文と写真:藤田りか子

ミミチャンと元気になったラッコ(右)
以下は老犬ラッコの闘病記のようなもので、かなり個人的な話である。退屈される方もいるかもしれないが、もしラッコと似た症状を抱えるシニア犬と暮らしている人がいるならば、その方にとって何かしらの手がかりになればと思い、あえて記すことにした。というのも私がその渦中にいる間、彼の症状に該当する記録をネットの中で探せど、見つけることができなかったからだ。
………..
病気知らずでこれまで生きてきたラッコもさすがに歳には勝てない。昨年から体調をしばしば崩すようになったのは、何度かここで話してきた。特に昨年の11月から2月少し前までは、ラッコの容態に一喜一憂する日々が続き、今振り返ると
「戦ったな〜」
という感がある。
13歳と3ヶ月齢。このところ元気が出てきて、体に余裕が戻ってきたようだ。今までなら横になっていても、体がなんとなく緊張状態であることががしばしばあり、頭(というか顎を)をできるだけ高いところに置こうとしていた。それが、今ではソファの上でも完全にぐにゃりと体を委ねて眠りにつけるようになったのだ。ときにはソファから半分落ちかけたまま寝ていることもある。
シニアでもこんなふうに元気が戻ってくれたのも、身体版のレジリエンス、すなわち「ロバスト性」が彼に備わっているためではないかと思う。そのロバスト性が維持されたのは、ひょっとするとラッコの未去勢期間が長かったおかげもある…?かもしれない。「ロバスト性」を保つ要因については尾形聡子さんの記事「身体版レジリエンス、「ロバスト性」を左右するもの〜ご長寿ロットワイラーが示した意外な要因」でも詳しく触れているので一読いただきたい。

脚を投げ出し、ソファでリラックスして寝る
胃酸過多….?
さて、過去2ヶ月間、ラッコは夜になるとたびたび「えづき」を繰り返した。咳をしては、ゲーゲーやるのだが、何も吐かないという状態だ。最初はもしや「胃捻転?」と思ったものの、なぜか朝になると症状は消えているので、えづきの度にヒヤヒヤはしなくなった。とはいえ苦しそうにしているのを見るにつけ、
「これが続けば、ラッコの犬生においてQOLは維持できなくなるだろうな」
と、もしものことも考え始めていた。
獣医に行っても検査は正常で、とくに日中は回復しているので原因がわからずじまい。胃酸過多ではないか、と獣医師は胃酸を抑える薬「Losec(=オメプラゾール)」を処方した。それを与えたら、むしろ悪化。また大変なことを引き起こした。腹部にガスが貯留し、ラッコはほとんど意識を失いそうになるほど苦しんだのだ(入院して回復した)。
胃酸過多になるのは、生食が胃に過剰の刺激を与えるためなのか、とも考えた。ひとまずBARFは中止し、獣医クリニックで扱っている療法食ドライフードを試してみることにした。辛いことに、スウェーデンでは獣医のほとんどがBARFに賛同しない。だから、BARFのためにラッコがおかしくなっているのか、そうではないのか、の相談すらできない。BARFといっただけで露骨に顔をしかめられる。
ドライフードを水にふやかし、1日に3〜4回にわけて与えた。それでしばらくうまくいっていたのだが、ある日からまたえづき始めた。始まるのはたいてい夜8時を過ぎてから。そのうち8時の到来が恐怖にすらなっていった。何が原因なのだろう。便は正常だ。だから、腸の方は機能していると思われる。
ドライフード生活が何週間も続き、そのうちラッコのクリクリの巻き毛は、お尻にから背中にかけてしょぼしょぼになりはじめた。そして耳には耳垢がたくさんたまるようになった。以前ドライフードを与えていたときと同じ症状を呈し始めたのだ。
生食でもドライフードでも、えづきは結局起こることがわかったので、これならやはり生食に戻した方がよさそうだ。いきなり変えずにドライフードを継続しながら、そこに少しずつ生食を混ぜるという方法で慣らすことにした。食事のタイプが変わるので腸内環境が乱れるかもしれない。獣医の勧めでプレバイオティクスとプロバイオティクスの両方を含むサプリメントもしばらく与えた。
ところが、まもなく夜のえづきに続いて腹部の痛みの発作が現れるようになった。息をするたびに体を痙攣させた。相当な痛みだったのだろう。もしかしてサプリによって腸内発酵が過剰に進み、ガスが急激に産生されたのかもしれない。サプリは即中止とした。このときも、もうラッコはだめかもしれないと覚悟したものだ。しかし翌朝、またいつものように回復していた。ちなみに、プレバイオティックスは、ガスが溜まりやすい犬にとっては致命的であると、ホリスティック系で有名なアメリカの獣医師、カレン・ベッカーさんがポッドで語っているのをだいぶあとになって聞いた。
えづきが治る!
思い切って別の獣医師に夜のえづきについて相談した。するとその人はあっさり
「オンダンセトロンを与えましょう」
と薬を処方してくれた。オンダンセトロンは、もともと抗がん剤治療を受けている人の吐き気を抑えるために使われる薬だ。吐き気や嘔吐を引き起こす神経の働きを抑えることで、気持ち悪さを軽減する作用を持つ。まずは2週間継続して投与し、その後いったん休薬して様子を見るように、とのことであった。
この薬を食後すぐに投与するようになり、彼の夜のえづきがパタリと止んだ。とはいえ、薬によって症状が抑えられているだけなのかもしれない。腹部で何かが起きている可能性は残っていることも考えた。だが、2週間後の休薬期間中にもえづきは再発することなく、どうやら完全に消失したようだ。こうしてオンダンセトロンに頼る必要もなくなった。
こうなれば、彼をやっとBARFに戻すことができそうだ。生食を与えていたものの、できるだけ消化しやすいものということで、チキンの胸肉とカボチャのピューレしか食べさせていなかった。1ヶ月かけながら、BARFに移行。骨や内臓など徐々にいろいろな部位を導入した。そしてついにかつての通りの分量とメニューで食べられるようになったのだ。とはいえ、骨に関しては以前のように骨ごとはあたえず、ひき肉のマシーンで肉といっしょに骨もミンチにして与えている。老犬では胃の運動性が不安定になることもあり、消化管への負担をできるだけ抑えておきたかった。
胃の運動性といえば、食後に車に乗せることも今は避けている。車の振動によってなのか、食べたものの胃から腸への移動がどうも遅れるようなのだ。そのためにガスが発生し、ひどい腹痛をもたらすこともわかった。少し前までは問題なくできていたことも、加齢とともに一つずつ条件が変わってしまうようだ。
BARF完全復活
レバーや腎臓などの内臓肉の導入ができたときは、正直ホッとした。これらの部位には、赤肉では不足しやすいビタミンAやB群、銅、セレンといった微量栄養素が豊富に含まれている。血液の形成や免疫機能、皮膚や粘膜の健康といった、身体の基本的な生理機能を支えるうえで不可欠だ。耳に垢がたまったり毛の質が落ちたのも、それが欠如していたためではないかと思う。ただし内臓肉は消化管への負荷も大きいため、量は慎重に調整しながら、最後に導入した。

散歩の後は、昼飯の時間!朝と昼飯でその日の生食は終わり。これがラッコに一番いい食事スケジュールであることがわかった。
BARF完全復活ではあるももの、以前とは少し食事を与える時間を変えている。夜にえづく可能性はまだ捨てきれないので、18時以降は食べ物を与えないことにしている。そして、生食は朝と昼でコンプリートさせ、夕方の食事は胃腸が弱い犬用の療法食(ドライフード)を数十グラム与え、完全に胃を空にした状態で夜間を迎えないようにしている。胃の中にまったく内容物がない状態が長く続くと、分泌された胃酸が直接胃粘膜を刺激しやすくなり、早朝のえづきにつながることがあるためだ。
このような食事スケジュールは、ただしさまざまな試行錯誤の末にたどり着いたものだ。これはおそらく獣医師ではなく、日々の状態を観察している飼い主にしかできない技ではないかと思う。今回、複数の獣医師に話を聞きまわり思ったのだが、最終的にその犬の状態を最もよく把握しているのは、やっぱり飼い主なんだな、ということだ。もちろん、必要な検査を行い、医学的な診断を得ている前提ではあるが…。

若犬シャチは時にラッコに乱暴にまとわりつく。このような時はすぐに助けをだしてあげなければならない。ラッコは後脚に関節炎による痛みを抱えているからだ。
BARF100%が再開できたせいなのかどうかわからないが、最近のラッコの目には生気が戻ってきたような気がする。外に出て新雪がつもっていることがわかると、自分から走り出すこともある。
そしてもう一つ。リブレラの話を以前したが、ラッコのこの一連の不調はひょっとしてリブレラ投与後に起きた変化と何かしらの関係があったのではないか、と私はどこかで疑っている。リブレラをやめてもう4ヶ月たつが、体からはリブレラの抗体タンパク質はほぼ抜けているはずだ。そして当時後足を舐め壊し被毛が失われていたのだが、今はその行動も全くなくなり足には毛がきれいに生えそろっている。皮肉なものである。後脚の関節炎の痛み止めにと投与していたのに、投与をやめたら足を舐めるのをやめたのだ(足を舐めるのはたいてい痛みによる)。
彼のような大型犬が13歳を越してなお自ら走り出す力を保ってくれているのは、私にとってはすでに大の大の御の字だ。今の元気さをできるだけ長く維持して、残された日々を過ごして欲しいと思っている。

