水の飲みすぎは危険!ペットの水中毒事故ついて

文:サニーカミヤ


[photo by U.S. Department of Agriculture] 楽しいペットとの水遊び。でもそこには思わぬ危険が…

アメリカで、初夏の湖に飼い犬2頭(シュナウザーとプードル)を連れて家族旅行に行った。大人達がバーベキューをしながら歓談していた脇で、2才の女の子が小さい流木を見つけて、シュナウザーを相手にフェッチ(投げたものを犬が取ってくる遊び)を始めた。

シュナウザーも女の子も楽しさのあまり、約1時間、20回以上のフェッチを行ったところ、シュナウザーの様子がだんだんおかしくなり、やがて歩行困難から、意識の混沌、けいれん、意識障害を起こしたため、急いで直近の動物病院を探し、家族で搬送したが、2時間後に死亡してしまった。

搬送先の動物病院で獣医から告げられた診断結果によると、大量の淡水を飲みすぎて、水中毒(Water intoxication)から、低ナトリウム血症(Hyponatremia /ハイポナトレミア)となったことが原因だった。

せっかくの楽しい休日が、ペットを愛する家族にとって、最悪の日となってしまった。犬と遊んでいたつもりの女の子は、自分が何度も木切れを投げたことで、大好きな一番の友達だった犬が死んでしまったことを悲しみ、心がひどく傷ついてしまった。

Dog Dies From ‘Water Intoxication’ After Playing Fetch Too Many Times (出典:Youtube)

犬の水中毒は、日本でも毎年発生している水の事故だ。フェッチに限らず、プールで泳がせたり、水害などで犬が川や海で流されたときにも発生している。

犬友達の友人家族とキャンプに行き、川で犬を遊ばせていたところ、犬が溺れて動かなくなったという事例があるが、その多くの原因は水中毒と言われている。

北アラバマ動物救急クリニック(Animal Emergency Clinic of North Alabama )の獣医ダニエル・ベル氏によると、犬が水中毒になりやすい主な理由は、何かを口にくわえながら泳ぐ際、犬の口の開いたスペースから水が胃に流れ込み、その時間が長かったり、回数が多かったりしたときに、結果的に大量の水を飲んでしまうことから起こるそうだ。

フェッチ以外にも犬にホースからの水を大量に与えたり、プールや海に潜らせて海中にある何かを取ってこさせたりしたことで、水中毒になったことが報告されている。

水中毒(Water intoxication)とは、大量の水分摂取によって生じる中毒症状であり、体内総水分量(TBW)が過剰な状態となって、水の調節機能が正常に働かず、血中のナトリウムの濃度が低下してしまう電解質代謝異常症のひとつ。具体的には低ナトリウム血症やけいれんを生じ、重症では死亡に至る。犬の腎臓が持つ最大の利尿速度を超える速度で水分を摂取すると、体内の水分過剰で細胞が膨化し、希釈性低ナトリウム血症を引き起こす水中毒に陥る。
(引用:Wikipedia)

血液中のナトリウムイオン濃度の低下に伴い以下の症状が段階的に生じる可能性がある。

・疲労や虚脱した様子
・ふらつき等の歩行困難
・腹部の膨満、多量の排尿
・よだれ、痙攣
・呼吸困難、昏睡
・死亡

海の場合は淡水とは異なり、海水に含まれる塩分は少ないが、摂氏30度以上であるなど夏場の炎天下でのビーチフェッチやウォーターフェッチなどの複合的な激しい運動で、十分な水分補給が行われないまま、短時間に大量の水分の排出と海水からの塩分摂取によって高ナトリウム血症になった事例も報告されている。また、喉が渇いた犬が海水を飲んで、さらに遊び続けることで悪化する。

高ナトリウム血症(Hypernatremia / ハイパーナトレミア)とは、短時間に塩分を大量に取る等、何らかの原因により水の調節機能が正常に働かず血中のナトリウムの濃度が上昇してしまう電解質代謝異常症のひとつ。口渇、血圧上昇と浮腫。進行すると、錯乱、神経筋の興奮、痙攣、昏睡に至り、クモ膜下の出血を伴う脳血管障害、静脈血栓症などで死亡する。
(引用:Wikipedia)


[photo by Carolyn Savell]

いずれにしても水の飲みすぎを防いだり、遊ぶ時間や回数を犬の体調を見ながら減らしたりと飼い主の予防力が高ければ、ペットの水の事故は防ぎ得るものである。特に泳がせて遊ぶときには愛犬が過度に疲れすぎないよう、遊んだ後の変化も考えながら、水中毒のリスクも考えて遊ぶことで楽しい休日を過ごせるのではないかと思う。

また、水の事故に限らず、ドライブ中に愛犬がシートの間に足を挟んで脱臼するなどの万が一のことを考え、愛犬と遠出するときには、現地で休日診療を行っていたり、緊急対応をしている獣医も調べてから行くといいかもしれない。事故が起こってから調べても開いていなかったり、たらい回しになったり、事前準備不足で助かる命が助からないこともある。

遊びに行くときに事故が起こることなど、考える気にもならないかもしれないが、適切な処置を行い、必要な医療機関へ、できる限り短時間で行くことを考え、きちんと知っておくことで、防げる事故はたくさんある。また、自分が知ったことは多くの人と共有することで、ペットへの安全モラルと飼養環境がさらに向上すると思う。

それでは、また。

本記事はリスク対策.comにて2018年7月4日に初出したものを許可を得て転載しています

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事。一般社団法人 日本国際動物救命救急協会代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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