大きな犬は大きな家じゃないと暮らせない?

文と写真:尾形聡子

近所にある大きな日本家屋の前にて。築何年なのだろう?趣のあるお宅である。

「大きな犬二頭と暮すなんて、さぞかし大きなお家に住んでいるのね」

散歩をしていてよくかけられる言葉のひとつだ。バブル期の、庭付き一戸建てで大型犬と暮らすという流行の余韻がまだ残っているからなのだろうか。

もしも豪邸に住めるものなら。。。一度くらい住んでみたいものだが、宝くじにでも当たらない限り現実になることはないだろう。奇跡的に宝くじに当たったとしても、暮らすのは小さな家でいい。ただし、庭に犬が水遊びできる小さなプールを作るのが夢ではある。

私の暮らす東京ではあちこちで高層マンションが林立している。昔のように戸建てで、家の外に犬小屋を置いて外飼いをするような風景はほとんど見ることがなくなり、小型犬を家の中で飼うスタイルが定着してきた。

犬の飼育が許されているマンションでも、小型犬に限るとサイズに制限が設けられているところがほとんどである。狭いスペースでも小型犬ならば飼えると考えてしまう傾向があるのは否めない。都市化が進んで小型犬が増えるのは、日本のみならず世界的にみられる現象といえそうだ。

都会に限ったことではないが、限られた住居スペースで動物と一緒に暮らしている人も多いことだろうと思う。下町とはいえ私の住んでいる場所もそこそこ都会で、もれなく私もその一人だ。いや、正確には狭いというべきか。部屋全体が広い犬小屋で、そこに私も一緒に暮らしているというような感覚というほうが近い気がする。けれど、部屋でのタロハナの様子を見ていて、“部屋が狭くて犬たちに申し訳ないなあ・・・”と思ったことはない。

たくさん部屋があるような家で暮らしたとしても、タロハナは私の気配を感じられる場所で過ごすことをむしろ好むと思う。普通の一軒家に暮らす実家の犬たち(ラブラドール)を見てきても、やはり人がいる場所に一緒にいることを好んでいる。たとえば子どもがたくさん遊びにきてあまりに騒ぐなら、鬱陶しいから静かな場所へ移動しようとすることはあるかもしれない。けれど、日常生活の中で自ら進んで誰もいない部屋に行き、そこで静かに過ごそうとする様子は見たことがない。

そもそも家は休息をとる大事な場所であるから、ゆっくり身体を休ませることのできる、いくつかの個人スペースは必要だ。それがなければ、犬たちは精神的にも肉体的にも窮屈で、ストレスを感じながら生活することになってしまうだろう。広い家だとしても、犬が気に入っているスペースは案外決まっているのではないだろうか。だから、その場所さえ確保できているならば、どんなに大きな犬でも広くない家で十分幸せに暮らしていけると思っている。

犬たちが幸せに暮らしていくために絶対に欠かせないのは広い家ではなく、人とのコミュニケーション、そして散歩だと思う。

一般の家庭犬のほとんどは、一日のほとんどを家の中で過ごしているだろう。家の中や庭で十分に走りまわることができるような環境で暮らしているならば、肉体的な運動量はカバーできるかもしれない。けれども、家という敷地内での日常の中に新しい刺激はそれほど多くないはずだ。

犬は退屈をストレスと感じる生き物であるから、外に散歩に出かけることは肉体面のみならず精神面を充足させるためにも必須になる。散歩は犬の体の大きさに関係なく、心身ともに健やかに生きていくうえでなくてはならないものであるのを決して忘れてはならない。

さらに、狭い部屋の中でも精神的に充足させることのできる遊びもある。タロハナが小さなころから部屋の中で“宝さがし”ゲームをして遊んでいた。隠すのは小さなおもちゃ。宝探しゲーム専用のおもちゃを使うため、そのおもちゃを普段しまっている場所から取り出してきたのに気づくや否や、とたんに二頭はウキウキし始める。

おもちゃを発見した後にご褒美がなくとも、嬉々として隠されたおもちゃを探す。食い意地のはった二頭であるのに。犬はそう、鼻を使いなにかを探し出すことが大好きな生き物なのだ。そんな様子は藤田さんの『エウレカ!効果とノーズワーク』にて紹介されているので、是非とも動画も一緒にご覧いただきたい。宝探しゲームは狭い部屋でも問題なくできる貴重な遊びだと思う。そして、犬にとって楽しい遊びを一緒にすれば、お互いの絆を深めることにもつながっていく。

さて。最初に戻って。

「大きな犬二頭と暮すなんて、さぞかし大きなお家に住んでいるのね」

といわれた時には、これまで書いてきたことを説明したいところなのだが、

「いえいえ、狭いんですよ。でも狭くても十分生活できますよ」

くらいの返事でとどまるのが関の山だ。下町の狭い路地、散歩中の立ち話もそうそう長くできない。

犬にとっては家の中でどう過ごすのかが重要であり、毎日家の外に出て運動し、五感を使って新しい刺激を感じ取ることが何よりも大切だ。豊かな自然の中での暮らしと都会暮らしとは違ってくるだろうが、都会で一般的な生活を送るならば、犬の暮らしの満足度は家や庭の広さと比例するとは限らない。人が広い家にあこがれるような感覚は犬には備わっていないはずだ。

そして、たとえ広い家や広い庭があっても、散歩という行為に置き換えることはできないし、人との関係性が希薄ならば精神的にも満たされない暮らしとなるだろう。逆に狭い部屋だとしても、犬に幸せな暮らしを提供することは人次第でいくらでも可能だと思うのだ。

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