9月の犬散歩

文と写真:藤田りか子

あれよ、という間にもう9月となってしまった。今年も今月をいれて残すところあとたったの4ヶ月!「2026年になりましたねー」などと挨拶を交わしていたの、そんな前のことのようにも思えないのだが。歳をとると、時間が加速したようにどんどん早く過ぎていく。

スウェーデンでは夏のピークといえば7月で、8月からそろそろ「秋に向かうかな」という感じになる。小学校も8月中旬から新学年が始まる。そして9月ともなれば、木によっては上の方が少し黄色くなりかけていたりする。風の吹き方も秋っぽくなり、それは葉がザワザワ言う音で、なんとなくそう感じるのである。犬を散歩する時間帯も「超朝早く」から、「朝」、に変わっていった。これまでは5時に起きても、北欧のことだから、もう太陽がばっちり照っていた。だが、だんだん日が短くなっており、7時ぐらいにならないと太陽はしっかりと登ってこない。


朝!

いつものごとく犬たち4頭をぞろぞろ連れて、今日も朝散歩。ラッコにはリードをつけて。残りの3頭のラブラドールズは、ノーリード。が、アシカ以外は、私の横にヒール状態で歩かなければならない。というわけでアシカがうちの犬たちで一番自由を満喫していると言ってもいいだろう。彼女はノーリードで好きに歩かせても決して20m以上私から離れることはない。本当に楽な犬だと思う。この世の犬がすべてアシカのようであれば、問題犬など存在しないかもしれない。

朝だと10〜12度ぐらいだ。夏の過ぎゆきを感じ、ちょっと寂しい気持ちもするのだが、7月のように、アブにまとわりつかれることもなく、また風がよく吹いてくれるので、蚊にも悩まされることはない。9月初旬は晴天も続き、来る冬を目の前にして、なんというか最後のサービスといわんばかり、人をものすごくポジティブにしてくれる。

砂利道を通り横の牧草地をつききることにした。すると、アシカが急に私の方へくるっと振り返った。「見ました!」と報告。遠くに目をやると、向こうに2頭のノロジカ。オスとメスだ。つくづく、アシカは人と協調できる犬だな。シカを見ると必ずこんなふうに報告しに来てくれる。それに比べ、ラッコはシカに気がつけば、興奮して追いかけていく。ただし、今の彼は後脚が弱っているので、気がついたとしても追いかけようとする気はほぼない。不謹慎ではあるが、そのおかげで、彼は最近だいぶ自由にノーリードで歩く機会が得られるようになっている。そして、今回、シカにまるで気がついていないよう。風向きのせいだろう。視覚・聴覚は衰えているかもしれないが、嗅覚はまだまだ健全。


[Photo by Ivan Oleynikov]

7月〜8月の最初の頃まではノロジカの繁殖期で、オスジカがメスジカを追い回しているのをよく見かけたものだ。しかし今や仲良くいっしょに草を食べている。こんなふうに、秋から冬にかけて、ノロジカはこれまでの単独生活からしだいに小さな群れを作って過ごすようになる。

ちなみにノロジカ猟はすでに解禁となっている。ただし今の時期は、オスジカと子ジカだけ狩ることができる。オスジカ猟は8月の中旬から始まっており、まさに繁殖期が終わったタイミング。つまりもうメスのお腹に子種を授けて次世代は確保された、というところでオスの狩猟は許可されるのだ。どうしてメスは狩猟対象にしていないのか?これがスウェーデンらしいのだ。スウェーデン環境保護庁の狩猟期の手引きに以下のように記されている。

「9月中のメスの狩猟は認めるべきではない。秋のこの早い時期には、子ジカはまだ自力で生きていけないと考えられるためである。研究によると、ノロジカのメスの乳は9月の間に栄養価が大きく低下することが示されており、そのため子ジカは次第に授乳への依存度を下げていくと考えられる。10月初めには、子ジカは自力で生きていけるようになると判断される」

狩猟管理にはきちんと倫理が含まれている。以上の理由によってメスジカは10月からの解禁となる。ちなみに子ジカの方は9月から解禁なので、10月になったら根本的にどのノロジカを狩ってもいいことになる。

そして、オスジカと子ジカだけが狩猟対象となるこの時期は、犬を使って狩猟することもできない。狩猟方法は、忍び猟と待ち伏せ猟オンリーとなる。忍び猟とは、ハンターがそっとシカに近づき撃つという方法。スコットランドのハイランドでアカシカを狩猟しているシーンを映画などで見たことがないだろうか?まさにあの方法だ。そして待ち伏せ猟というのは、たとえばブラインドに入ったり狩猟塔に登ってずっとそこで待ち伏せして、シカが現れたら撃つという方法。

犬を使ってはいけない理由は、まず、犬はオスジカもメスジカも子ジカも区別無く追うということ。それから、子ジカがまだ母ジカに頼っているこの時期に犬に追われると、母子が離れ離れになってしまう可能性もある。犬を使ったノロジカ猟が始まるのも、子ジカが母親なしで生きていけるようになる10月からなのである。


ノロジカは我が家のまわりにはたくさんおり、こうして親子で庭にもやってくる!

散歩の帰り道、遠くから犬がオンオンと吠える声が聞こえた。明らかに、狩猟犬の透き通った吠え声である。

「あれ、犬を放している人がいるのかな?」

誰だ、そんな不届ものは!と思いつつ家に着くと、隣にサマーコテージを持つPさんに出会った。

「あれ、今日はこっちに来ているんだね。コーヒーでも飲んでいく?」

「いや、これから僕は犬のトレーニングに行くんだよ」

とPさん。

そうだ、Pさんの犬はビーグルで、野ウサギを狩る。さっき聞こえた吠え声は、Pさんの車の中からだ。これから猟に行くのがわかって、犬もすでに興奮していたのだろう。昨日から野ウサギ猟は解禁となっているものの、まだ若い犬なので、今日は森に放してウサギのにおいをきちんととれるよう、トレーニングだけなのだという。Pさんは、ウサギ猟が好きというよりも、実はビーグルの働きそのものが好きだという典型的なビーグル愛好家だ。犬がせっかくウサギをみつけても、ときには撃たずに動画に撮りそれだけで幸せ、という人でもある。

秋になると田舎の我が家の周辺は、町からいろいろな狩猟家が集まってくる。また少し賑やかになるのだ。