ノーズワーク、トラッキング、ガンドッグ・トライアル… 嗅覚関係のスポーツ混ぜても平気?

文と写真:藤田りか子

我が親愛なる友のラブラドール・レトリーバー、アシカにはガンドッグ・トレーニングやノーズワークに加え、最近さらなるドッグスポーツの趣味が増えた。トラッキングだ。トラッキングとは嗅覚を使い足跡を追うスポーツのこと。ただし彼女が行なっているのは同じトラッキングでも狩猟で手負いになった獲物の足跡を追うタイプ。スウェーデン語では「ヴィルト・スポール Viltspår」、英語圏では「ブラッド・トラッキング」と呼ばれているものだ。このスポーツについての詳細は別の機会で紹介することにして、ここで考察を行いたいのは

「果たして様々な嗅覚スポーツを一頭の犬に教えても大丈夫か?」

何しろ各スポーツ、探すにおいは様々だ。もしや犬を混乱させるのではないか?

トラッキングをしている犬は鼻が地についたままでにおいを追うのが好ましい [photo by emmasin】

まずノーズワークであればアロマ臭を探すことに終始する。そしてブラッド・トラッキングではシカの足跡と血痕のにおいを、さらにガンドッグ・スポーツにおいては、ダミー(キャンバス布でできた物品)あるいは撃ち落とされたカモやウサギのにおいを探すのが仕事だ。

においを探すスタイルも各々のスポーツで異なる。ノーズワークやガンドッグ・スポーツでは空気中に漂うにおいをキャッチして臭源がどこにあるか辿ってゆく。つまり「鼻は上にあがった状態」だ。だが、トラッキングでは足跡を追うのでできるだけ地面にぴったりと鼻がついたままがよろしい。そしてトラッキング中は空中の浮遊臭にはできるだけ頼って欲しくない。なにしろ「においの雲」はわずかな空気の流れでつねに方向を変えながら漂う。そのため一旦鼻を上げると足跡(臭源)からずれることにもなり、次第にトラック(足跡のライン)を失ってしまう可能性は大となる。

そこでよく聞かれるのが

「トラッキングと浮遊臭を使うスポーツ(例:救助犬のサーチやノーズワーク)は両立するか?」

という心配だ。犬というのは何かを探す際にまず浮遊臭に頼る。その方が安易なのだ。よってサーチよりもトラッキングを最初にトレーニングするべきだ、と多くのトレーナーはアドバイスする。

(写真上)ノーズワークの競技会のシーンから。アシカはアロマ臭を一瞬感じて瓦の積まれたところをにおい始めた。
(写真下)よく見つけることができず、一旦鼻をはずして空気中に漂うにおいを取ろうとしているところ

私の経験や聞いた話に基づく限りだが、犬はそれでもトラッキングの時とノーズワークの時とちゃんと分けているとはっきり言える。アシカの場合はまずノーズワークとガンドッグ・トレーニングありきであった。生後8週目の時から遊びで行なっていた。トラッキングを教えたのは、彼女が一歳半になってから。確かに一番最初のトラッキング・トレーニングでは高鼻になり浮遊臭に頼ったのだが…。しかし、コツをつかむと彼女は地面にずっと鼻をつけて足跡を追い始めるようになった。私の友人の犬もノーズワークの競技会でさんざん競った一年後、アーバン・トラッキング(アスファルトの足跡を追うトラッキング)を習った。そして今や逃げて行方不明になった飼い猫を探す作業を職業的に行なっている。

さて、ではノーズワークのトレーニングを行なっている時に、ガンドッグの練習と犬はうっかり混同してしまわないのか?つまりノーズワーク中にアロマ臭ではなくダミーを探し始めようとすることだってあるのではないか?!あるいはその逆のこともありうるかもしれない。ダミーを探しあてたものの回収せず、ノーズワークの時のように臭源のところについた途端、フリーズしてただ見つめているだけだったりして!?(という冗談をよく友人と交わした)

いや、犬は私たちが考える以上に賢い。何事も状況で判断している。ノーズワークの競技会場に入ればアロマのにおいをかすかにでも彼らはすでに嗅ぎ取っているはずだ。さらに私は「ノーズワーク」の仕事着であるハーネスをアシカに着せる(特に競技会のとき)。これが彼女への「ノーズワーク・ゲームを始めていいよ!」の合図となる。

トラッキングは、ノーズワークの会場のような人工的環境ではなく森林など自然の中で行う。そしてこのスポーツではなんといっても10mのロングリードが犬に装着される。それだけで「地面に残されたにおいを追う」という仕事を彼らは連想するはずだ。ロングリードが扱いやすいようハーネスも着せるが、私は一応ノーズワークの際に使うものと分けている(もしかしてアシカにとってはあまり意味のないことかもしれない)。

ガンドッグのトレーニングを行う時は、私たちが車からダミーや鳥を出すなどその様子を犬たちは見ているし、さらにハーネスやロングリードが装着されることもない。回収に出す前は横にぴったりとついて歩いてもらうなど「オビディエンス」が要求され、これはノーズワークやトラッキングの際には絶対に起こらない。というわけで、それぞれのスポーツにそれぞれ独特の状況や一種「儀式」がある。犬たちはその「文脈」を上手に読み取り何が今求められているのかきちんと理解しているようだ。

ガンドッグの練習風景。これを見る通り、獲物やダミーが視界の効かない草丈の高いところに落ちれば、最終的には犬は嗅覚に頼る。

特にガンドッグをやっている者からの視点では、いろいろな嗅覚スポーツを取り入れ混ぜるのはトレーニングへの不利どころかむしろ利点になることの方が多いと思う。ノーズワークに必要な「細かく調査する」という鼻使いテクニックは、回収を専門とする犬が持っていて絶対に損はない。なにしろ、送り出されてからサーチエリアに入れば、大回りせずにあたりを細かくにおって探すやり方の方が効率はいいし、見つかる確率も高くなる。またトラッキングで得た「地面につけられたにおいを連続的に追う」という技も半矢の鳥を草むらで探す時に大いに役立つ。

もう一つ、いろいろな嗅覚スポーツを教える利点は、犬たちを飽きさせないことにもある。毎回ノーズワークばかりやるより、時に全く違った鼻の使い方をする遊び(たとえばトラッキング)を導入する方が、犬にとって新鮮で楽しい。それにせっかくこんな素晴らしい嗅覚器官を備えているのだ。その活用にバリエーションを持たせなければ犬に損をさせているような気持ちにもなる。愛犬の精神世界をもっと豊かにしてあげられるはずだ。