2022年は寅年!気になるトラ毛の犬

文と写真:藤田りか子

あけましておめでとうございます!

新年の恒例、今年の干支に関係する犬の紹介である。寅年だからトラに関係のある犬。ただし、さすがにトラ猟をする歴史や特性を持つ犬は、犬種としてはみつからぬ。ライオンならローデシアンリッジバック、ピューマならドーゴ・アルヘンティーノという犬がいるのだけれど…。しかし、カラーと模様あでやかな犬種の世界ならでは。トラっぽいコートカラーを持つ犬というのはけっこういる。

たいていフォーンやタン色がバックグランドとなっていて、そこに黒い縞あるいはレバー色の縞が出て、まるでトラの毛衣のように見える。このタイプのコート模様を、犬専門用語ではブリンドルという。ちなみにスウェーデン語ではティーゲルと呼ばれ、この言葉の意味は文字通り「トラ」である。やや混乱してしまうのは、マール柄(ダックスフンドでいうダップル)をトラ毛とよぶ国もある。ドイツの古い牧羊犬オールド・ジャーマン・ハーディング・ドッグの一種であるマール柄の犬は「ティゲル」と呼ばれている。

マスティフ系

マスティフ系の犬には、トラ毛を持つ犬種が多い。グレートデーンのブリンドルは有名だ。そして大きさだけに見ごたえがある。ボクサーや、マスティフ、ブルドッグもその代表。ドーゴ・カナリオというスペインの牧畜番犬(かつ闘犬)など、スタンダードではフォーンを含んでいるものの、実際ほとんどがトラ柄である。

犬種によっては、体全体がトラ柄で覆われていないと、ドッグショーでは失格になったり減点をくらってしまう犬もいる。グレートデーンがその一種。一方でボクサーなどは全体トラ柄というのは稀だ。たいてい白いマーキングが存在するし、そのほうがショーでは見栄えがするので、好まれる。

ちなみに、マスティフ系のトラ柄というのは、単なるフォーン色の犬よりも、やや怖そうにも見える。闘犬としての歴史があり、体型がどっしりとした犬が集まっている系統なので、おそらく「凄み」を持たせるために、トラ柄が好まれ、選択圧がかかったとも推測できる。

マスティフ。フォーンにブラックマスクが多いが、ブリンドルも存在する。

スペイン、カナリア諸島原産のドーゴ・カナリオ。元は闘犬種。ヨーロッパでは人気があるが、国によっては危険犬種として分類されている。

サイトハウンドにも多し

トラ柄は、マスティフ系の犬たちと体型がまったくことなるのだが、サイトハウンドにも多く見られる。ウィペット、グレーハウンド、など短毛系の犬でははっきりわかるから、すぐに思い出す人も多いだろう。

長毛のボルゾイもトラ柄を持っている。最近のショーシーンでは白っぽいボルゾイが好まれているから、あまり明らかではないが、茶色のパッチ部分に実はトラ模様のストライプがしっかりとついているものだ。アフガンハウンドにもトラ柄が存在するが、毛が長く、ボルゾイのように白のバックグランドにパッチ柄、というパターンがないので、ややわかりにくい。

ちなみに、サルーキーにはブリンドルはほとんど存在しない。FCI公認のサイトハウンドの中で、イタリアン・グレーハウンドと並び唯一トラ毛がいない犬種であろう(サルーキーのスタンダードでは全ての色を認めているが、トラ毛は好まれない。また過去にトラ毛が存在したようだが、ほかの犬種と交雑させた結果とも)。不思議である。サルーキーの原産地につながったような感じで存在する北アフリカ原産のスルーギー(同様にサイトハウンド種)や中央アジアのタズィには、ブリンドルがいるにも拘わらず、だ。

ガルゴ・エスパニョール、またの名をスパニッシュ・グレーハウンド。スタンダードでは全ての色が認められているが、ほとんどはトラ毛。

ウィペットのコートカラーは多くが白地に斑やバイカラー。有色部分にブリンドルが入っている犬が多い。

トラ毛が特徴である犬種

多くの犬種にとって、トラ柄はコート・バラエティのひとつであり、ほかにもいろいろなカラーやパターンを備えている。一方で、稀であるがトラ柄がその犬種のアイデンティティそのものになっている犬もいる。というか、スタンダードではそれ以外を認めない。たとえば、日本犬の一種である甲斐犬。かならずトラ毛を持つ。それからオランダの牧羊犬種、ダッチ・シェパードもその代表だ。

日本犬、甲斐犬。

暗いトラ柄を持つのが特徴であるダッチ・シェパード。

ポルトガルのアゾレス諸島出身のセント・ミゲェル・キャトル・ドッグ。名前が示す通り牛追いの犬。耳を丸く断耳するのが島での伝統だ。

ポルトガルのカストロ・ラボレイロ村を原産とするカストロ・ラボレイロ・ドッグ。牛追いをする使役犬。ブリンドルが犬種の特徴となっているが、地元ではこの色合いをウルフカラーと呼んでいる。

意外なことに野生の犬、オーストラリアに生息するディンゴにもブリンドルは存在する。それもレアカラーというのではなく、黄色いコートの次に多いカラーバリエーションであることが最近わかった。その報告についてはこちらの記事「黄色だけと思っていない?ディンゴの謎に迫る、毛色バリエーション研究」を参考に!

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もうひとつ興味深い事実は、鳥猟犬の世界にはトラ柄を持つ犬がまったくいない。鳥猟犬種は、ひとつの犬舎で丹念に作られていた歴史があるから、ブリンドルに対する強い淘汰圧がかかったためだとも思われる。

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