文と写真:近藤奈緒子
[Photo by Rikako Fujita]
ノーズワークスポーツクラブの推進メンバーである近藤奈緒子さんによる「北欧、犬をめぐる旅シリーズ」その3をお届けいたします。前回の「スウェーデンのノーズワークコース見学に行く!の巻」の続きとなります。
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NW2になんと40組のエントリー!
スウェーデンに到着してから連日快晴。ノーズワーク競技会当日もお天気は晴れ、気温が28度近くになる暑さとなった。しかし湿度が低く乾燥しているので、汗をかかない。日差しが強いために、参加者の多くの人が肌を露出した 。1日外にいると肌が赤くなるのだが、誰も日焼けをあまり気にしない様子だった。そして犬達も気温の割にはパンティングをしていないことに気づいた。
この日のノーズワーク競技会は午前の組(20組)と午後の組(20組)で計40組のエントリー。藤田りか子さんとミミチャンペアは午前の組ということで、受付が始まる朝9時に間に合うように家を出発。会場につくと、ホワイトボードに黒マジックで3文字だけ「NWP」(Nose Work Parking)と書かれた駐車場の場所を示す看板が目に入った。その素朴な感じがスウェーデンのノーズワークらしさを感じさせ、りか子さんと笑ってしまった。
駐車場には既に10台以上の車が止められており、各々が受付が始まるまで競技者同士で話をしたり、犬を散歩させたりして過ごしていた。エントリーしている犬種は様々で、ジャーマン・シェパード、スタッフォードシャー・テリア、ローデシアン・リッジバッグ、ポデンゴ・ポルチュギーズ…などなど 他にも珍しい犬種がたくさん出場していた。さらに日本と違うのは、中・大型犬の方が多いことだ。
ジャッジ2名、タイムキーパー2名、スチュアード(ジャッジ補佐&記録係)2名の計6名がスタッフとして動いていた。ジャッジ2名は各2エリアずつ担当を受け持ち、一人はエクステリア(屋外)&インテリア(屋内)。もう一人は前回の記事で登場したマッツ・ヘッドルンドさんで、ヴィークル(車両)&コンテナ(容器)の審査を担当した。
こんな風に競技会は進んでいった
この日の競技会の設定は全てのエリアに2ハイド、つまりエリア内ににおいが2つ隠されている。各エリアの設定は以下の通り。
- エクステリアサーチ 制限時間4分
- インテリアサーチ 制限時間4分
- ヴィークルサーチ(車両3台)制限時間3分
- コンテナサーチ(容器40個)制限時間2分30秒
NWクラス2(中級)というだけあって、サーチエリアも広かった。コンテナは40個で2分30秒と、なかなかハードルが高い設定のように思えた。
40個のコンテナー。これで制限時間は2分30秒!参加者が競技会前に下見をしているところ
日本から来た私に気を使ってくださったようで、ジャッジのマッツさんは競技会の見学をOKにしてくれた。本来、ノーズワークは見学が不可な場合が多いのでありがたいことだ。見学不可の理由は、犬が集中してサーチできるようにするため。見学者の動きや話し声は犬の集中の妨げとなる。私も細心の注意を払って見学した。だから、ノーズワーク競技会は静かに進んで行く。
競技者がサーチエリアに来ると、ジャッジが名前を確認。「準備できた?」と声をかける。競技者はスタートラインを前にし、各々のタイミングでサーチを開始。各エリアのサーチが終わると、ジャッジはハンドラーにサーチのフィードバックとしてアドバイスを伝える。みな、真摯に耳を傾けて聞いていた。明らかに落ち込んでいる人にはジャッジがハグをして慰めて いるときもあった。
スコアシートに得点、フォルト、タイム、良かった点、気づいた点のコメントを書きこんでいく。スウェーデンではジャッジの話を聞いた後に、「ありがとう」とお礼を言ってからエリアを去るというのが一般的 のようだった。
ミミチャンとりか子さんペアは…??
さて、りか子さんとミミチャンペアのサーチもドキドキ・ワクワクしながら見学させてもらったのだが、最初のエクステリアでは2ハイドで、1ハイド発見後にタイムアップとなった。1つのエリアに25点が与えられており、全てのハイドを発見しなければ25点獲得とならないのでディプロマ(満点取るともらえる証書)を逃がしてしまった。
次のインテリアは2つとも好タイムで発見したものの、最後の「フィニッシュ」がジャッジとタイムキーパーに聞こえなかったとのことで、不運にも制限時間MAXが加算されてしまうという事態に。聞こえていれば、課目別で入賞できそうなタイムだっただけに、とても惜しかった。NW1とは異なり、NW2からは、サーチエリア内のハイドを全て発見した後に「フィニッシュ」と言わないと、ストップウォッチが止まらないというルールになっているのだ。
その後、ヴィークルのサーチでは1つ目はすぐに発見するも、2つ目はエラーアラート。ハイドが隠された位置と車体を挟んで反対側で浮遊臭をとらえ、最短距離で臭源に近づこうとするミミチャンが車両の下に潜り込もうとするのを止めるのが大変そうだった。届かない場所に隠されているケースもあると考えたりか子さんはハイドが車両の下にあるのかも、と思ったそうだ。アラートといった場所が臭源から離れていたためにエラーアラートと判断された。
フィードバックの際にジャッジのマッツさんが
「ルールとしては車両の下にハイドが隠されていることはないんだよ」
とりか子さんに伝えていた。
コンテナも1つ目を発見したが、2つ目は正解とは異なる箱でエラーアラート。コンテナの時には完全に心が折れて「集中が切れていた」とりか子さん。
連日の忙しさと疲れも重なったこともあり、今回の結果は完全にハンドラーである自分に原因があると、りか子さんは落ち込んだ様子だった。彼女には申し訳なかったが、私個人としてはミミチャンとりか子さんのサーチから多くを学ばせてもらうことができ大変ありがたかった。成功のサーチは見ていてとても楽しいものだが、失敗のケースからは多くの気づきと学びがある。
満点を取るときは、発見タイムも早いので圧倒的優勝をするというミミチャン。今回満点を取ればディプロマ3枚目獲得でNWクラス3へ昇格というところだったので、満点を逃したことにりか子さんもショックを隠せない様子だった。が、それだけ1回1回真剣に競技会に臨んでいるということなのだなと感じた。
こうして競技会にのめりこむ…
競技を終えたりか子さんと共に、会場からそれほど遠くない場所にある湖に行った。3頭の愛犬たちを散歩したり泳がせたり、あるいはパッシブトレーニングをしつつ、静かな森の中で湖面を見ながら心を落ち着けているようだった。自然の中に身を置き、一人静かに向き合う姿が印象的だった。私は足早に森の中を歩いて行くその背中を、息を切らし追うので精一杯だったが。
競技会の後、りか子さんと湖のほとりに行った。まずはここで頭を空っぽにするのだそうだ。
その後、りか子さんはなんと即座に次のノーズワーク競技会に申し込んでいた。ダメだったから諦めよう、ではなく、次こそは!と気持ちを切り替え前に進む。原因を考えたり、自分の解釈や練習方法を見直し、試行錯誤を重ねていくことが愛犬と通じ合えることに繋がっていく。こうして競技会に、はまっていく人は結構多いのだという。
りか子さんが次に申し込んだところは自宅から300kmも離れたところ。
「この競技会の定員は80人。だから抽選で当たるかも」
とも。スウェーデンでは、におい認識テストもノーズワーク競技会も頻繁に開催されているが、あっという間に定員に達する。申し込んだからといって必ず参加できるとも限らない。だから、遠くでも定員が多い競技会に申し込むのだという。
日本ほど娯楽がないから、こういうことに時間を費やしているのだろうかとも思ったが、そうではないのだなと理解した。犬とスポーツに挑むということは、犬だけでなくて自分自身と向き合うことにもなり、そこが面白さでもあるのだと、私も最近になって少しずつ理解し始めている。
そして、仲間の結果に共に一喜一憂する姿も印象的だった。りか子さんのノーズワーク仲間が、彼女宛に翌日励ましの長文を送ってきたそうだ。その人も競技会に参加していたのだが、結果が思わしくなかったようだ。こんな風に、競技会場や練習会場で会う友人知人と共にいっしょに喜んだり落ち込んだりしながら、情報交換したり、練習したりして切磋琢磨し成長していく…、これらがドッグスポーツがライフワークになるほどの楽しみにつながる理由なのだろうと思った。
つづく
文:近藤奈緒子(こんどうなおこ)
ドッグトレーナー。SCENT LINE(セントライン)代表。2006年より東京を拠点に各地に赴き、出張トレーニング、シッター、ドッグウォーク等を行う。犬の持つ才能を活かしたいという思いから、2002年より嗅覚を使ったアクティビティや、家庭犬向けのドッグトレーニングを学び始め、2018年より北欧流ノーズワークに力を注ぎ、ノーズワークスポーツクラブ(JNWSC)の推進メンバーとして設立に携わる。愛犬は沖縄で保護された琉球犬Mix 名前はやんばる♀ 2014年11月生。http://www.scentline.jp/
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