あなたもしているかもしれない犬へのハラスメント

文:五十嵐廣幸 写真:藤田りか子

「これ怖いか?怖いだろう!!」と黒犬。「僕はネコじゃないから君のキュウリのおどしにはのらないよ。それより、それ分けろよ。食べるから」と茶色君。

もの言わぬ犬の気持ちを理解することは難しいのだろうか?

前回の記事、安易なSNSの「いいね!」は犬の福祉を助長せずや、どうしてまたやるの、犬種ブーム。ザギトワと秋田犬人気に物申す。この二つの記事に共通して言えることは、犬のアニマルウェルフェアの大切さ、犬という動物へのリスペクトである。どうして飼い主はしらずしらずのうちに犬にストレスを与えてしまうのだろうか。今回のテーマはズバリ、あなたもしているかもしれない犬へのハラスメントである。

ハラスメント慣れ?!

ハラスメント:他者に対する行動が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益、脅威、深刻な苦痛を与えること。

日本のサイトでパワハラやセクハラなどのニュースを見かけない日はない。多くのメディアでそれらの注意喚起が行われているにもかかわらず、次々と問題が湧き出てくるのはなぜだろう。それは、もしかしたら自分の中にある「嫌に感じること」が「深刻な苦痛」という状態になる前に、その問題を解決するというコミュニケーションが不十分であることが一つの要因のように思う。

苦痛を受けた側は、相手に分かりやすくNOとハッキリ伝えず、また逆にハラスメントをする側は、相手の言葉や表情から気持ちを真摯に汲み取ろうとしないために、お互い、または一方の行動が改善しないままに嫌がらせ行為がズルズルと続いてしまうのではないだろうか。たとえば、私が住むオーストラリアではアルコール・ハラスメントやカラオケ・ハラスメントというものは無い。それは自分が嫌だと思った瞬間に相手にハッキリと「不快です」と伝えるからである。そのため相手はすぐに強要することをやめ、素直にごめんなさいと謝ることも多く、ハラスメントの問題にまで発展しないのだ。

犬にごめんは伝わらない

少し前にYou Tubeなどで猫にキュウリを見せて驚かせる動画が数多くアップロードされた。猫に強いストレスを与えている映像を撮ること自体、私には理解できないが、その一方では、驚く猫の映像を見て愉快に感じる人が大勢いただろうことも見過ごしてはならない。

当たり前のことだが、人間は動物と共通の言語を持ち合わせていない。つまり、それは犬や猫を驚かせたり、叩いたり、蹴ったりした後に「ジャジャーン!これはどっきりカメラです!」とか「うそうそ、今のは冗談。傷つけるつもりはなかったんだよ」というような言葉でのリカバリーができないということでもある。人間の「ごめんなさい」という言葉は動物には通じないのだ。

人間から恐怖や痛みなどの苦痛を与えられた犬や猫などは、それ以降、同じようなシチュエーションになる度に「また後ろに怖いモノがあるかもしれない」と警戒し続ける。犬の場合はその恐怖から自分の身を守るために、怯える、逃げるだけでなく、唸る、吠える、咬むといったアクションを起こして強いストレスから解放されようとする。しかし、犬がそのような行動をとる原因を考えようとしない飼い主は、攻撃するという一部分だけを切り取って「うちの犬は凶暴だ」「人に懐かない」と、それを「犬の問題行動」として決めつけてしまう。ときに飼育放棄にまで至ることもあるだろう。犬のストレス行動の原因は、100%飼い主が作りだしているかもしれないのに。

[photo from Pixabay]

犬に譲歩するというコミュニケーション

犬がストレスなく暮らすためには、飼い主が犬という動物の本能を理解し、彼らが必要とする行動を十分に満たす環境を提供することが欠かせない。つまり、飼い主が犬に譲歩するという方法だ。前述したように我々人間と犬との間には共通の言語がない。だから、犬に自分が忙しいからアレコレできないといった言い訳は通じない。それよりも、犬に必要な行動がとれるような生活を提供することの方が、無理なく確実にコミュニケーションできる。では実際にクレート、犬の散歩、長時間の留守番という例で考えてみよう。

1. クレート・犬小屋
人間と暮らす犬の多くは、彼らに必要な巣穴を自ら作ることが難しい環境にいる。犬が本来の姿で安心して休むためには、クレートや犬小屋が重要となる。飼い主はそれらを用意すればいいだけでなく、犬の巣穴として適切な場所に設置することも必要だ。また、犬は特別に寒さに強い犬種を除いては、たとえ、雨風をしのげる場所であっても屋外ではなく室内で飼うことが前提である。

2. 散歩
健康な犬であれば、その体の大きさに関係なく毎日の十分な散歩が大切であるのはいうまでもない。犬の体の動きや脳の使い方、そして犬の年齢によって散歩する時間は多少違うが、朝と晩、最低でも各1時間ほどの運動が必要であると言える。しかし、飼い主が、仕事が忙しいから、寒いから、雨が降っているからなどの理由をつけて散歩を怠れば、もれなく犬は運動不足や刺激不足になる。そうして吠える、脱走する、呼び戻しをしても戻ってこないなどのアクションを起こすことに繋がっていく。

3. 留守番
パックアニマル(群れを作りながら生きる動物)である犬には長時間の留守番は不向きだ。長い時間刺激がなく、ただ飼い主の帰りを待つしかない犬は、トイレットペーパーや枕を壊して遊んだり、粗相をしたり、犬が自分の足をなめ続けるような行動を起こすこともあるだろう。これをストレス行動と理解しない飼い主は、犬にいたずらをやめなさいと叱ったり、ケージに閉じ込めて動き回れなくしたり、足に不味いクリームを塗るなど人間目線の方法で問題を解決しがちだ。

そのような犬に本当に必要なのは退屈な時間を減らして、刺激のある時間をつくること、つまり留守番の時間を短くすることだ。だから、もしあなたが長時間(といっても限度はあるが)、家を留守にするのであれば、友人やドッグシッターに来てもらって犬と遊んでもらうようお願いしたり、出かける前にしっかり散歩をして犬に刺激を与えておいたり、犬をデイケアなどに預けて退屈せずに過ごせるようにする必要があると考えている。

また、散歩に行けないことで、飼い主が後ろめたい気持ちになり「代わりにオヤツをあげましょう」というような謝罪は犬に通じない。犬にとって散歩は大事な刺激を得る時間であり、オヤツはその代わりにはなり得ない。飼い主が犬に譲歩するというコミュニケーションは、犬を好きなように歩かせて、その後を飼い主がついて行くことでもなければ、犬に好きなだけ食べさせることでもない。犬が犬として生きる上で必要とすることを飼い主がサポートしながら成立させることである。

人間が犬の本能に反することをして犬にストレスを生じさせるのは、彼らの正常な行動を表現する自由を奪っていると言える。犬の耳、舌を動かすといった仕草だけでなく、唸る、吠える、物を壊す、粗相するといった行動は、恐怖や苦痛、退屈という彼らの感情の表れでもある。飼い主が犬の感情を受け入れず、無視し、そして対応を変えないのは、まさに人間社会のハラスメントがそのまま犬に具現されていると思えるのだ。

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文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ