電気ショックと、かなりきわどい話(犬のトレーニング)

文と写真:藤田りか子

先日、取材である犬の専門家のセミナーを拝聴することができた。内容は犬と人間との関係、そして犬の学習、というものなのだが、一部の内容はとてもショッキングであった。その部分だけ、ここで披露しよう(よってこれがセミナーの全てと思わぬように!)。

結論だけ先に言うと、犬の電気ショックカラーも使いようによる、ということ。この表現はちょっと大袈裟すぎるかもしれないが、先を読み進められたい。セミナーが開催されたのは私が住むスウェーデンであり、電気ショックカラーはもとより、プロングカラーも動物愛護法で禁止されている国である。セミナーに参加したのは、学習理論をばっちりと詰め込み、知識と経験豊富な新しい世代のドッグトレーナーたち。古いドッグトレーニングの型にはめられず最近の教育を受けているために、犬の世界にオオカミの群れとリーダーシップ論比較を持ち出すことをあまり信じないのも、彼らの特徴だ。

そしてセミナーのスピーカーは、トビアス・グスタフソンさん。犬を対象にした動物行動学で、大学での学位を取得。のみならず、麻薬犬やトラッキングドッグなど、数々の職業犬をトレーニングしてきた。現在携わっている学問的研究は、クマの保護とトラッキング犬の活用について。ただしトビアスさんはクマ犬の研究自体には触れず、ひたすら人と犬との関係についてスピーチを行った。

彼が電気ショックカラーについての話を持ち出したのは、私たちと犬との関係を語るためである。犬に私たちがいつもストレスを与えることで、どれだけ関係が損なわれるか。すなわち信頼関係でもあるのだが、その時にネズミでの実験を例に出した。

ネズミに3通りの条件を与える。
1)このネズミは電気ショックがいつくるか分からない、というケージに入れられている。
2)このネズミは電気ショックが来る前にアラーム音が聞くことができる(つまりアラームが鳴ると電気ショックがくる、という仕組み)。
3)このネズミは電気ショックが来る前にアラーム音を聞くことができ、かつレバーを押すことでショックの到来を阻止することができる、という学習をさせてもらっている。

誰の実験だったか聞きそびれてしまったのだが、この中で一番ストレスのレベルが低かったのが、ケージ3に入れられているネズミであった。それどころか、ストレスの症状がまるでなかったということ。そして一番ストレスレベルが高かったのが、ケージ1の、ショックがいつ来るか分からない、というネズミ達。そしてさらに興味深いのは、ケージ2の「電気ショックが来ますよ~」というベルを聞かされているネズミも、それほどストレスのレベルが高くなかったという結果だそうだ。

ここでトビアスさんが言いたいのはもちろん、電気ショック・カラーの奨励ではない。しかし、嫌な体験なるものが予め予想できる、あるいは動物自身がコントロールできるものであれば、それほどストレスを感じないで済む、ということ。

「というわけで、電気ショックというと私たちは、「なんてこと!」と強く反応してしまうかもしれませんが、実はリードで犬をガツン!と引っ張るということも、犬の予想不可でいつも起きていれば、そして彼らにその因果関係を分かってもらえなければ、大変なストレスを与えているということなのですよ」

似たような研究論文が、2006年にドイツのE. Schalkeらによって発表されているのを発見した。これは、獲物を追いかけようとするビーグルに電気ショックを与えて、それを阻止させるための効果について。ひとつのグループでは、動く仕掛けのあるウサギのダミーに触ったら電気ショックをうける。もうひとつのグループは、狩猟をしているときに呼び戻しを無視したら電気ショック。そして最後のグループは、脈絡関係なしに電気ショックを与える。ストレスレベルが一番低かったのが、最初のグループ。次が、呼び戻しで言うことを聞かなかったらショックが与えられたグループ。最初のグループに比べると、ここではかなりのストレスを課したらしい。そして特に一番最後のグループのストレスレベルは、非常に高いものであった。

ここでも結果は同じだ。ウサギのダミーに犬が触るか触らないかというのは人間にはっきり見えるし、ここぞ!という時にショックを与えることができる。だから犬はすぐに因果関係を理解できるのだ。しかし呼び戻しというような状態だとタイミングが難しいし、何が罰されたのか、犬には分かりにくい。それに、呼び戻されるのはウサギを見つけているさなかなのだ。

トビアスさんは言う。
「犬は人間との関わりで(物理的にのみならず、感情的にも)生きている、非常に珍しい動物です。だから私たちが犬に「嫌な思い=ストレスを与える」ことで敏感に反応するし、それだけ信頼関係が壊されてゆくのですね。罰を与える、という訓練では、よって、タイミングが全てです(もちろん褒める訓練も同じだが、失敗しても犬にあまり影響を与えない)。」

だから考えようによっては、電気ショックも犬との信頼関係を崩さずに使えるといえば使えるツールになるのだ。そのためには、訓練者は犬のボディランゲージを読めて、適切なタイミングで電流を与えなければならない。しかし大抵の場合、犬は電気ショックの罰を受けても、先の実験で見た電気ショックがいつ来るか分からないネズミの気持ち、あるいはでたらめに電流を流されたビーグルの気持ちなのだろう。トレーナーや飼い主のタイミングが悪くて因果関係が掴めないまま電流のショックを受けることになるのだから、ストレスは最大となる。だから、ショックカラーは勧められないのだ。それに人間というのは、効果が上がらなければどんどん刺激を強くしてゆく。こうなると、完全に動物虐待である。

そしてリードを強く引っ張って犬に教えるという方法も、タイミングが悪ければ電気ショックと同じぐらいストレスを与え、結局は飼い主との信頼関係をこわしてしまうということ。

「でも、どうか皆さん、覚えておいてください。犬との関係というのは、訓練者が学習理論だけ分かっていればいいというわけではなく、犬に安心してもらえる、という感覚も同様に大切です。褒めるか、罰するか、のどちらの方法が学習の効果を上げるかという論議と平行して、信頼関係ということにも注目をぜひおいてほしいのです。」
とは、トビアスさんのセミナー最後の言葉である。

(本記事はdog actuallyにて2014年3月12日に初出したものを一部修正して公開しています)