犬は明確さが好き

文:藤田りか子


[Photo by gaspar zaldo]

初心者の飼い主にありがちなのが

「ポチ、あ、そっちじゃないの、こっちよ〜、ね、こっち。あなただってわかんなくなっちゃうわよねー」

「ね、ちゃんとお母さんといっしょに歩こうねー。いいこ、いいこ!あらあら、またそっちにいっちゃうの。だっていいにおいするもんねー。あれれ、そうそう、それでいいのよ。うん、うん、そうだよね」

などと延々に犬に話しかけることだ。

人同士のコミュニケーションの癖でもある。相手を思いやるほど、私たちは説明を加えたり、同じことを繰り返したりする。それが丁寧であり、親切だと信じているからだ。逆に一言、二言しか言わない、というのは冷たく、ぶっきらぼうに聞こえる。

犬が思う通りに行動してくれないときなども、これまた人同士のコミュニケーション方式をつい適用してしまう。

「もっと説明すれば伝わる!」

「もっと声をかければ分かってくれるはず!」

と、さらに言葉が増えていく。そもそも人は、沈黙のまま待つことに居心地の良さを感じない。よってしゃべる続けるのは、犬のためというよりも、自分の不安を和らげるための行動だったりする。

しかしここは「犬マインド」に気持ちを切り替えて!たくさん話しかけていると、犬に気持ちが伝わる、と信じている人はとても多いのだが、犬はそうは考えない。冷たいように聞こえるかもしれないが…。犬とコミュニケーションをとるときは、思いやりよりも、「明確さ・明瞭さ」が大事!いや、「明確さ・明瞭さ」こそ、私たちが犬に対して見せることのできる「思いやり」なのかもしれない。だらだらと犬に話しかけても、犬にはバックグランドミュージックにしか聞こえなくなるだろう。

というわけで、やたらと犬に延々と話しかけてしまう人、そして、犬が言うことを聴いてくれないと悩んでいる人、犬と接するときは、我々の「人モード・コミュニケーション」から切り替える練習をしてみるのはいかがだろう?

以前「トレーニングでは、”犬に話しかける” はやめた方がいい」でも述べたように、犬に何か技能(リードをひっぱらないトレーニング、呼び戻し、禁止トレーニングから、ドッグスポーツ技能まで)を教える際は、できるだけ情報のノイズを減らし、必要な「信号」だけを明確に伝えるのが大事だ(詳しくはリンク先を読んでね)。それからもう一つ、トーンも重要だ。男性にありがちだが、「いい子だね!」も「だめ!」も同じトーンの人がいて、これまた犬にはわかりにくい。

トーンの大切さについては、すでに科学的エビデンスもある。尾形聡子さんの記事「犬は人の発する「音に含まれる信号」をどう解釈しているか?」にとても面白い記載がある。研究では、人は意味のない「ブー」という音だけを使って犬に「やってよい(Yes)」「やってはいけない(No)」という意図を伝えた。すると犬は声の高さや強さ、抑揚といった「音の形(音響コード)」だけから見事に、人の意図を読み取ることができたのだ。ちなみにみなさんも実験してみるのはいかがだろう?!

そして、自分の経験やこれまでのインストラクターからの教えにもとずけば、犬は、わかりやすい指示ほどよく耳を傾ける。だからこそ、モノトーンだったり、やたら言葉多くを連ねられると、次に何をしたらいいかわかりにくくなるし、その結果、飼い主の指示に耳を貸さなくなっていく。

わかりやすいコミュニケーションをするには?

犬にとってわかりやすい「信号」のひとつとして「いいよ!」とか「OK!」がある。これは許可やタスクの終了を意味する合図だ。まずは、日常生活の中で、「いいよ!」「OK!」という合図を使いこなして欲しい。そしてそのような場面がどういうときに発生するか、ちょいと考えてみよう。きっと思っている以上に、たくさん見つかるはずだ。

たとえば、「オスワリ」を考えてみるといいだろう。飼い主が「オスワリ」と言えば、たいていの犬はちゃんと座るものだ。ただし、そのあとが結構あいまいだったりする。あるときは、犬が勝手に立ち上がっても何も言われない。ところが別の機会では「No!」とお叱りを受ける。同じ「オスワリ」という指示なのに、いつまで座っていればいいのかは、そのときどきの飼い主の気分や状況次第。そう、みなさんにも覚えがないだろうか?犬からすると、かなり「見えにくい」コミュニケーションでもあり、同時に「No」と言われた日にはとてもアンフェアでもある。そこで「いいよ」という許可の合図の出番なのだ。この許可言葉を統合すると、犬とのコミュニケーションの明確さは、グッとアップする。

この合図が出されたら、犬は立っても、歩き出しても、地面の草を食べても、好きに行動してOK。それをルールとして一貫させよう。そうすると「いつまでその行動を続ければいいのか」がわかりやすくなる。ちなみに、私はドッグスポーツをトレーニングしている故に、犬に座らせてから、その後、何をするべきかを犬に予測可能にするために、二つの異なる単語を使い分けている。一つは

「オスワリ、ステイ!」

この合図がでると、私が戻ってきて「いいよ」の合図がでるまでそこにとどまっていること。もう一つは、

「オスワリ、マテ!」

これは、「座り続けていてね。次のコマンドでは何かアクションを出してあげるから」

という意味だ。たとえば、「マテ!」と言ったあとに、呼び戻しの「おいで!」が出たりあるいは、ガンドッグトレーニングしているのであれば「バック!(後ろへまっすぐ走ること)というようなコマンドが出る。ステイとマテの区別をつける一番のメリットは、「ステイ」だとただ待つだけなので、犬もリラックスすることができる。そしてそのようなパッシブな状態は、私がまさに「ステイ」の際に求めているものだ。しかし「マテ」だと、次のアクション(来い!など)がやってくるので、犬はある程度のテンションを保ちながら、そこに座り続けることができる。予測できるからこそ、気持ちの状態もそれに応じて切り替えることができるのだ。

話を戻そう。「いいよ」という合図は意識して使うのが大事だ。私たちは時には、「はい、もう終わり。遊んでおいで!」とか、「ありがとう!」などと、「許可」を出す際にいろんな言葉を使いがちだし、そうするのが「人のフィーリング」としては自然でぴったりくる。もちろん、先の研究にもあったように「ブー」という言葉でYes、Noを伝えることはできるが、それでも言葉とトーンには一貫性があった。というわけで、解放と終了については「いいよ」(あるいは「OK!」)といった決まった言葉を使うように徹底してみることだ。


[Photo by Tadeusz Lakota]

シーンとしては、犬が、仲の良い犬と遊びたくて、ドッグランへ飛び出して行きたがっているときなど。このような状況では、お友達よりもまずは飼い主に注意を向けるほうが得だということを教える絶好のチャンスだ。短時間でも構わないので、練習をしてみよう。

  1. まずは「オスワリ」などの指示を。犬は遊びたくてその命令には気乗りしないだろう。それでもなんとか座ってもらう。自分の犬に信用ができないのであれば、最初はリードをつけたままで。
  2. 指示を聞かず、お友達犬のところに走り出そうとしても、叱ったり追加の指示を出したりせず、犬が勝手に行かないようにリードで押さえておくこと。
  3. 犬がこちらを見るのを待つ。犬がアイコンタクトをとってくれたら、褒めてその後リードを外し「いいよ」とか「OK!」の合図を出そう。

以上のようなトレーニングを、ケージから出る時や、ドアから出る時にもやるとよし!

このように日常生活の中で小さな練習をどんどん積み重ねていけば、犬にとって飼い主の行動はより予測しやすくなるはずだ。そしてここが犬と上手に付き合える人とそうではない人の分かれ目ともなるのではないかと思う。上手な人は「次に何が起こるのか」が犬にとってわかりやすい環境を常に作っている故に、犬はその人に安心感を抱くし、よりその人の発する言葉に丁寧に耳を傾けようとする。だから言うことを聞いてくれやすくなる。

こんな簡単な日常トレーニングで、コミュニケーション力がアップするのだ。ぜひぜひお試しあれ。なお「いいよ」のさらなるトレーニング方法については「「解放のシグナル」という魔法の言葉を犬に教える」を参照にされたい。