短頭種の気道閉鎖症候群にはどんな病気のリスクが生ずるのか

文:尾形聡子


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2022年、ノルウェーでブルドッグとキャバリアの繁殖が違法だとされました。いずれの犬種も努力の甲斐なく健康の改善が見込めないため、そのような動物を繁殖させること自体が福祉に反すると判断されたからです。ただし、短頭種の健康問題に関してこの2犬種は氷山の一角ともいえ、とくに小型の短頭種が世界的に流行している昨今、短頭種の健全性に関する懸念があちこちで生じています。

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犬曰くでもこれまでに何度も短頭種の健康問題について取り上げてきました。しかし、この懸念の声がなかなか届いていないと感じ続けています。その背景には上のリンク先記事にある海外の研究で示されているように、少なからず、短頭種の不健康な状態が「犬種として当たり前の姿」と捉えられていて、何の疑問も持たない人々がいるという状況があると思います。あるいは、「うちの子は大丈夫だから」と、目の前に問題がなければ他はどうでもいいという考えが根底にあるのかもしれません。

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決して、短頭種に関わる方々を非難しているわけではないことを先にお伝えしておきます。同時に、短頭種を飼う人へ非難が向けられるようなこともあってはなりません。大切なのは、飼い主として、犬が好きなひとりの人間として、今、短頭種が置かれている状態にしっかり目を向け、耳を傾けることだと思うのです。


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気道閉鎖症候群(BOAS)とその合併症

短頭種は短い鼻、丸い頭蓋骨を持つため、外鼻孔狭窄や軟口蓋過長、気管形成不全などいくつもの病気が合併して上部気道が閉塞する気道閉塞症候群(brachycephalic obstructive airway syndrome:BOAS)という呼吸器疾患にかかりやすいことが知られています。正常なように見えても呼吸は正常ではなく、慢性的な低酸素症や、そこから二次的にさまざまな全身症状を呈することがあります。

この病気の最大の問題は、慢性的で進行性であることです。気管周りの構造異常のため外科的介入をしなければ良くなることはありません(ただし、手術をすれば30〜90%で改善が見られるとの報告もあります)。常に呼吸がしにくい状態は、その犬の生活の質に悪影響を及ぼします。

BOASの呼吸器症状としては、呼吸をするたびに雑音が混ざる、いびきをかく、少し動いただけでパンティングするなどがよくみられます。いびきだけでなく睡眠時に呼吸が停止するなど睡眠障害につながることもあり、人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群と類似点が多いと言われています。犬に直接尋ねることはできませんが、快眠とは程遠い睡眠時間を強いられている可能性があります。動くと息が苦しくなる上に満足な睡眠がとれていなければ、なおさら運動を嫌がるようになるかもしれません。

また、呼吸器と消化器は密接な関係があるため、呼吸器症状をあらわす短頭種の97%が消化器疾患も有するという報告もあります。嘔吐や嚥下障害、食道運動障害による逆流などがその症状です。短頭種の咬合は基本的にアンダーショット(アンダーバイト)のため、口腔内の慢性的な炎症や歯周病などにつながる可能性もあります。

鼻そして喉ときたら耳。人も犬も同様に、鼻と喉と耳はつながっています。短頭種は外耳炎のみならず中耳炎にもなりやすいことがわかっています。犬に一般的に発症する中耳炎は、外耳炎が悪化して中耳炎に至るケースですが、短頭種はそれ以外にも頭部の構造的特徴から中耳に粘性の滲出物が溜まりやすいために中耳炎(滲出性中耳炎)を発症するリスクが高いとされています。

これらの病気のほかにも、高血圧、低酸素血症なども併発しやすいことも報告されています。


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不健康な状態は正常ではない、という意識を

短頭種は鼻が短いため鼻腔内の表面積が小さく、体温調整が苦手です。この季節でもすでに体温が上がりやすくなっているので、短頭種の飼い主の方は熱中症によりいっそうの注意が必要です。また、短頭種がかかりやすい病気はBOASだけではありません。皮膚病や目の病気、難産など頭蓋骨の形が起因するほかの病気も頻繁に発症しています。

BOASはすぐに命にかかわってくるような病気ではありませんが、気道閉鎖や逆流関連の病気は進行性であり、全身に悪影響を及ぼし続けます。少しでも症状を軽減するには、太らないようにしたり運動を制限したりしなければなりません。

思い切り運動をしたいのにすぐに苦しくなってしまうような状態で生活をしなければならないことのフラストレーションやストレスたるや、いかほどのものでしょう。外科手術をせずとも日常生活を健康に送れるよう、新しい犬種基準をつくったり繁殖戦略を立てていくことが、短頭種の健全性を回復するための長期的な取り組みとして必要です。

重ねて言いたいのは、BOASやそれに関連する症状を「短頭種だから当たり前で、正常なこと」と流さず、その症状に慣れてしまわないことです。飼い主が犬に与える獣医療は一昔前と比べれば格段に上がっていますが、その一方で病気を抱えたまま生活していることに何の疑問を持たない人がいる現状もあります。繁殖戦略や犬種基準の改正などは時間がかかることですので、今を生きている短頭種の生活の質を少しでも良い状態に保つためには、まず、BOASを病気だと捉える目をひとりひとりが持つことが重要だと思っています。

【参考文献】

Brachycephalic obstructive airway syndrome: much more than a surgical problem. Veterinary Quarterly. 42(1):213-223. 2022

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