テリアはイギリスの専売特許?

文と写真:藤田りか子


ドイツの狩猟犬テリア、ジャーマン・ハンティング・テリア。ペットとしてだけでは飼われることはない。多くは実用の狩猟犬。

テリアといえばイギリス原産ということになっているが、世界には非イギリス原産のテリアもいる。しかしその歴史を紐解いてみると…ここにいくつか外国テリア犬種を紹介してみたい。

オーストラリアン・テリア

通称オゥシーとも。しかしオーストラリアン・シェパードのようにアメリカ生まれなのにオゥシーと呼ばれているわけではない。本当にオーストラリアで育ったテリアだ。元を辿れば、その先祖はイギリスのテリアに行き着く。オーストラリアにイギリス人が入植した際に、牧羊犬とともに自国からテリアも連れていた。農場で害獣を退治してもらうにはもってこいのイヌだろう。この頃連れられていたテリアは、イギリスに当時いた古いタイプ。赤あるいは黄色のカラーにボディにはブラックあるいはブルーのサドル柄、そしてワイヤードヘアーに柔らかいアンダーコートをたくわえたテリア。これら純イギリス産テリアは、オーストラリアに住んでいるうちに、その気候や自然状態にあうよう、徐々に変えられていった。それを基に1800年代にはタスマニアで意図的な繁殖が初めて行われた。メルボルンのショーに1872年に始めて出陳されたという記録があるので、その頃すでにオーストラリアン・テリアとしてタイプが固定されたと考えていいだろう。

オーストラリアから、オーストラリアン・テリア。ヨークシャー・テリアのようだけれども、このボサボサ感に見られるテリア独特のたくましさが特徴だ。さすがオゥシー!

ジャーマン・ハンティング・テリア

1900年の初期、ドイツ人がイギリスのテリア、特にフォックス・テリアの作業性能に失望したのが、ことの始まり。それはドッグショーなるイベントが考案されたばかりの頃。イギリスの各地のテリア種が、純血種として様々な犬種名でショー・デビューを果していた。しかしショーが盛んになるにつれ、見かけのいいイヌを作るということに繁殖者の情熱がつぎ込まれてしまうわけで、本来の狩猟犬としての性能が、その頃からどんどんなおざりにされてしまったのだ。猟が大好きなドイツ人は、当時ショー用に改良されてしまったフォックス・テリアの猟性にがっかりする。

そこで狩猟家が納得できるテリアを、とジャーマン・ハンティング・テリアがドイツでできあがった。ジャーマン・ハンティング・テリアはブラック&タン(レバー&タンも存在する)。何故こんな色のテリアを代わりに作ったのか?このあたりがドイツらしい。新しいテリア種を作ろうと決意したドイツの狩猟家たちは、イギリスの猟用テリアが本来どんな姿をしていたのか、綿密に文献を調べたそうだ。その結果、それがブラック&タンだった。かけあわせに使ったテリアは、ウェルッシュ・テリア、フォックス・テリア、そしてレイクランド・テリア。これら3種は現在でもイギリスで猟犬として使われている。ジャーマン・ハンティング・テリアの犬種の固定化に成功したのは1950年代において。

アメリカン・スタッフォードシャー・テリア

ブル系テリアをテリアと呼ぶのは正直なところ、ちょっと抵抗がある。というのも、彼らは本来の意味でのテリアには当たらない。つまり、地中に入って猟をするために造られたイヌではないからだ。しかし地中で猟をしていたとき必要だった勇敢さとファイト精神は、確実に受け継がれている。だからこそ、ブルテリア系のイヌは当初闘犬として活躍していた。闘犬は1835年にイギリスでは禁止されたが(他の多くのヨーロッパ国でもこの頃違法となっていた)、アメリカではOKであった。闘犬として繁殖を受けていたテリアとブル系のミックスはアメリカに渡り、そこで更なる改良を受けて今のアメスタへと発展を遂げた。現在は闘犬時代の性格は改良され、家庭犬として愛されるように。しかし、飼い主が誤ると、彼らがもともと持っているファイト欲が社会的に「好ましくない」方向に使われてしまうこともある。誰もが容易に飼ってはいけない犬種だ。

イギリスが原産ではないテリアは、他にも、チェコのチェスキー・テリアなどがいるし、オーストラリアにはシルキー・テリア、そしてアメリカには、FCIには登録されていないような多くの狩猟用のテリアが存在する。ちなみに、ロシアのブラック・ロシアン・テリア、チベット出身の(そしてイギリスで改良を受けた)チベタン・テリアは、本当の意味でのテリアではない。

テリアってイギリスの専売特許?

テリアとは、狩猟犬、あるいは作業犬としての任務から最初は定義されていた。地中に入ってキツネやアナグマを見つけたり、それを穴から追い出す、かつ農場で害獣を退治する。そんな作業犬をテリアと名づけ、そして犬種として発展させていったのはイギリスにおいてである。

しかしこの言葉がラテン系であることからも分かるように、初めて「テリア」という言葉が使われたのはフランス。時は14世紀。そのときも犬の種類を表す言葉というより、犬の職種として記載されていた。しかしこの言葉は結局定着せず、16世紀における猟犬の本の記載によると、地中に入るイヌのタイプを彼らはバセット(=地に低い)と呼んでいたようだ。もっとも、今ではバセットというとハウンドの仕事を行う脚の短いイヌを意味するのだが…。

仕事の分類で定義するのなら「テリア」はイギリスの専売特許にはならない。フランスにもそういう犬がいたようだし、ドイツが原産のダックスフンドやシュナウザーも仕事上はテリアだ。一方で、犬種を名乗る際に「テリア」という名をつけてもらっているのは、やはりイギリス出身の犬に限られている。

イギリスが原産国ではないにもかかわらずテリアという名を連ねている犬種だって、歴史を調べれば、以上見てきたとおり。必ずイギリスのテリアがその起源にある。もし仮に、1800年代にドイツ人がテリアの仕事を課すためにダックスフンドとシュナウザーを掛け合わせて新しい犬種を作ったとしても、決して彼らはそれにテリアという言葉をかぶせて×××テリアなどとは名づけはしなかっただろう。