文:尾形聡子
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犬の外見上の特徴をつくりだす毛色や柄は、色をつくりだすメラニン色素の産生にかかわる遺伝子によって決定されています。それらはいわゆる「毛色遺伝子」と呼ばれるものですが、中には「こういう毛色をつくりだす遺伝子があるはずだ」という仮定のもとに想定されている遺伝子も含まれています。
犬の毛色遺伝の礎を築き上げたのはC.C.リトル。20世紀半ば、ワトソンとクリックにより遺伝子の本体はDNAであり、2重らせん構造をとっているという世紀の大発見があったその頃、リトル博士は犬の繁殖データから毛色や柄の決定に関わる9つの毛色遺伝子を仮定し、毛色遺伝について解説した本を出版しました。1957年のことです。リトル博士はとても有名な遺伝学者で、アメリカのメイン州にあるジャクソン研究所という世界屈指の遺伝学研究所の創設者でもあります。
出版されてから60年以上経った現在もなお、研究者や犬の繁殖に関わる人にとって、その本は犬の毛色遺伝の教科書的存在です。リトル博士が想定した犬の毛色の遺伝について、DNAレベルでの研究ができるようになり、彼が書いていた通りであったことが数々証明されてきました。しかし、唯一外れていたといってもいいだろうものに、C遺伝子座がありました。
リトル博士は犬のクリームやホワイトはC遺伝子座に位置する遺伝子が支配していて、その変異型の中のひとつがもっとも顕著な表現型をとるアルビノであると想定していました。マウスなどほかの動物においては、彼が想定したC遺伝子座に該当するアルビノ遺伝子が見つかるも、どうやら犬では違いそうだという状況が続きました(犬のアルビノ研究については『ホワイト・ドーベルマンとアルビノ犬研究』を参照ください)。