安易なSNSの「いいね!」は犬の福祉を助長せず

文:五十嵐廣幸 写真:藤田りか子

「いいね!」やフォロワーの数が多ければ、それだけ写真やその発信者に価値があるものだと我々は思いがちである。だがそこに映し出されている犬の暮らしが、本当に「いいね!」に値するものなのかどうかは定かではない。

たとえば以下のような写真について、皆さんはどう思うだろうか?

  • 走る車の窓から顔を出している犬の写真。犬はシートベルトの装着もなく、車内に固定されているケージに入っているわけでもない。
  • 冬の東京、洋服を着ているゴールデン・レトリーバーの写真。

これらの写真に「いいね!」を押した人は、本当にその犬の姿を良いと思ったのだろうか。シートベルトを装着していない犬に対して「危ない」。洋服を着ているゴールデン・レトリーバーの写真に「暑そうで可哀想だ」。そう感じるのは私だけなのだろうか?

あなたの犬は車の中でも安全ですか?

私たちはシートベルトの重要性を知っているはずである。しかし同乗者が犬になった途端、その安全基準を一気に下げてしまう人がとても多い。どうして飼い主は、犬にシートベルトを着けることなく後部座 席に座らせたり、助手席の膝の上で抱いてしまったりするのか? また、そのような状態のまま車の窓を大きく開ければ、犬は外のにおいを嗅ぎたいと窓から顔を出すのは当然だ。上半身が車外に出ている犬の写真も見かけることがある。飼い主だけでなく、「いいね!」を押す人も車スレスレに走行するバイクや自転車との接触、犬が外へ飛び出すことを想像しないように思える。

たとえドライバーが「私は運転がうまい、事故を起こしたことがない」と運転に自信を持っていたとしても、突然目の前に自転車や猫が飛び出せば、反射的に急 ハンドルを切ったり急ブレーキかけたりするだろう。犬がシートベルトなどでしっかりとホールドされていなければ、犬はあなたの目の前でフロントガラスに叩きつけられて大きな怪我をするか、死亡する可能性が非常に高い。

なぜ、そのような写真に多く人が「いいね!」を押してしまうのか?

[photo from pixabay]

ゴールデン・レトリーバーの洋服について

2月9日、北日本を中心に広い範囲でこの冬一番の冷え込みとなった。その寒波の影響で関東地方でも雪が降った場所もある。しかし、私たち人間が寒いと感じる日であっても、果たして東京で飼われているゴールデン・レトリーバーに洋服は必要なのか?彼らの厚く密生した被毛やそのはたらきを知れば、状況によってはむしろ洋服を着ると暑いと感じることもあるのが分かるはずだ。で は犬種の特性を考えないで着せる洋服は一体なんのため?

基本的に犬は寒さに強く暑さに弱い。寒さに強い犬に洋服を着せることは肉体的、精神的な負担になる場合もある。そして何より走る、曲がる、ジャンプする、止まるなどの犬本来の動きが制約されてしまいがちなことや、洋服がなにかに引っかかるなどして怪我につながる可能性を考えると、特に運動時は基本的にヌードで遊ばせることをお勧めする。

私は犬に洋服を着せること対して一概にNOと言うつもりはない。サルーキーやウィペットといった犬のように脂肪が少なく、被毛が厚くない 犬種であれば都内の冬でも寒さでプルプルと震える日もあるだろう。だから防寒としての洋服が必要な犬種がいることも理解できる。また雷の音に怯える犬にはサンダーシャツを着せたり、真冬の雨や雪の日には、老犬や体が弱い犬が体を冷やしすぎないようにレインジャケットなどを使って、心身の負担を軽減してやる必要もあるかもしれない。 しかし、犬に洋服を着せるのであれば、防寒用に限らずどんな目的の洋服でも、犬の体温や呼吸などを常に把握して、着せた洋服は状況によって脱がせる必要があることを忘れてはいけない。また体が汚れるのを防ぐために洋服を着せる飼 い主もいるらしいが、健康な犬が遊べば汚れるのは当たり前。被毛についた汚れはブラッシングして落とせばいいだけだ。

「いいね!」ではなく犬を見て

上記に挙げた以外にも、犬に靴をいきなり履かせて、ぎこちなく歩く姿や戸惑ってフリーズしたまま動けない犬の姿をアップしたものなどを見ると、飼い主が犬の姿や行動を写真や動画に収めたいあまりに、目の前の犬が発しているシグナルを受け取れていない、もしくは無視してしまっていることがあるように思う。

犬にカワイイ洋服を着せることや、多くの「いいね!」を集めるための写真を撮ることよりも、リードを手にして散歩に行くほうが、その犬ははるかに幸せになれると私は断言したい。彼らが必要なのはSNSの世界にある、「いいね!」ではない。 飼い主と一緒に歩き、地面のにおいを 嗅ぎ、走り、ジャンプするといった犬として充実した時間を過すことだ。

「いいね!」が欲しい。もっと自分の犬に注目を集めたい 。そんな思いが犬にストレスを与え、犬の健全性を奪っているような気もする。その「いいね!」は本当に犬のためになっているのか甚だ疑問である。

文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ