股関節形成不全のチェックとブリーダーそしてケネルクラブの役目

文と写真:藤田りか子

アシカと同胎の兄弟、そしてブリーダーSさんの犬たちと一緒に散歩。

アシカを譲り受けた時からすでにブリーダーのSさんに言われていた。

「時期がきたら、股関節をレントゲンでチェックするといいわよ」

Sさんは子犬を譲った人にレントゲン検査を「必須」にはしていなかった。しかし、我々同胎兄弟の飼い主7人組は折があればブリーダーと一緒に集まり、お茶をしたり、パピーの社会化やフィールドトライアル用の基礎トレーニングをしたりしてきた。その中で常に「股関節形成不全、肘関節異形成の検査」は仲間同士のおしゃべりのトピックスであった。よって自分たちの犬についても股関節の検査する、というのは誰に言われるまでもなく、当たり前のこととして心するようになっていた。

正しい検査結果を得るには、犬が一歳を過ぎるのを待たなければならない。骨が十分に成長する必要があるからだ。ただしセントバーナードなど超大型犬の場合、スウェーデン・ケネルクラブは18ヶ月まで待つべし、と定めている。アシカの一歳の誕生日がやって来て程なく初の発情期も始まった。Sさんは

「発情期が終わって2ヶ月ぐらいにレントゲンを撮るのがベスト。でも、これ特に科学的根拠があるわけじゃないのだけど」

私も自分で調べてみたのだが、発情期では組織が水分を含みやすいとのことだ。だが、それが股関節に影響を与えるかどうかは不明らしい。いずれにせよ、私は彼女のアドバイスに従った。のみならず、レントゲンを撮るクリニックも彼女のお薦めを選んだ。Sさんは長年の経験で「どのクリニックのどのレントゲン技師がよいか」を知っていた。レントゲン撮影する際に犬をきちんとしたポジションで寝かせないと、正しい判断ができなくなる。この「犬を上手に撮影台に置く」技に長けた人がいるというわけだ。悪い写真を送ると、診断する機関から返されてしまう。こういう情報はやはりブリーダーと密接なコンタクトがあるからこそ。

レントゲン撮影が終わり、しばらく撮影台でウトウトとするアシカ。レントゲンの際は、鎮静剤が打たれる。体がリラックスするので脚を平行に置くことができ、正しく関節の状態を撮影することができる。

マイクロチップの番号と共に撮影されたアシカの股関節と肘関節のレントゲン写真は、クリニックからダイレクトにケネルクラブに送られた。スウェーデン・ケネルクラブには股関節・肘関節の状態をレントゲン写真から診断する専門家がいる。そこで診断した結果はケネルクラブが管轄している血統データベースに記録される。そしてこれは誰もが閲覧できる。だからもしアシカを自分のオス犬のお嫁さんにもらいたいと思った人は、彼女の股関節状態がどうであるか、あらかじめチェックすることができる。

ちなみに日本ではNPOである日本動物遺伝病ネットワークがレントゲン結果を診断してデータを蓄積している。だが、股関節・肘関節のレントゲン結果公開は任意であるそうだ。自分の犬について悪い結果が出たら、ブリーダーへの嫌がらせとして公開する人もいる、とどこかで読んだが、なんとも悲しい状況ではないか。それより、悪くても良くても全て結果を公開するのを前提にするべきだと思う。人のプライバシーを守ろうとする気持ちはわかるが、それでは犬のためにならない。犬種の繁殖というのは、ブリーダー個人の世界で閉じてはいけないものだ。近親交配が進みやすく、その末遺伝病など多くの弊害が生まれるようになる。個体そのものががもつ「遺伝子」こそがブリーダーにとっての「材料」となる。より多くの材料にアクセスできることで、健全な犬が生まれやすくなる。だから皆で材料の質やあり場所の情報についてシェアをするのがいいのだ。が、日本にはそのプラットホームになるべき北欧のケネルクラブのような場所がない。残念だ。

肘関節のレントゲン画像。この画像はクリニックから直接ケネルクラブに送られ、股関節および肘関節の状態を診断する専門医が診てくれる。結果は1週間後に郵送してくれるが、2日後にはすでにケネルクラブのデータベースに公開されていた。

レントゲンを取って2日後、ケネルクラブのデータベースにアクセスをしてみた。と、すでに結果は公開されていた(写真下)。なんとアシカの股関節はグレードA、つまり不全の兆候なし、さらに肘関節については0、すなわち正常という意味。肘関節が正常で本当にほっとした。肘関節については股関節ほど取りざたされないものだが、とても大事な部分でもある。肘の関節に炎症が起こると痛さで前部の体重が支えきれなくなり、むしろ股関節に問題を抱えるより犬にとって辛くなることもある。

アシカの両親も共に股関節、肘関節についてクリアしている。とは言っても必ずしも子孫が不全フリーになるとは限らない。これまでアシカの兄弟犬のうち6頭がレントゲンを受けたが、1頭だけに肘関節グレード1(軽度の関節症)という結果が出た。今回のアシカに良い結果が得られたのは、遺伝的に加え環境的な要因もあると思う。子犬の時から私はできるだけ彼女の体をスリムに保ってきた。そして7ヶ月にもなった折には毎日の散歩は欠かさなかった。

アシカの股関節と肘関節の結果はこのようにケネルクラブにて記録され公開データとなる。写真の右端ピンクで囲っている部分にED ua (0)とあるのは肘関節異形成がなく正常であると意味する。HD grad Aというのは股関節形成不全についてグレードAであるということ、つまり不全の兆候がないという意味だ。

床のフローリングが犬の股関節によくない、と日本ではよく言われている。不思議とスウェーデンではほとんど聞かないことだ。そして我が家の床はフローリングだらけだ。おまけに3ヶ月になった頃からアシカに平気で寝室への階段の上り下りをさせていた。すでに形成不全の兆候を見せている場合はいざ知らず、そうでなければ、体重コントロールと適度な運動を与え筋肉をつけてあげることが一番の股関節形成不全予防になると確信した次第でもある(これは私の個人的意見なので、皆さんはかかりつけの獣医師やブリーダーさんのアドバイスに耳を傾けられたい)。

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