体験型動物愛護教育の重要性について

文:サニーカミヤ


[Photo by Annie Spratt on Unsplash]

動物愛護管理法の目的の一つに、「動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資する(動物の心身の健康と安全を守る社会を)」ことが掲げられている。

ここでいう「動物の愛護」(Protection of Animals)とは、主にぺット(犬や猫等)に代表される家庭動物を対象としている。愛情や優しさを持ち、対象動物の習性等に配慮して取り扱うこと、すなわち、動物に対するその習性等に十分配慮した適正な飼養を中核とした人間の側からのアプローチであり、人と動物とが共生する社会の実現に向けた、より良い関係づくりを目指す行為の総体であることとされている。

また、動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)の第3条では、下記のように定められている。

(普及啓発)第三条 国及び地方公共団体は、動物の愛護と適正な飼養に関し、前条の趣旨にのつとり、相互に連携を図りつつ、学校、地域、家庭等における教育活動、広報活動等を通じて普及啓発を図るように努めなければならない。

■飼い主・国民の意識の向上(写真付き事例集)

環境省 _ 人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト | 事例紹介
人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクトに賛同するみなさまをご紹介します。

ただ全国的に見ても、絵本やツールを通して、生体抜きの頭で学ぶ動物愛護教育がほとんどであるのが実状だ。動物との対面型、介在型など、生きている動物と触れあったり自分と同じ命である心の温もりを感じさせるという愛護教育は、日本にないとは言わないが、非常に稀である。双方の心身の安全配慮を行いながら、柵越しにでも動物と対面したり触れあう教育が望まれるところだ。それが行われないのは他国の事例などを比べると課題として感じられるところである。

人と動物が心身を触れあう教育の意義は何か

人が動物と心身を触れ合う相乗効果の高い教育(接触型と非接触型)の意義をどのように位置づけるか、ここをまず考えなければならない。

双方にとって、どのような意義や社会的効用があるのかを議論するのが一つ。それについては他国の事例ですでに十分に議論されており、その結果として作成されたマニュアルがある。その中からエビデンスも含めて説得性が高いものを部分的に選択しながらカリキュラムを作成したり、指導者のトレーニングを行えると思う。

たとえば、動物愛護センターで、人馴れをしており攻撃行動の可能性が著しく低い動物との触れ合いを経験させるのはいかがだろうか。直接又は映像等を通して見ることに比して、動物がどのような環境でどう生きるべきか、という具体的な意識が人々に沸き起こりやすくなる。

このやり方であれば、場合によって動物側へのメリットも十分に期待できる。長年、一緒に暮らしていた飼い主から放棄され、精神的ショックで苦しんでいたり、人恋しがっている動物もいるはずだ。彼らは人と触れ合うことで、気持ちが少しでも満たされるはずだ。

人と動物双方の心身の健康に効用があると判断した場合、次に考えなければならないのは、人と動物の安全性の管理である。どのような形態で触れ合いを行うべきかを評価し、判断する必要がある。

人側にとって、動物との触れ合いは咬傷事故や感染症の危険があり、人間の健康安全の保持に支障をきたす可能性がある。が、咬傷事故防止についてはセイフティーマズル(安全な口輪)を着用することで予防でき、感染症については事前検査で予防が可能であると思われる。

動物にとっては、 過剰なストレスを生じさせられたり、不適正な扱いを受けたりすることがあり、動物の健康安全の保持にも支障がでる可能性もある。

しかし、大事なのは交通事故で死ぬかもしれないから、道路を歩かない、車を運転しないというような、1つの問題があると99の効果を否定するようなひとくくり的な議論は避けるべき、ということだ。


[Photo by Minnie Zhou on Unsplash]

他国における体験型の動物愛護教育

一例として、以下のビデオをご覧いただきたい。動物愛護教育を感情的、情緒的な表現(「かわいそう」、「かわいい」等)で評価して伝えるのではなく、目の前の命を客観的・理性的に理解したり配慮したりすることに重点が置かれている。それを実践できる人材を一人でも多く育てることが、重要な目的になっているのが伝わってくる。

とくに10才くらいの子供たちが社会科見学のような形で動物愛護センターを訪れ、収容動物の気持ちになってみたり、その子ができる新しい家族の見つけ方を考えさせてみる、そして日常的なケアを実践してみたりすることは大切だ。子供たちが心を動かされるような、命へ配慮するための教育がいかに子供たちの成長過程で大きく影響を与えるかを考えねばならないと思う。

もちろん、動物が苦手だったり動物アレルギーのある子供は、動物愛護センター内のフラワーガーデンで花や木の気持ちになってみたり、季節の昆虫たちなどの生き物と触れあったりする自然から学ぶプログラムを準備するなど、社会的な配慮も必要である。

こちらのビデオ(↓)では、動物愛護をボランティアなどを通じて自分の中で相対化することで、より身近に学ぶ機会を与えている。

現在、動愛法第3条の普及啓発は努力義務であるが、いずれは、文部科学省の「特別活動」「特別の教科(道徳)」で、最低10単位(小学校は1単位45分、中学校は1単位50分)くらいの義務教育にした方が、動物愛護のさらなる普及はもちろん、若年層の動物虐待や犯罪抑止にもつながるのではないかと思う。

子供向けの国際的な動物愛護教育マニュアルとしては、下に挙げたものが代表的であり、世界各国の動物愛護センターや学校教育などで活用されている。

■Protecting our Tomorrows:
A Teacher’s Role in Promoting Child Safety and Animal Welfare

【Facilitator Manual】

クリックしてhumane_education_manual_for.pdfにアクセス

【Participant Manual】

クリックしてhumane_education_manual_for_1.pdfにアクセス

【Lesson Plans for Teachers】

クリックしてhumane_education_lesson_plans.pdfにアクセス

■The Guide to pet care and bite prevention

https://rabiesalliance.org/resource/want-friend-be-friend-english

日本でもこれらの資料を翻訳させていただき、動物愛護センターで、動物への安全配慮や対処方法、動物の気持ちの読み方、人と動物との共生についてなどの教育が行われるよう、心から願う。ただし、このマニュアルを読んでいくと、動物愛護教育は心を動かす人材育成教育だと強く感じるが、「では、誰が教えるのか?」が課題になることが目に浮かんでくる。

動物愛護センターの職員の方々も、学校の先生方も、すでに多忙で、これ以上負担を増やすことは困難だろう。ならば、環境省と国内の動物愛護関係団体があり方検討会を行い、国際動物愛護協会などと連携して、日本向けのカリキュラムを作成し、インストラクターを育てていくことができればと考えている。

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本国際動物救命救急協会代表理事。一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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