文:藤田りか子
2019年はこれまでのスウェーデンにおける自分の競技会経験をシェアすべく、日本でノーズワークを競技スポーツとしてその面白さを広めた年となった。以前自分で「私は競技会人間じゃない」とブログのどこかで述べたが、ノーズワーク競技の魅力を知ってからその方針を180度変えることにした。
ちなみにスウェーデンでは年間200以上ものノーズワーク競技会が開催されているほどノーズワークスポーツ王国。この春に行われる4日間連続ノーズワーク・フェストではなんと350人が競技エントリー。スウェーデンの人口は日本の1割にも満たない。にもかかわらずこの頻度と人数。おそらく人口一人あたりのノーズワーク競技人数は本場アメリカよりも多いかもしれない。それだけに競技会に参加するのも至難の技。申し込み受け付けのはじまりとともに50人の枠で100人が殺到するほどの人気。たいていは抽選、あるいは早い者勝ちでエントリーが決まる。というわけで、決して私だけが「ノーズワーク・バカ」ではなく、かなり多くのスウェーデン人が同じ傾向を持っているといえる。
スウェーデンにおけるノーズワーク競技会の様子。総勢100人の参加者。レベルはアドバンスド・レベルのNW2。屋外サーチのエリアで説明をうける。屋外ステージの観客座席がサーチエリア。[Photo by Scentline]
最初講習会を開催したきっかけは
「麻薬探知犬が麻薬のにおいを覚えてくれるカラクリって実はこんなに簡単なことなんですよ!」
「それをスポーツにしちゃうのです!ね、面白いでしょう??!!」
「おまけにどんな犬でもできる!嗅覚さえあれば!」
という感動を日本で伝えたかったから。おそらく多くの人は(私を含め)ノーズワークを知るまでは、一体探知犬のトレーニングってどんなふうにやるのか、どれほど難しいものなのか、と「別世界のもの」として考えていたのではないだろうか。
というわけで私のコースの参加者の多くは、探知犬のトレーニングのごとくラインアップを使っていきなりターゲットとなるにおいの刷り込み練習から始めることになる。思い切ったトレーニング方法を導入したものの、こりゃ面白いと夢中になってくれた人はいた。そして今では競えるレベルのノーズワーク犬とそのハンドラーのペアがいくつかできあがりつつある。熱心なファンは練習会を毎週のように企画し、このような情熱がさらなる愛好家を増やし、スポーツは広がってゆく。
放火するために使われた燃料を探知する犬、放火探知犬のトレーニングの様子。ラインアップをつかって様々な燃料のにおいを覚える。アメリカ、フロリダ州にて[Photo by State Farm]
探知犬を目指してなくてもラインアップでトレーニングを。DIYのラインアップでノーズワークのトレーニング中のフラットコーテッド・レトリーバーのトルゥーラ。[Photo by Rikako Fujita]
ノーズワークにはまる過程は2段階で成り立つ。まずにおいの刷り込みの練習で良き手応えを感じ、のめり込んでしまう。なんといってもにおいを覚えさせるのは「意外にも簡単」。ここで飼い主にとっても犬にとっても「わぁ、楽しい!」の第1フェーズが始まる。そして人々がいよいよのめりこむ第2フェーズが、「競技会のルール」に則りノーズワークゲームをして、失敗を犯す時!
そう、成功の時よりもむしろ失敗して燃え上がる人の方が多い。競技というスポーツだからこそルールに溢れている。その中にはかなりくだらない決まり事もある。北欧で行っているノーズワークのルールを例にとると、まず制限時間内ににおいをみつけなければならない。「ここです!」と見つけた場所を告知したものの、間違っていればもうセカンドチャンスはなし。そこでゲームオーバーになり、ペナルティ点が課される。エリア内で犬が粗相をうっかりしてしまった場合も同様。この場合ペナルティ点はさらに厳しい。その他にもたくさんの細かいルールがある。
ノーズワーク競技会は、探したにおいが点数そのものとなり、その点数の合計、ペナルティの合計、サーチにかかった時間をすべて考慮して、順位が決まる。だから、たとえ短時間に多くのにおいを探し出し点数を稼いでいても、うっかり犬がエリアで粗相したら、ペナルティ点のために一気に順位は転落する。逆に探し当てた数はたとえ少なくとも、ペナルティにつながる行為をしていなければ、かなり上位にいくことも期待できる。いや、科目別ランクでは優勝することすらある。
だからこそこれまで頑張って練習した人ほど、競技会ルールによってあらわになった自分のトレーニングの落ち度に気が付き衝撃をうける。
「えー、そうだったの!?悔しい!」
と思うのだが、同時に
「やだ、これ面白い!!」
とルールが存在するがゆえの競技会ゲームの深さを知ることになり虜となる。そして次の競技会に向けてパフォーマンスを改良せんと俄然頑張りはじめる。
ノーズワークを始めて一年目。こんなに上手に探せるようになる!プロの探知犬のごとくスラスラ探す琉球犬ミックスのやんばるちゃん。 [Movie by Scentline]
とはいえノーズワークは他のどんなドッグスポーツに比べても、とても民主的に作られていると思う。通常ノーズワーク競技会は4科目(コンテナー、車両、インテリア、エクステリア)でなりたち、4科目総合して一番成績の良い人が優勝となる。だが、科目ごとにもランクを決める。だから限られた「総合上位3組」のみならず、上位3等までの組x4科目=12組というわけで、より多くの人に賞が行き渡る。一度賞をもらうと、たいていの人は「味をしめる」。それがさらなるモチベーションを上げる。これはまさにノーズワークにはまる第3フェーズと名付けてもいいだろう。
以下に示すのは、昨年9月、千葉県のドッグラン施設、ドギーパークベルハウスで開催されたノーズワークNW1のトレーニング競技会(主催:セントライン)の模様だ。様々なチャレンジ溢れる環境でサーチをしている犬たちをご覧いただきたい。このようなイベントを重ねることによって、いずれは日本独自のルールもできあがると信じている。将来はヨーロッパやアメリカなど世界を舞台に日本チームがノーズワークチャンピオンシップなどを競ってくれたらなぁとも思うのだ。
ドギーパークベルハウスといえば、温水の屋内ドギープール。そこをつかってにおい認識テストを行った。公式のテストでは本当は部屋の一室をつかうのであるが、今回は特別。水の側のテストであったために(そして水をみれば飛び込みたい犬もいるので)、ハードルはなかなか高し。しかし多くの犬たちが合格。Copyright: Yumi Tsukamoto
「おっと、ちょいと行きすぎた!」
セターのように広い地域を捜索するようにブリーディングをうけたガンドッグにはノーズワークはぴったりのアクティビティ!Copyright: Yumi Tsukamoto
ドギーハウスのグルーミングルームは屋内サーチエリアとして使った。ものがたくさんおいてあり、隠し所満載。なかなか面白いサーチとなった!Copyright: Yumi Tsukamoto
屋外サーチの様子。Copyright: Yumi Tsukamoto
車両サーチ。NW1では車両の数は1台から3台まで。今回は少しやさしくして1台のみ!そのかわり制限時間を短くした。Copyright: Yumi Tsukamoto
最後はお待ちかね、表彰式!Copyright: Naoko Kondo
グルーミング・ルーム・エリアは非常に難しいサーチとなった。唯一においを探し当てたコイケルホンディエのロダ君とKさん組。見つけた瞬間の動画をどうぞ。洗い場のふちににおいは隠されていた。Movie by Yumi Tsukamoto
お知らせ!
我こそは!と競技会に参加したい方は2月10日に千葉のすいらんドッグパークにてノーズワーク競技会(主催:セントライン)を開催しますので、どうぞ!どんな競技なのだろう、と勉強のための見学も可能です。
ノーズワークを初心者として始めたい方、経験者でスキルのブラッシュアップをしたい方は2月11日に東京・葛西でのノーズワーク講習会(主催:セントライン)に参加してみては?
詳しくはこちら!(↓)
犬曰くのノーズワーク関連記事はこちらに全てリストアップされています
【関連記事】