文:尾形聡子
[photo by swong95765]
人のみならず、犬でも肥満が増えている昨今。太りすぎによる関節への過度の負担、腎機能の変化、短頭種では呼吸が苦しくなるなど、肥満が引き金となりさまざまな病気を発症するのも同じです。病気にかかりやすくなるばかりか、日常生活の質(QOL)の低下や寿命の短縮にも影響する可能性があります。
イギリスのリバプール大学とペットフードメーカーのロイヤルカナンは、世界27か国(北米、南米、そしてヨーロッパ、アジアからは香港、インド、インドネシア、マレーシアが参加)340の動物病院の協力のもと、太った犬926頭(12か月~193か月齢)を対象とした国際的な減量トライアルを行いました。
体重を減少させるには、1日に摂取する食餌量を制限し、身体活動量を増加させることが必要です。言うまでもありませんが、摂取エネルギー量よりも消費するエネルギー量を増やさないと体重は減少していきません。3か月間にわたる減量トライアルでは、高タンパク質・高繊維質の食餌2種類、ロイヤルカナンの減量用ドライフードとウェットフードが用意され、どちらか片方もしくは両方を使い、性別や去勢の有無も参考に体重が減少する食餌量を与えるように設計されました。さらに飼い主は、犬の活動レベル、生活の質、食物探索行動についての記録も行いました。
もっとも体重が減ったのは、不妊手術をしていないメス
3か月間のトライアル後、体重が減少した犬は926頭中896頭(97%)、平均して開始当初より11.4%の体重減少となりました。また、去勢手術の有無で比べると、手術をしていない方が平均して体重が減っていました。性別ではオスよりもメスのほうが体重が減っていて、その差は北米と南米の犬でより顕著に見られました。
さらに、飼い主による行動記録のスコアからは、犬の活動レベルと生活の質は順調に向上していき、一方で食物探索行動は継続的に減少していたことも示されました。体重減少により動きやすくなり、生活が快適になるのは想像の範疇といえますが、食餌制限をしていても食べ物をおねだりするような行動が減っていったというのは、意外と思われる方もいるでしょう。このことは、犬は意外に短い期間でおねだりを諦めること、つまりは自らにとってプラスにならない行動を学習するのが早いことを示唆する結果だと感じます。おねだりをやめさせたいのであれば、まずは人が犬のおねだりをキッパリNOと対応していくことが必要になってくるともいえるでしょう。先日のアシカの十把ひと唐揚げブログ『お行儀ただいま修行中』のトピックスにもなっていましたが、ねだられて与える人がいるからこそ、ねだる犬がいるのです。
肥満は“百害あって一利なし”
3か月というトライアル期間では、それぞれの犬が目標とする体重まで減量できていない犬が多かったものの、飼い主が犬の活動レベルと生活の質の向上を目の当たりにできたという事実は、犬の心身の健康にとても利益をもたらしているものだと研究者はいっています。
また、ロイヤルカナンの担当者はこの結果を受け、適切に減量プログラムが実施されれば、肥満の犬が安全かつ有効に減量できることを示したとしています。さらには、おやつをおねだりするような行動も減り、適正体重になることが犬の心身に有益で価値のあるものだと飼い主に納得してもらえる結果が得られたともいっています。
体重が増えてくると、動くのが面倒になったり膝や腰が痛くなったりして動きたくない、そしてますます体重が増えていくという悪循環が作られていくのは人も犬も同じでしょう。ラブが太りやすいという研究が発表されているように、食欲には犬種の遺伝的なちがいも影響するかもしれませんが、犬は1日に必要とするエネルギー以上の食餌を摂取する傾向がある、太りやすい生き物であるともいえる研究結果も発表されています(参照:犬は太りやすい動物?)。
スウェーデンでは愛犬のグループ・ダイエットというプログラムもあるようですが、ひとりでやるよりも皆で楽しみながら取り組めるのは長続きしそうですね。ダイエットはこつこつと地道に続けることが大切です。食事制限はいつでも始めることができますが、活動レベルの調整をするのは暑い時期には難しいものです。犬が動きやすくなってきたこれからの季節、愛犬の心身の健康のためにも“脱ぽっちゃり”を目指してみてはいかがでしょう?
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【参考サイト】
・EurekAlert!