文:藤田りか子
アメリカ・オレゴン州の東部で開催されているストックドッグ・トライアル。地元では単に「カウドッグ」と呼ばれているこれらストックドッグ(家畜を集める犬)は、ボーダー・コリー(あるいはそのミックス)である。彼らは羊を集める純血種のボーダー・コリーとはまた別のブリーディングラインで繁殖されており、牛と仕事をするのに適した気質を持っている。[Photo by Baker County Tourism Travel Baker County]
あけましておめでとうございます!今年も犬曰くでは犬にまつわるたくさんのトピックス、飼い主心理学、犬学研究、犬の行動、犬種、ドッグスポーツ、ノーズワークにガンドッグなど、飼い主さん、トレーナーさん、犬オタクさん、に満足してもらうべくありとあらゆる分野をカバーします。どうぞよろしくお願いします。
2021年犬曰く初記事は毎年恒例の干支にまつわる犬について。となると牛犬!犬曰くムック「牧羊犬のすべて」でも述べているけれど、羊を集める犬がいれば、牛の群れと仕事をする犬もいるのだ。
さて、牛犬の仕事というのは集めるというよりも牛をけしかける、というほうが正しいかもしれない。牛は羊や馬と違って簡単に逃げる動物ではない。敵が近づいてくれば、子牛をかばって群れの真ん中に入れる。大人牛たちはそこにとどまり頭突きで防衛する。だからちょっとやそっとで動かせるような動物ではない。
アメリカの牛追い犬、ブラック・マウス・カウドッグ (あるいはブラック・マウス・カー)。牛追い犬であるが同時に狩猟犬だ。その意味でカタフーラ・レオパードドッグとよく似ている。[Photo by AgriLife Today]
牛を相手に働く犬は精神的にタフマンだ。ボーダー・コリーの「アイ」(にらみつけて羊をおどし、動かす)といった微妙なニュアンスではとてもとても。だから牛専門の犬種は吠えたり、踵に噛み付いたりするなど、アクションはかなり派手なのだ。オーストラリアン・キャトルドッグやコーギーはその典型。コーギーに踵を噛まれたなんていう話もよく聞くはずだ。踵を噛んで牛を動かす犬は、踵の英語「ヒール」から「ヒーラー」とも呼ばれている。
筆者の住むスウェーデンにも、独自のヒーラーがいる。英名ではスウィディッシュ・ヴァルフンド。アメリカン・ケネルクラブでも14年前に公認されている。名前のヴァルというのは「家畜を集める」というスウェーデン語。訳して「スウェーデンの家畜集め犬」。しかし、英語圏でスウェーデン語の名前で呼ばれているにもかかわらず、現地ではまったく別の名が与えられている。ヴェスタヨータ・スペッツ(スピッツ)。ヴェスタヨータとは地名。この地方では牛の牧畜がさかんで、それで牛犬が誕生した。ヴァルフンドはコーギーと同様、胴長の短足犬だ。一説ではコーギーの祖先とも。イギリスのウェールズに、北欧のバイキングが入植しているのだが、その際に連れてきた犬だとか。ほんとかな?
スウェーデンの原産犬、スウィディッシュ・ヴァルフンド。牛を集めるのがその歴史的お仕事。[Photo byksilvennoinen]
ロットワイラーやジャイアント・シュナウザー、ブービエ・デ・フランダースも牛犬である。彼らも牛を集めるというよりも、市場に連れてゆくときに後ろから道草をくわないようにけしかける役目を果たしていた(追牧犬ともいう)。そして家畜が道中盗まれぬようガーディアンの役目も果たした。今はトラックで輸送するから追牧犬の出番はない。しかし、これらの犬種は牛犬としての訓練性のよさはもちろん番犬性のよさが買われ、近代では軍用犬としても活躍している。
ドイツからベルギー一帯には、ブービエ・デ・フランダース、ジャイアント・シュナウザーなど、牛追いを職業としてきた犬種が存在する。これは、ベルギーの牛追い犬、ブービエ・デ・アルデンヌ。非常に珍しい犬種。ベルギーでもわずかしか残されていない。[Photo by Rikako Fujita]
牛犬にはそのほかにも、ブルドッグやボクサーがいる。ブルとは雄牛だが、こちらは牛と戦わせる犬。かつて、ブルドッグは牛と戦えるほどきびきびとした姿を持っていたものだ。今は、ブル犬としての姿を強調させるよう、マズルはつぶされ、脚は短くとモデルチェンジし、性質は家庭犬として適するようにおとなしく作り変えられた。
以上新年の牛犬一考、意外に牛にまつわる犬は多いのである。
牛追い犬と牧羊犬については犬曰くの犬種ムック「牧羊犬のすべて」(↓)にも記されています。是非読んでみてね!