騒音は筋骨格系の痛みを助長し、痛みは騒音への恐怖を引き起こす

文:尾形聡子

[photo by Jeff Hutchison]

大きな音に過敏に反応する犬は決して少なくありません。

数年前にフィンランドで行われた大規模調査では、対象となった約3,000頭の40%近くの犬が雷や花火などに恐怖をあらわす行動をとるという結果がでています。また、大きな音を怖がり始めた年齢は8週齢から10歳にわたっていたとのこと、反応し始める年齢も幅広いことが示されました。

犬において騒音に対する恐怖は遺伝しやすい形質であることがいくつかの研究により示されています。さらには遺伝だけではなく、体の痛みが騒音への恐怖を引き起こす可能性があるそうなのです。

騒音への恐怖、いつから始まりましたか?

英国とブラジルの臨床動物行動学の研究者らによる共同研究により『Frontiers in Veterinary Science』に発表された論文によりますと、犬の筋骨格系の痛みが騒音に過敏に反応する要因になることが示唆されるとしています。痛みと恐怖反応に関連性があることは、これまで人における研究で証明されていたことで、犬でそれが示されたのは初めてのことです。

研究者らは、騒音に恐怖を抱く犬20頭を研究対象としました。そのうち半数の10頭は臨床的に筋骨格系の痛みが特定されていない犬『痛みなしグループ』、もう半数は慢性的な痛みを持つことが明らかになっている犬『痛みありグループ』です。

全身や体の一部の震えや、どこかへ逃げ込んで隠れるといった騒音に対して見せる行動は両者のグループにおいて差異はありませんでした。しかし、騒音に過敏になり始めた年齢を比較すると、痛みありグループは平均6歳6か月、痛みなしグループは平均2歳8か月と、痛みありグループが4年ほど遅いことが分かりました。

恐怖の対象となる騒音にも違いが見られ、いずれのグループも花火に対しては10頭中7頭でしたが、ガンショットについては痛みなしが4頭、痛みありが0頭となっていました。ガンショットへの反応については先の研究でも示されているように、遺伝性しやすい形質であるため、発症年齢が低い痛みなしグループに見られる特徴であるとも考えられます。痛みありグループの特徴としては、怖い騒音を経験した場所をより広範囲で避けたり、ほかの犬を避ける傾向が見られ、痛みがある場合の方がより騒音に対する感受性が高いことが示されました。

さらに、何も治療を行っていない痛みを持つ犬に対して投薬治療を施したところ、すべての犬に恐怖行動の改善が見られたそうです。

これらのことから研究者らは、騒音によって犬が緊張し始めると、すでに痛みを抱えている筋肉や間接に余計なストレスがかかるために痛みが悪化する可能性があり、さらには騒音に対して恐怖を抱くようになるだろうことを示唆するとしています。よって、犬が痛みを抱えていることが確認されるならば、それに関連する騒音への恐怖について慎重に対応すべきであること、また、日常的に騒音を怖がる犬で、恐怖行動を見せはじめたのが遅い場合には、関節や筋肉に痛みを抱えている可能性があることを頭に置いておくべきだといっています。

騒音を怖がる愛犬に、痛みの兆候は見られませんか?

騒音とひとことでいっても様々です。花火や雷だけでなく、銃声、自動車やオートバイの音、雑踏の中、飛行機の音、サイレンや掃除機など犬によって強く反応を示す音は様々でしょう。そして、音に感受性の高い犬は対象となる音もひとつだけではないケースが多いと思います。

騒音を怖がる傾向は遺伝的な背景が関係していることが示されていますが、もちろん遺伝要素とは関係なく、嫌な経験と騒音とが重なって特定の音だけを嫌がるようになる場合もあるでしょう。しかし、対象となる恐怖が広がっていったり強まっていく場合や、ある程度年齢がいってから騒音を怖がり始めた場合には、筋肉や関節に限らず何らかの痛みを抱えていないとも限りません。

今は気持ちよく過ごしやすい気候ですが、そのあとには騒音を怖がる犬たちの多くが嫌がる突然の雷雨や花火の季節が待っています。騒音が苦手な愛犬を心配されてる方は、痛みという視点からの愛犬の健康チェックを一度受けてみてはいかがでしょうか?

【参考文献】

Noise Sensitivities in Dogs: An Exploration of Signs in Dogs with and without Musculoskeletal Pain Using Qualitative Content Analysis. Front Vet Sci. 2018 Feb 13;5:17.

【参考サイト】

Science daily

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