「おもちゃとトリーツ、犬はどちらのご褒美を喜ぶか研究」にちょっと一言

文と写真:藤田りか子


おもちゃのカモと本物のカモ、どっちをとる?

比較に意味があるのか?

犬曰くでいつも世界最新犬研究に関する記事を書いている尾形さんがある日

「こんな最新論文があったんですけれど、記事にして書くべきなのか…」

と迷っていたようなので、どれどれ、とそれを見せてもらった。

「あらま、ほんと。これはちょっとねー」

論文のタイトルは日本語に訳すと「トリーツとおもちゃ、犬にとってどちらが効果ある強化子なのか」。アメリカはフロリダ大学の心理学部Lazaroら(2023)の研究だ。確かにちょいとトホホな研究であった。犬のご褒美として「おもちゃ vs トリーツ」でどちらがより価値が高いのか比べるというのだ。これはかなり無意味な比較だ。なにしろ単純に、どっちがいい、どっちが悪いと断言できるものではない。犬と真面目にトレーニングしている人なら

「状況によります」

とみな答えるはずだ。

科学とは複雑な事象を、一つ一つの要素に分解して事実を突き止めるという作業である(そして個々の事象がわかったところで、全体を把握するという試みでもある)。ただしこの方法が「犬の強化子」を調べる際に役に立つのか怪しい。機械ならどの環境にいっても同じように作動するだろう。しかし犬はそうではない。環境に左右されるし、なにしろ飼い主という環境、すなわち「関係性」も犬の行動の仕方におおいに影響を与える。上の研究であれば、犬がこれまでにどうおもちゃと関わってきたことによっても嗜好は変わりそうだ。

犬の強化子(ご褒美)を比較する研究というのは実は過去にいくつも発表されている。ただ比較対象が、ご褒美として同じ性質を持つもの同士で行われてきた。社会的ご褒美同士を比較したものには、FeuerbacherとWayne(2015)の報告がある。これは尾形さんが記事「犬は言葉で褒められるよりも撫でられるのがお好き」にまとめているので参照されたい。それからどのタイプの食べ物がモチベーターとして効果的なのか、トリーツをペアで提示し、どちらかを選択させてその犬の嗜好の相対的な評価を試みた研究もある。たとえば魚と馬肉と鶏肉のうちどれが好きなのか、魚vs馬肉、馬肉vs鶏肉、鶏肉vs魚の総当たり戦で選択させる。このうち一番選択率の高いものが犬の一番好きなものとしてランクづけられる。

おもちゃはフレキシブルな強化子

さておもちゃというのは、食べ物や褒め言葉と異なり、やや分類のしにくい微妙な強化子だ。

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