や関係性が密接になっている昨今、ワンヘルスをおびやかしかねないリスクをできる限り抑えることが大切です。そのためにも、愛犬の食器洗いは毎日しっかりと続けていきたいものですね。
【参考文献】
【関連記事】