文と写真と動画:田島美和
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産後、日本では最低でも5日間産院に入院する。こんなに長期間、愛犬の美波と離れ離れになるのは、初めてのことだった。入院中、夫が送ってくれた写真の美波はまるで見捨てられたような、どこか寂しそうな顔に見えた。退院前日の夜、美波は珍しく外に出たがったという。夫はトイレかなと思い、外に連れ出したがまっすぐ車のところへ行ったそうだ。“美和を探しに行こう”と言っていたのかなと、勝手に想像して心が痛んだ。
待ちに待った、美波との再会の日。生まれたてほやほやの我が子、ゆず(仮名)を車に乗せて、自宅に到着。ゆずを抱いたまま家に入ると、私の帰宅に大興奮した美波に攻撃されると思ったので、ひとまず私だけ家に入った。すると案の定、美波は今までに見たことないくらい全身で喜びをあらわにした。耳をペタンと寝かしつけ、ちぎれそうなくらい尾を振った。再会の喜びがおさまったのを見計らい、私はゆずを抱いて美波に見せた。「見せて見せて!」と言わんばかりに立ち上がって、一生懸命においを嗅ごうとした。咬まれる心配は一切していなかったが、とにかく爪が怖かったので、一旦座らせようとした。この一部始終は以下の動画をご覧いただきたい。
さあ、今日から新しい家族の生活がスタートする!と、幸せでいっぱいだったのもつかの間、育休開始早々に夫がコロナを発症。その2日後に私も発症した。幸い、ゆずと美波には感染しなかった。当然美波はいつも通り散歩に行きたがった。が、毎日はできなかった。なので、時折近所の友達に頼んだ。いざというときに犬の散歩を頼める人がいるというのは、本当にありがたいことだと改めて思った。
さて、慌ただしいスタートだったが、その後は順調に進んだ。私たちがゆずを迎えるにあたって、どのような注意をしてきたかを紹介したい。よく
「犬を飼っていると子供がアレルギーになりにくい」
と聞く。実際、喘息や食物アレルギーの発症を抑制する効果があると、研究で明らかになっている。ところが、私の夫にはそれが全く当てはまらない。おまけに犬アレルギーも持っている。ただ、研究事例の方は室内飼いの犬が対象とされているが、夫が生まれた頃、犬は外飼いだった。
とはいえ、私たちはゆずが犬アレルギーになるのを恐れ、とにかく部屋を清潔に保ち、なるべく犬と接する機会を減らそうと心がけた。また、2週間に1回は美波を洗った。ベビーベッドを寝室と居間に一台ずつ用意し、掃除機を頻繁にかけ、空気清浄機を常時稼働させた。ゆずはベビーベッドに寝かせておけば、犬が自由に近づくことができないので安心だ。ただし、ゆずを抱いているときに美波が近づいてきた際は、きちんと座っていることを条件に美波に見せた。あまり厳しくゆずに近づくことを拒否するのは、ゆずと美波の良好な関係を築く上で良くないと思ったからだ。新生児期を過ぎてからは、ほどほどに顔を舐めることを許している。
困ったことに、美波はゆずを舐めるとき口を集中的に舐めようとする。手でその口を払い除けようとしても、逆にその手を鼻で退けようとする。まるでご馳走を舐めるような執着具合だ。しまいには、ゆずの方も美波が舐め始めると、まるでそれに応えるように舌を出すようになっていた。流石にまずいと思い、美波がゆずの口を舐めた瞬間に注意をするようにしたら、頻度は多少減ってきた(下の動画)。
美波に限らず、これまで出会った犬は皆、ゆずの口を舐めようとした。考えてみれば、犬は子供のみならず、大人の口だって舐めようとする。ちなみに、人に飼い慣らされたオオカミもものすごい勢いで人の口を舐めてくる。これは、もともとは子オオカミが母親に餌を吐き出すよう促すための行動から来ているものだ。美波がゆずの口を舐めるのは、家族の一員として親しみを込めて挨拶をしているのだと思う(この記事も参考に:愛犬がペロペロ舐めてくれる、私のこと好きだから? )。ついでにゆずの手足も舐め、隙あらば裸のときは全身舐めそうな勢いである。子犬を可愛がるように、ゆずを可愛がろうとしているのは間違いないだろう。
犬に口を舐められるとどのようなリスクがあるのか。調べてみると、犬にとっても人にとっても、人獣共通感染症に感染するリスクがあるという。でも、会う人皆口を揃えて「これで免疫力がバッチリつくね!」と言ってくれる。ただし私の知人には動物に触れていたにもかかわらずアレルギーになってしまった人が少なからずいる。馬の獣医をやっていて馬アレルギーになった人、クマの研究をしていてクマアレルギーになった人、親が動物園の飼育員で幼少期はビーバーと同じプールで泳いだりしたが、それでも動物アレルギーになってしまった人などなど。動物には適度に触れ合うくらいに止めておくのが良さそうだ。
アレルギーのみならず犬に子供が攻撃されることはないだろうか、にも気をつけた。美波が意図せずゆずを攻撃してしまったのが、下の写真。ゆずを抱いているところに美波がやってきたので、においを嗅がせてあげようとしたら、美波はゆずに興奮してついついパピーリフト(前脚を出す)をしてしまった。ゆずの額に痛々しい爪痕がついたが、翌日には消えていた。
この他、攻撃には至らなかったが、美波がゆずに唸ったことが2回あった。1回目は美波がこたつでくつろいでいたすぐ目の前にゆずを置いてみたとき。2回目は彼女を離乳食椅子に座らせてみたとき。1回目の方は予想通りだった。くつろいでいるところに、強制的にゆずを近づけたので、不愉快だったのだろう。2回目はゆずによるアイコンタクトが原因だ。ゆずを椅子に座らせると視線の高さが床から30cmくらいになる。座椅子ソファーに伏せていた美波と、ちょうど視線の高さが同じになり、美波は犬として礼儀正しくゆずと目を合わせないようにしていた。が、あまりにもゆずが見つめてくるので、美波は困惑し唸り声を上げた(下の写真)。
赤ちゃんらしく相手を「じっと見つめる」ゆず。犬はこの「じっと見」に不安を覚える。
私の想像だが、ゆずがまだ寝たきりの状態だと、美波にとっては可愛がる対象としてみなされるものの、そこそこ歩けるほど成長した状態になると、もはや社会的な躾を仕込む対象になるのだと思う。ゆずより2歳年上の姪に対する行動を見ていると、そんな感じだった。姪がやっとつかまり立ちができるようになった頃、美波は姪に触られても我慢して無視している様子だった。ところが、歩けるようになった後に会ったときには、姪の顔の前でカチッと歯を鳴らし、反応を確かめているような行動が見られた。姪の方はというと、大の動物好きで美波に会うたびに大興奮していた。犬に対する恐怖心が全くなく、こちらは会うたびにヒヤヒヤだ(下の動画)。
親がそんなに頑張らなくとも、犬と子供で自然と良い関係ができるのではないかと思いつつ、やっぱり心配してしまう。安全であることは必須だが、時に痛い思いをしながらも、美波からたくさんのことを学んで欲しいと思っている。
子供と犬の付き合い方については知識が必要だ。以下の記事も参考にしてほしい。
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