文:尾形聡子
[photo by Watcharin]
痛みは生きていく上で大切な感覚です。強い痛みを感じれば自然と体が防御反応を示し、なるべく痛い場所を動かさないようにするものです。ただし、痛みの感じ方は生物種によっても個体によっても、さらには状況などによっても異なります。たとえば捕食される草食動物は、少しの痛みにすら耐えられないようならすぐに肉食動物の餌食となってしまうでしょう。また、主観的な感覚でもあり、どこからが痛いと感じるかは人によってまちまちなうえ、痛みを感じたときの周囲の状況、不安感や恐怖感など気持ちの状態によっても痛さが違うように感じる可能性もあります。
神経を伝わって感じる痛みは皮膚からだけでなく、体の臓器からも感じます。そこが、痛みとよく比較されるかゆみとの相違点です。かつては痛みを感じる神経とかゆみを感じる神経は同じで、痛みの刺激が弱いものがかゆみと考えられていましたが、現在では別々の神経経路を通じて感じるものだということがわかってきているようです。ともあれ、痛みもかゆみも慢性化すると精神的なストレスがかかることは誰もが知ることで、それは種の異なる犬でも同じであることが昨今の研究で示されています。一昔前には「犬は痛みに鈍感」などと言われていたものですが、決してそうではないのです。
ちなみに、人の痛みに対する個体差があるように、犬にも痛覚の個体差はあると考えられていますが、痛みの感じ方にはどうやら犬種差もありそうです。犬種による痛みの違いについての研究は「痛がりな犬種?」と「獣医師が痛がりだと考える犬種は本当に痛がりか?を検証」にて紹介していますので、興味のある方はこの機会にぜひご一読ください。
さて、上述したように、痛みは主観的な感覚であるため、自分の痛みならまだしも犬の痛みとなると評価がさらに難しくなります。たとえば、うっかり愛犬の足先を踏んづけてしまった場合など、自分の目の前で起こる急性でリアクションを伴うような痛みならばまだしも、傍目にはわかりづらい慢性的な痛みを抱えている場合もあるからです。基本的に痛みはその期間(急性か、慢性か、断続的か)と強さ(軽度、中程度、重度など)に応じてさまざまな方法で分類されます。しかし犬の場合、一般的には犬の行動が変化したことから痛みがあるのを認識するなど、目に見えて明らかになるまで一緒に暮らす飼い主でも犬の抱える痛みになかなか気づかないこともあるものです。
そこで問題になってくるのが、慢性的な痛み(通常3〜6ヶ月以上継続する痛み)が原因となって起こる生活の質(QOL)の低下です。慢性的な痛みは正常な行動をとることの妨げになる可能性があるだけでなく、動きたいように動けないことからフラストレーションがたまるなど精神面にも悪影響を及ぼす可能性もあるため、犬のウェルビーイングに大きな影響を与えます。しかし犬の慢性的な痛みの多面的な影響についての理解は限られているのが現状です。そこで、イギリスのサリー大学の研究者らは、動物福祉評価グリッド(Animal Welfare Assessment Grid:AWAG)を利用して、慢性的な痛みに関連する兆候や予測要因を調査し、効果的な痛み管理戦略に