文:尾形聡子
[Photo by Antoinette van de Rieth]
犬の毛色やパターンはとてもバラエティに富んでいて、私たちの目を大いに楽しませてくれるものです。そんな毛色を作りだしているのはたった2種類のメラニン色素、ユーメラニン(黒〜茶色)とフェオメラニン(赤〜黄色)で、これらのどちらがどんな割合で、どの場所に沈着するかによって決定しています。
犬の毛色やパターンが豊富なのは、メラニンを作りだしたり輸送したりする遺伝子に突然変異が起きているためです。その遺伝子本来の働きが突然変異により変化すれば、作られるメラニン色素の色や形などが変化したり、沈着する場所が変わったり、はたまた色素そのものが作られなくなってしまったりすることがあります。
希釈遺伝子:ダイリューション
犬の毛色を変化させる遺伝子のひとつにMLPH(melanophilin)遺伝子があります。MLPHの変異により毛色が「希釈(Dilution)」されるようになることから、英語の頭文字をとってD遺伝子座と呼ばれています。この遺伝子変異による毛色の希釈は犬だけでなく、猫やマウスなどのほかの哺乳類やニワトリなどの鳥類でも幅広くみられることがわかっています。
これらの動物においてこのMLPH遺伝子はメラニン細胞で作られたメラニン色素を毛や皮膚などへ運ぶために必須のタンパク質で、Rab27A、MYO5Aという遺伝子が作るタンパク質と一緒に複合体を形成して色素の輸送を行っています。今現在、犬の毛色の希釈にかかわっていることが分かっているのはMLPH遺伝子の変異型だけですが、MLPHだけでなく、