犬の自由はひとりひとりの意識がつくりだす!ゆる〜りスウェーデン紀行④

文:尾形聡子


藤田家近くの湖で遊ぶラッコとミミチャン。[photo by Rikako Fujita]

日本に住んでいると、海外での犬生活環境に対して「いいなあ」と羨ましく思うことが多いのではないだろうか。混み入った地域で犬と暮らしてきた私にとって、海外は都会であっても犬とゆったり散歩ができる広い公園があってノーリードにすることができたり、車がなくても公共の交通機関を使えたりと、犬との生活の自由度が高い感覚を抱きがちだった。

でもそれは単に自由なのではなく、都会だろうがどこだろうが、そこに暮らす人々の意識の持ち方、そして犬たちがしっかりトレーニングを受けているからこそ享受できる自由であるということを、スウェーデン滞在中に身をもって感じた。朝の散歩中の出来事だった。

藤田りか子さんの暮らすスウェーデンの家の近くには大きな湖がある。湖の周りは別荘地になっていて、国内はもとより海外からも夏のバケーションで多くの人がやってくるという。なので、その時期は散歩に気を使わなくてはならないと藤田さんから聞いていた。

散歩は基本的に、カーリーコーテッドのラッコはオンリード(詳しくは文末の記事をどうぞ)、ラブラドールのアシカとミミチャンはノーリードなのだが、勝手にあちこち走り回っていいというわけではなく、藤田さんの合図で自由に走り、また藤田さんの合図でピッタリ脇について歩くという感じを繰り返すものだった。人とばったりしない場所かどうか、車がやってくる危険がないかなど、周囲の様子を見つつ藤田さんは合図を出していた。そして、犬たちはしっかり藤田さんの合図を聞き、守っていた。


散歩の途中、藤田さんはラッコのためにボール遊びの時間を設けている。その時にはアシカとミミチャンはブラブラせず、しっかり藤田さんの近くに座って待っている。[photo by Satoko Ogata]

アシカはもとより若犬のミミチャンにも呼び戻しがきっちり入っていて、

「こうやって呼び戻しができると犬は本当に得しますよね。だからこそ自由に遊べる!」

呼び戻しができること、犬がリラックスして待てること、この二つは事あるごとに重要だと感じている。普通の家庭犬なら、これさえできていれば犬の自由度と生活のしやすさをアップさせることができるからだ。そんなことを話しながら湖のほとりから戻ってくるときのこと。別荘の地区に差し掛かるあたりで遠くに犬の声を聞いたミミチャンは、そっちの方へ吠えながら走っていってしまった。

藤田さんが慌てて呼び戻すもミミチャンの方が一足先だった。普段とは違い、私と話をしながらの散歩だったため、呼び戻すタイミングが遅れてしまったのだ。少ししてミミチャンが戻ってきたが、そっちの方から子犬を抱いた中年の女性がやってきた。そして、藤田さんとスウェーデン語でのやりとりが始まった。言葉がわからなくても、相手の女性が怒っているのは明らかだった。

やりとりが終わると藤田さんは3頭をピッタリつけて(ミミチャンとラッコが左右に、アシカは藤田さんの後ろと位置が決まっている)歩き始めた。恐ろしい顔をした女性はジーッとこちらを睨み続けている。「リードをつけないでも犬をしっかりコントロールできるのかどうか見せてみろ」ということになったのだと藤田さんは言う。もちろん藤田さんにとっては3頭をつけて歩くことなど朝飯前。ゆるやかにカーブした道をひたすら進み、女性が見えなくなるまでそのまま歩き続けた。

この出来事があって、スウェーデンでは相手に指摘するのはそこなんだ!と驚いた。日本だったら、「犬をコントロールできるか見せてみろ」などと言われることはまずないだろう。ノーリードだったということ自体ではなく、犬をコントロールできるかどうかが重要で、そこが飼い主の責任だと捉えているということだ。

そして藤田さんの記事「スウェーデンの犬の管理法とノーリードの解釈」を思い出した。

スウェーデンの犬の管理法とノーリードの解釈
文と写真:藤田りか子 スウェーデンは公共における動物の管理についてはかなり厳しい。ヨーロッパでもほとんど唯一、レストランに動物を連れ込むことができな…【続きを読む】

この記事の中に「飼い主の行いは、かなりシビアにまわりの人々にチェックをされている」と書かれている。まさにその通りだった。たとえリードがついていようとも、あまりに行儀の悪い犬であれば、きっとスウェーデンの人たちの多くは眉間にしわを寄せるだろうし、もれなく注意をしてくる人もいるはずだ。

こうやって、ひとりひとりが犬との生活への意識をしっかり保つことで、飼い主としての責任感も高まり、犬のトレーニングレベルも維持されていくことになるのだろう。だからこそ得られる自由を、ドッグスポーツなどを通じて犬と一緒に楽しもうとするモチベーションへと繋げていく人が多いのかもしれないとも思った。

つい私たちは、「ノーリードで遊びたい」とか「カフェに犬を連れて入りたい」とか、そういう目先のことばかりを要求してしまいがちだ。けれど、大事なのはそこを実現させられるかどうかではなくて、犬の自由の範囲を広げるために飼い主がどれだけのことを犬に対してできるか、というところなのだと思う。飼い主としての責任意識が高まり、人も犬も両方の行動が変化してくれば、自ずと犬との暮らしの自由度が高まってくるのではないだろうか。

飼い主責任=終生飼養だけでは決してない。犬と人のワンウェルフェアを考えるのであれば、犬の自由を最大限に広げるために何ができるのかを考えられるような社会になっていく必要がある、そんなふうに感じた出来事だった。

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どうしてラッコだけがオンリードなのかを知りたい方、呼び戻しのトレーニングをちゃんとやりたい!という方はこちらの記事をぜひどうぞ。

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呼び戻しとロングリード・トレーニング その2
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