所変われば、犬も変わる?同じ犬種でも国によって行動の差は生ずるのか

文:尾形聡子

[photo by Ryan Scott]

たとえ同じ犬種でも、一般的には家系により遺伝的な差が見られます。ラブラドールならば、ショー系かフィールド系かで生まれ持った特性が異なるのは『コロコロとスリム、二つのタイプのラブラドール・レトリーバー』や『ラブラドールに見る、遺伝しやすい行動特性は?』などでも紹介してきました。

また、人の各犬種に求める嗜好が国や地域によって異なっていれば、それぞれの国で生きている犬たちは多少なりとも遺伝的に違いを持つ集団になっていると考えられます。さらには犬が生活している国や地域によって、後天的に差異が生まれることもあるでしょう。たとえば、飼育環境が屋外か屋内か、好まれるトレーニング方法が何か、去勢手術の有無などの環境要因、その国や地域の慣習や社会的背景が影響して、同じ犬種でも行動の違いとして現れてくる可能性は大いにありうることです。

近年、さまざまな犬の認知研究がおこなわれていますが、研究で行われたテストの結果は該当犬種において世界的に見ても普遍的なものであり、どの国や地域でも同じような結果が出ると考えていいものなのでしょうか。そんな問いに答えるべく新たな研究が行われ、『Animal Cognition』に掲載されました。

ハンガリー(ブタペスト)、イギリス(リンカーン)、オーストリア(ウィーン)の認知行動学の研究者らによる共同研究では、よくある飼い主への犬の気質に関するアンケート調査などはされず、あくまでも犬の行動に着目した実験が行われました。3か国3都市において、同じ実験者が218頭の家庭犬に対して4つのテストを実施。参加した犬はボーダー・コリーとラブラドール・レトリーバー、そしてそのほかの犬種という3つのグループ、各20~30頭ずつでした。また、各犬のパフォーマンスは飼い主による“伏せ”のコマンドでテストされました。


4つのテストはいずれもシンプルな内容のもの。こちらは指さしテスト(Pointing test)の様子。ほかに、問題解決テスト(Problem solving test)目的達成テスト(Means-end test phase)記憶力テスト(Memory test)が行われました。

テスト結果を解析したところ、目的達成テスト(Means-end test)においてのみ、犬種差と地域差がわずかに影響していることが示されたものの、全体としては、ブタペスト、リンカーン、ウィーンの3都市で生活している家庭犬たちはそれぞれの犬種において、ほぼ同じようなテストパフォーマンスを示すものとなりました。

テストに対する犬のパフォーマンスだけをみれば、今回の結果のように同じ犬種ならば地域による差異はほとんど見られないことが示されました。しかし、冒頭に書きましたように、地域の犬文化の違いや慣習の違い、飼い主それぞれの違いは少なからず犬たちに影響しています。犬の個性が遺伝と環境両方の影響を受けて作られていくのは、犬がどの国で暮らそうとも同じことです。遺伝的な部分を大切に繁殖をしていくのはもちろんですが、犬の後天的な部分を作り上げていくのも私たちであることを、改めて心に留めておくべきだと思うものです。

【関連記事】

コロコロとスリム、二つのタイプのラブラドール・レトリーバー
文と写真:藤田りか子 どちらがラブラドール・レトリーバーでしょう?答え:両方とも! 先日、アシカのブリーダーの一人であるKさんのところ...
ラブラドールに見る、遺伝しやすい行動特性は?
文:尾形聡子 犬種による違い、そして、個体による違いは遺伝と環境により作られています。 性格や行動特性は気質や本能的行動など遺...