ノーズワークと大学入試

文と写真:藤田りか子

ラッコはNW1(ノーズワークのノービスクラス)でこれまで全課目総合優勝及び準優勝を勝ち取った。そのほか数々の単課目優勝も。ノービスクラスのサティフィケートカードを3枚ゲットの後、現在クラスのNW2(アドバンスド・クラス)で競っている。

ノーズワークの競技会に参加するようになって一年目。ストックホルムで行われたスウェーデン国民の日を記念する大きな大会で、ラッコ&私のペアはなんと全体優勝を果たした。結果発表のいよいよ最後「優勝者は…」と名前が呼ばれる段になって、まさか…とラッコと私は顔を見合わせた。次の瞬間、やったぁ!とハイ・ファイブ。ラッコ、よくやった、でかしたぞ!!その競技会にはノーズワーク界の有名コンペティターもいたりして、誇らしいことこの上なかった。競技会の翌日も私はしばらくピンク色の雲の上を漂っていた。

トレーニングの質が変わった

私は謂わゆる「ドッグスポーツ競技会フリーク」ではない。競うのは苦手だった。ある日小手試しにと初めてノーズワークの競技会に出た。案の定満点など取れるはずもなく、見事に失敗した。が意外なもので、それでもめげず、むしろ「失敗から多くのことを学んだ!」と、また参加しようと心に決めた。と、その後のトレーニングが格段に変わった。ただぼんやりとノーズワークをやっているのと競技会を目指しているのとでは、緊張感が違う。学ぶ量も質も違う。自分の失敗を分析する。動画も撮って何度も見てみる。次のトレーニングで何をすべきか詳細を考える。そしてプランを立てる。犬の嗅覚の世界をより理解できるようになる。そしてラッコの行動をより読めるようになる。

入試攻略法と同じ!

コンテナー・サーチはある程度パターンが決まっているものの、屋外、屋内、そして車両サーチは競技会毎に環境や条件が違うから、面白い。時にはスタート地点のすぐ足元に隠されていることもあれば、椅子の脚と床の1mmぐらいの隙間に隠されていることもある。というわけで、いざ本番の時になって「こんな環境でやったことがない!」と出題内容にびっくりしないよう、普段でも様々な環境、隠し場所を想定して練習を積むようになった。壁と壁の隙間、パイプの中や、鍵穴に隠したり。あるいは、環境の想定もする。オフィス、ガレージ、子供部屋、街角、納屋、倉庫といった環境などなど。考えられる限り、自分で出題を予想してみる。

考えつく限りのありとあらゆる環境や状況でサーチの練習を行う。このようなパイプに匂いが隠されていると、空気が筒を抜けて流れていくので、かなり難しいサーチとなる。

こんな風に日々作戦をネリネリしながらふと思った。なんだかこの感覚どこかで覚えがある…。そうだ、大学合格を目指していたその昔!傾向と対策を練ってはいろんなタイプの試験問題に挑戦、入試戦略の技術を磨いたものだ。あれとノリは同じだ。ノーズワークも試験当日になるまで、出題内容(探す環境や探すポイント)がわからないのだから。とにかく多く問題に当たることで、解くパターンを学ぶという攻略法がよし。

友人同士で「競技会シュミレーション」も開いた。競技会と同じように誰かを審査員に見立ててサーチの制限時間を設け、友人同士で順位を競う。これがいわば大学試験前の模擬試験にあたるものだろう。ノーズワークをめぐるこれら一切のプロセスは、悲しくも嬉しくも日本の受験世代を懸命に生きた私のツボに見事はまった。競技会を目的としたノーズワーク、面白し!

自分のことばかり書いてきたが、もちろんノーズワークをやるのはラッコである。そしてハンドラーである私は匂いを探すラッコにただついて行くだけ。とはいえやはり、これは私とラッコが奏でるチームワークなのである。私が傾向と対策を練り、予想問題を作る。そこにラッコを送り、彼に嗅覚探知技術を磨いてもらう。ラッコはトレーニングに応え、回を重ねるに従って素晴らしく探知テクニックを上げていった。私には知る余地もないのだが、空気の流れなどより丹念に読むようになったのだろう。ラッコもラッコで上手くなるに従って、ノーズワークが何にも増して好きになっていった。サーチエリアに連れてくると、顔つきが変わる。鼻がすぐに「ON」になり、スタートの合図を出す前からもう匂いを探そうとしている。

こんなチームワークがものをいう受験勉強なら何度やっても楽しいものだ。ラッコと私は現在次のクラスのフルスコアを狙って練習に励んでいる。ラッコに限界はない。唯一の限界はトレーニングとして新たなる「環境」と「隠し場所」を考えつかなければならない私の創造力かもしれない。