文:尾形聡子
自分が上機嫌なのか不機嫌なのか、自ら言葉を発さなくとも愛犬はいつもお見通しと感じたことはありませんか?犬と暮らす方ならば、犬は人の表情を見分け、その人がどのような感情にあるのかを理解していることを信じて疑わないのではないでしょうか。
今回の研究を行ったのはオオカミと犬を比較する認知研究でも有名なウィーン獣医大学 Clever Dog Lab の研究者らです。これまでに、犬が人を顔で識別することができるとする研究結果はでていましたが、人以外の動物が人の感情的な表情を区別することができることを初めて科学的に証明できたとし、その結果を『Current Biology』に発表しました。
研究者らは20頭の犬に、タッチスクリーン上に並んで映し出された人の笑顔と怒った顔とを見せ、片方のグループには笑顔を、もう片方のグループには怒った顔を見分けるトレーニングを行いました。トレーニングでは、同じ人での二種類の表情を撮った写真を使用しながらも、たとえば”眉間のしわ”と”口元にこぼれる歯”といった犬が表情を判断するための材料が二つ揃わないよう、顔の上半分もしくは下半分だけを映し出し、犬に見せるようにしました。
こうして並べられた15組の写真から笑みと怒りとを区別できるようになった犬に、まったくの新しい顔、トレーニングで使用しなかった上下いずれかの半分の写真、トレーニングで使われた人の縦割にした左半分の写真などを含む4種類の組み合わせを使ってテストが行われました。
犬たちは偶然を超える正解率で、笑顔もしくは怒り顔を選択していたことから、人の表情を識別できているのを証明する結果となりました。また、笑顔を選択するようにトレーニングされた犬たちは、怒った顔を選択するようにされたグループよりもかなり早く識別できるようになったそうです。これについて研究者らは、犬は笑顔をポジティブな意味と、怒った顔をネガティブな意味と結び付けているとも考えられるとしています。
犬は人と比べると非常に優れた嗅覚と聴覚を持つものの、視覚による空間分解能力は人のそれよりも7倍低いと評価されていました。しかし今回の実験から、犬の視覚への能力が過小評価されていることが考えられ、オオカミや他の動物を使っての類似テストを行っていきたいと研究者らはいっています。
犬は家畜化の過程で人と親密な関係を築くための手段のひとつとして、人の感情に適応していくためにこの能力を獲得したのかもしれません。それが今、私たちと犬との生活の中での絆形成に大きく役立っているのです。
(本記事はdog actuallyにて2015年2月19日に初出したものを一部修正して公開しています)
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【参考サイト】
・University of Veterinary Medicine, Vienna, Press Releases