明けまして辰年!竜にちなんだ犬たち

文と写真:藤田りか子


シーズー。中国紫禁城で西太后によってかわいがられたという。まさに<ドラゴン(竜)・ドッグ>なのだ。

新年あけましておめでとうございます。今年も犬曰くをどうぞよろしくお願いします!

年明け恒例、干支にちなんだ犬種の紹介から。

しかし今年は難しい…。辰年。辰といえば竜であり竜に実際に関わりのある犬はいない。なんといっても干支の中で唯一の想像上の動物だ。竜といってまず思い浮かべるのは、かつてウチに出前によく来てくれた中華そば屋の皿の絵柄..、とほほ。しかし竜はそういえば中国において皇帝のシンボルであった。

と考えれば竜(中国の皇帝)に関連する犬は見つけやすい。シーズー、ペキニーズにパグ!いずれも中国の皇室で大事に飼われていた犬たちだった。ついでにチベットから中国の皇帝にささげられていた、ラサ・アプソやチベタン・テリアもこのカテゴリーに入れてしまおう!

皇室で可愛がられていた高貴な犬


獅子犬として、ペキニーズは中国の皇帝によって大切に繁殖を受けてきた。しかし現代のペキニーズは残念なことだがやや極端なみかけになってしまっている。そんなことで北欧などヨーロッパのケネルクラブは、極端な繁殖を受けた犬たちの健康問題について、最近徐々に取り組みを始めている

ペキニーズは、紫禁城で特別に繁殖を受けていたようで、後期の清朝の時代1800年の前半においてそのピークを迎えていた。西太后が、アメリカの要人にペキニーズをプレゼントとして贈ったこともあるそうだが、歴史的にこれらチベット及び中国系の小型犬たちは貴族によって大切に飼われ、売買ではなく、贈り物として人々の手に渡っていった。シーズーもそんな流通の中でできあがった犬種のひとつだ。中国の高貴な人々のいずれの犬種もペタンコな顔をしている点に気づかれたい。仏教のシンボル、そして守護のシンボルである獅子に似せようとした努力の賜物だ。ペキニーズが、「ライオンドッグ」とも呼ばれている所以。

かつての中国では純血種の登録なるものこそなかったが、犬を人為的に選択して「作り上げる」という概念はすでにあった証拠ともいえる。さもないと、これだけ多くの短頭種の犬が残らなかっただろう。今でも中国及びアジア一帯の小型犬は、ミックスですら概してペタンコ顔が多いのは、かの地を旅行した犬好きの方なら気がつかれたはず!

シーズーがチベットからの贈り物として中国にわたったのは、主に清王朝の時代。その頃は、おそらくラサ・アプソのような、やや尖がった顔をしていたに違いない。多くの犬歴史家は、城内で特別に繁殖を受けていた獅子犬、ことペキニーズとシーズーのオリジナル版が交わり、現在のシーズーのペタンコ顔ができたのではないかと考えている。

しかし、中国の皇室で大切にされていた短頭犬たちは、今日ドッグショーでみかけるほどに、当時はペタンコではなかったし、今ほどまでに極端な体型もしていなかった。パグなどは脚長でかなりほっそりしていたものである。極端なみかけになり、犬種によってはその健康すら危うくされているのは、現代のショードッグ繁殖によるものだ。

ワニの犬に見えないワニの犬


コトン・ド・チュリアール。マダガスカルでかつて牛をワニから守っていたとか(いないとか)。

今回は、ややこじつけになってしまった。どうせならついで、辰の話をさらに飛躍させよう。竜はそもそも中国の長江などに生息していたワニがモデルになったということだが、ワニに関する犬なら、存在する。どんないかつい犬かと思いきや、これぞ貴婦人の愛玩犬の決定版、コトン・ド・チュリアールだ。シルキーな白いコートがとても美しい、マルチーズのような犬だ。

この可憐な犬がどうワニにかかわるのか。コトンはヨーロッパに再復帰する以前は、アフリカ東海岸沖マダガスカル島で牛を集めたり守ったりする牧畜犬として働いていたそうだ。牛が訪れる水飲み場には、ワニが獲物を狙って待機していることもあるのだが、そのシーンにコトンが登場する。ピョンピョン飛んだり跳ねたり、まるで岸で遊ぶシギのごとく振る舞う。こうしてワニの気持ちを牛から逸らしておいて、その間に牛は安心して水を飲むことができる。


マダガスカルのワニ、ナイルクロコダイル [Photo by ]

犬種世界見回して、コトン・ド・チュリアールは歴史的に唯一ワニに関わったことがある犬種だ。あるいはオーストラリアにクロコダイル犬なるものもいるのかもしれないが、少なくとも犬種にはなっていないのは確かだ。