文:尾形聡子
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外部の情報を脳に伝える機能を持つ器官である目の構造は、動物種によってさまざまです。犬と人の目の構造は似ているものの、異なる点もあります。犬にあって人にはないのが瞬膜(第三眼瞼)とタペタム(輝板:光を反射する膜で、暗いところで目が光るのはこれがあるため)。また、犬と人の瞳孔は同じ丸形をしていますが、身近な動物では猫の瞳孔は縦長、馬や山羊などは横長の形をしています。
眼球の構造そのものではなく、人に特異的なこととして挙げられるのが、外から見える眼球部分が大きい、つまり横に長く白目までが普通に見える形をしているところです。なぜ人の目の外観が横長になったかという説はいろいろあるのですが、有名なものとしてCooperative Eye Hypothesis(協調的な目の仮説)があります。これは、瞳の色(虹彩)と強膜の色がはっきりと違うことで、目の動きや向きが分かりやすくなるため目を使ったコミュニケーションが円滑になり、社会性の発達に伴い進化させたのではないか、という説です。
例としてよく挙げられるのが、狩り。旧石器時代の人がグループで狩猟をするにあたり、言葉を使わず目の合図だけを使うほうが有利だったため、目が横に、そして白目が白色へ(大型霊長類の白目は茶色などの濃い色の傾向にある)と進化していったのではないかと考えられています。ただしCooperative Eye Hypothesisについてはまだ推測の域を出ないところもあり、2021年にはこの仮説に反駁する研究論文が出ています。ですが、大型の類人猿の中でも自己家畜化をして攻撃性が低くなり、社会性が高まったと言われているボノボは、近縁のチンパンジーと比べて瞳の色は濃く、強膜の色が薄いことが知られています(ボノボの自己家畜化については「新仮説と自己家畜化について 家畜化症候群その2」を参照ください)。
このように、進化という側面から人や大型霊長類の目の形態や瞳の色についての研究が続けられてきていますが、犬に関するそのような研究はこれまで行われていません。唯一、野生のイヌ科動物25種について、瞳の色と目の周りの毛色、そして視線によるコミュニケーションとの関係を調べた研究が2013年に発表されています。その研究では、ハイイロオオカミをはじめとするイヌ科動物の多くが明るい色の虹彩(瞳の色)を持っていることが示されています。オオカミのような明るい色の虹彩は、瞳孔の大きさやその変化、そして視線の方向が相手により伝わりやすいため、自然下でのコミュニケーションに役立っているだろうと考えられています。
オオカミの瞳の色と比べ、犬はどうでしょうか。