ロックダウンによる犬の運命は?オーストラリアから

文と写真:五十嵐廣幸


多くの家の窓にはクマのぬいぐるみが飾られるようになった。学校に行けない子供たちが退屈しないよう、限られた散歩の合間に”ベアハント”を楽しんでもらうためだ。

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)で私たちの生活は大きく変わってしまった。2020年3月30日、メルボルンのロックダウンはより厳しい規制であるステージ3に引き上げられた。これは屋内、屋外に関わらず3人以上で集まると(同居家族を除く)1,650オーストラリアドル(約11万円)の罰金が課せられたり、ソーシャル・ディスタンスと呼ばれる他者との距離を最低でも1.5メートルとらなければならないといったものである。またメルボルンからシドニーへの移動など、州境を超えることも禁止になった。ロックダウン解除の見通しはたっておらず、ここオーストラリアでも不安な生活が続いている。

依然として終わりが見えてこない、このウイルスとの戦いにおいて、人間だけでなく、犬もまた影響を受けているはずである。

オーストラリア政府は「Stay Home」という外出禁止令をすべての国民に向けて発令したが、例外がある。その一つが犬の散歩だ。公な理由があるからだろうか、私の住む地域では、家族全員で犬の散歩をしている姿を頻繁に見かけるようになった。平時では母親と思われる女性だけが犬の散歩をしていて、それがまるでデフォルトのようであったのに。滅多に犬の散歩に行っていなかっただろう人物を見かけるたびに、人間の自分勝手さを感じざるを得ない。今回の外出禁止を機に、閉じ込められるようにして家でずっと留守番をさせられている犬の気持ちに気づいてほしいと願ったりもする。

しかし一方で、これまで退屈な日常生活を送っていた犬たちにとっては、今回のコロナ騒動でストレスから解放されているように感じることもある。ステージ3の発令前までは、遠出できない飼い主たちの多くが、運動の代わりと言わんばかりにドッグスクールに通うようになった。スクールでは感染を防ぐために、ハンドラー同士の距離を広くとったり、他者のリードなどに触れるのを禁止したり、インストラクターが生徒の犬を使ったデモンストレーションをしないという方針に変えたりした。にもかかわらず、ドッグスクールはいつもより賑わいを見せていたほどだ。

このコロナの騒動によって打撃をうけた飼い主も当然いる。子犬を飼い始めた友人である。ロックダウンになったために、飼い主たちが集まることが禁止され、パピースクールがキャンセルになってしまった。また飼い主同士が近づけないがために、散歩中の犬同士のあいさつや遊びなど、子犬にとって必要な社会化トレーニングすらも難しくなってしまったからだ。

子犬の社会化期は人社会に生きる犬が健全に過ごすために、なにものにも代え難い大事な期間であるのは言うまでもない。さらに、これからの犬生に必要な礎を身につける大事な行動が制限されてしまうことは、犬だけでなく飼い主にとっても大きな不安を残すことにもなる。


オーストラリアでは公園にある子供の遊具が全面使用禁止になっている。

今現在、オーストラリアでは犬の散歩は「必要な行動」として認められている。ただし、ロックダウンや外出が禁止されている国や地域の中には、外に犬を出すことすらできないところがあると聞く。だからオーストラリアでも、感染が広がれば犬の散歩を禁止される可能性があることも想定しておかなければならないのかもしれない。

社会化が十分にできなかった世界中の犬たちが、これから半年後や一年後、どのような形で私たちの前に現れてくるのだろうか。散歩やアクティビティがままならない犬たちのストレスが危険な結果になってほしくないと考えるのは私一人だけではないはずだ。

平穏だった日常を一気に打ち壊した新型コロナウイルスは、健康や経済だけでなく、我々の愛する犬にも大きな爪痕を残してしまうかもしれない。

4月6日、メルボルンのロックダウンは3週目に突入した。新型コロナウイルスの終息がいつになるのかは誰も知る由がないが、オーストラリアのスコット・モリソン首相は少なくとも10月までは、他者とのソーシャル・ディスタンスが必要だろうとの見解を述べている。クリスマスを過ぎてもこのままの状況である可能性も高いと考えている専門家もいる。

ウイルスに完全に打ち勝つにはかなりの時間がかかるかもしれない。だが、人々が見えない恐怖に怯えて暮らさなくてすむように、一刻も早い事態の収束を願うばかりだ。

 

文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ