犬もテレビを見る時代に?〜性格によって異なる視聴の好み

文:尾形聡子


[photo by Massimiliano Sarno]

こんなにも暑い日が続くと、テレビを見たりパソコンで動画を見たりする時間も増えるのではないでしょうか。そんなとき、みなさんの愛犬はテレビに興味を示すことはありますか?

技術の進歩が犬のテレビ視聴を可能に?

テレビはもともと人間のために設計されたメディアです。二次元の映像であり、映像に対応するにおいもありませんし、音質も実際に聞こえるはずのものとは異なります。私たちはその制約を理解した上でテレビを見ていますが、犬にとってはどうでしょうか。

とはいえ、犬も私たちと同じ社会に暮らすなかで、多くの人工的な装置やテクノロジーに触れています。自動車などはその典型でしょう。そして現代のテレビは、かつてのブラウン管とは比べ物にならないほど進化しています。リフレッシュレート(ディスプレイが1秒間に画面を更新する回数)の向上により滑らかな動きの映像を見ることが可能となり、音響技術の進歩も著しく、視覚・聴覚の双方に訴える情報量は格段に増しています。

実際に、犬は映像を通じて画面に映る人と交流し、トレーニングができることも以下の研究で示されています。リアルほどではないものの画面というものを通じてやり取りが可能です。

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さらに2024年には、犬のテレビ視聴について調査したアメリカの研究が発表されました。その研究では1,246名の飼い主へのアンケート調査によるもので、ほとんどの犬はテレビに映し出される映像を見るものの数分と短く、自分と同種の犬が登場するものに最も強く興味を示していました。また、老犬よりも若い犬が、ハーディンググループおよびスポーツグループの犬種(アメリカンケネルクラブ:AKCによる分類)の犬がよりよくテレビに注目していることが示されています。

犬のテレビ視聴の研究が行われるようになり始めた背景にはもうひとつ、アメリカで放映されている犬向けの専用チャンネル「DOGTV」が話題になったこともあるでしょう。

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このような状況下、アメリカのオーバーン大学の心理学者らは、テレビは犬に新しい知覚の体験を与え、日常生活にエンリッチメントとなる刺激あるいはストレスとなる刺激をもたらす可能性があると考え、犬のテレビ視聴に関しての知見を得るために大規模調査を行いました。


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犬はテレビの何に興味があるのか?

研究者らは、犬がテレビから流れるコンテンツに対して、視覚的/聴覚的にどのように反応するかを調べるために「犬のテレビ視聴尺度Dog Television Viewing Scale」を作成し、オンライン調査を実施しました。たとえば、犬はどのような音に反応するのか、どのような物体を追いかけようとするのか、どのような動物に反応するのか、自動車などの非生物にも反応するのかというような具体的な行動をたずねる16項目の質問が含まれていました。それ以外に参加者は、犬の人口統計学的な質問、テレビ視聴習慣に関する質問(飼い主の週あたりの平均視聴時間、犬にテレビをみることを教えようとしたか、犬がテレビに注目する頻度や時間など)、犬の感情状態を測定するためのポジティブ・ネガティブ活性化尺度(PANAS)、犬の衝動性評価尺度(DIAS;人のADHD評価尺度と類似したもの)にも回答をしました。

回答があった650名の飼い主のうち、犬がテレビを見ていると回答した453頭の犬について解析を行なったところ、453頭の犬は生後2ヶ月齢から16歳で、純血種300頭、雑種犬153頭、純血種にはAKCの7つの犬種グループすべてが含まれていました。

これらのデータを主成分分析したところ、犬のテレビ視聴には3つの特徴的な視聴傾向があることが示されました。

3つの視聴傾向

犬は動物に惹かれる
犬がテレビに映し出されるものでもっとも興味を持つのは動物でした。中でも犬の映像がもっとも人気で83%の犬が注目していることがわかりました。同様にほかの動物(ペットであれ屋外の野生動物であれ)も人気があり、70%の犬が反応していました。一方で人に対しては35%の犬だけ、非生物に関してはほとんどの犬は反応を示していませんでした。

予測追従行動を見せる
一部の犬は「予測追従」と呼ばれる行動を見せていました。画面を横切る物体がある場合、いずれ画面からは消えてしまいます。そのようなとき、犬がその物体が消えた方向を探しに行く行動です。転がるテニスボールを追いかけようとしたり、テレビの裏側に何か隠れているのではないかを探してみたりする、というようなものになります。

非生物あるいは人への反応
テレビに注意を向ける時間が長い犬は、平均して非生物への注目が長くなる傾向にありました。

犬の性格と視聴嗜好

犬の性格とテレビのコンテンツの好みなどにもさまざまな関連性が見られました。

たとえば、特徴3つ目の非生物などへの反応の強さは、感情状態がネガティブな犬は、非生物や人に強く反応する傾向が見られました。また、不安や恐怖の高い犬は、ドアのインターフォンや車のクラクション、人の声などに強い反応を示していました。また、2つ目の追従行動は、興奮しやすい犬において有意に高いことも示されました。意外にも天気の音(雷や雨など)についてはほとんどの犬は無反応でした。

そのほか、聴覚的な嗜好としては視覚と同様、動物の中でも犬のと吠え声や遠吠えなどの鳴き声全般に最も多くの反応が見られました。

これらのことから、犬は視覚的にも聴覚的にもテレビの中の犬に最も興味を惹かれていましたが、非生物に関しては視覚よりも聴覚的な刺激に強く反応する傾向があったことになります。

また、犬の年齢や性別、犬種、テレビ視聴経験の長さなどの要因は犬の視聴嗜好にはほとんど影響をしていませんでした(2024年の前出の研究とは異なる点)。

これらの結果から研究者らは、犬のテレビ視聴行動に影響を与えうる要因を評価できる尺度を開発し、犬はテレビへの反応を刺激の種類(犬、その他の動物、人間、非生物)と行動の種類(注意喚起行動と予測追従行動)の両方に基づいて行なっていることが示唆されたと結論しています。つまり、犬はテレビから流れる映像と音に対して「意味のある反応」をしていると言え、二次元の映像でも自分の知っている物体として認識している可能性が高いということです。さらに、個体の気質による違いも、犬が受ける刺激の種類に影響を及ぼしていたことから、たとえば犬の保護施設でのテレビの利用などにおいて、人工的な視覚および聴覚刺激に対してよりよいコンテンツの選択ができる可能性を示すものだとも述べていました。


[photo by funstarts33]

テレビコンテンツ、流すときには音量小さめで

個人的な話になりますが、私のかつての犬たちはまったくと言っていいほどテレビに興味を示しませんでした。テレビから流れる音に関しても同様です。たとえば、消防車や救急車の音でもれなく遠吠えしていたかつての愛犬タロウですら、テレビからそれらの音が流れても一度も遠吠えすることはありませんでした。

タロウのようにテレビに興味を持たない犬も当然たくさんいることでしょうし、今回の研究は「もともとテレビに関心を示す犬」を対象に行われていたため、すべての犬に同じような反応が見られるとは限らない点には注意が必要です。

とはいえ、テレビ(あるいはパソコンなどの映像コンテンツ)が、犬の心にポジティブな刺激を与える手段として今後活用される機会は、ますます増えていくかもしれません。冒頭で紹介した犬向け専門チャンネルも依然として放送され続けており、たとえば猛暑や悪天候で散歩が難しい日など、屋内で犬に楽しみを提供する選択肢の一つになる可能性があると思うからです。

ただし、忘れてはならないのが犬の優れた聴覚です。犬は私たちには聞こえにくい音量や周波数の音まで敏感に察知できます。私たちにとっては適切に思えるテレビの音量でも、犬にとっては雑音が多く、全体的に騒がしすぎてストレスの原因となってしまう可能性もあります。犬のために映像コンテンツを流す際には、音量を控えめに設定することを意識していただければと思います。

もしみなさんの愛犬がテレビに興味を示すようなら、どのようなコンテンツを好むのか、ぜひ注意深く観察してみてください。愛犬の好きなコンテンツをつなぎ合わせて流してみると、意外にも集中して見入る姿が見られるかもしれませんね。音量のほかにもう一点、多くの犬がテレビを見続ける時間は数分程度のようですので、メリハリをつけて短時間で試してみるのがよさそうです。

【参考文献】

Characterizing TV viewing habits in companion dogs. Scientific reports, 15(1):20274. 2025

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